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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


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125話 日本領ニューギニア

南洋の果て ― 新南島パプアニューギニア


台湾島を発ってから数日、艦隊はさらに南へと針路を取った。

海の色は濃紺から深い藍へ変わり、やがて熱帯特有の強烈な太陽が甲板を焦がすように照りつけはじめた。


湿った風が帆索を鳴らし、塩と熱気が入り混じった空気が肺に重く沈む。

北方の氷原とはまるで別世界。

ここでは寒さではなく、熱と湿度が人を試していた。


艦隊の指揮官は艦橋で六分儀を覗きながら呟いた。

「南緯十度を越えた、もう間もなく陸影が見えるはずだ」


その声は、長い航海の終盤を告げる鐘のように静かに響く。

航海士が海図を広げ、潮流と風向を再確認する。

機関室では回転数を微調整し、速度を落とした。


昼下がり、見張りの声が鋭く空を裂いた。

「陸地、発見!東の彼方に高い山影!」


全員が視線を向ける。

雲の切れ間から、緑に覆われた巨大な山塊が姿を現した。

濃い密林が山腹を覆い、白い雲が頂を抱く。

それが、彼らの目的地、新南島(ニューギニア島)であった。


艦列は入り江を探しながら南東部の平地を確認し、波の穏やかな湾を見つけると、そこに錨を下ろした。

ディーゼルエンジンが静まり、代わりに波と鳥の声が響く。

遠くで未知の獣の叫びが木霊し、この地がまだ人の手に染まりきっていないことを告げていた。


「ここを港にする」


短い号令のもと、上陸用舟艇が次々に海面に降ろされた。

兵たちは熱帯の湿った風の中、汗を拭いながら杭を打ち込み、仮設の桟橋を組み始める。


地面は柔らかく、足を踏み出すたびに泥が吸い付く。

だが、日本から運ばれた鉄骨の支柱が深く打ち込まれ、強固な基礎が築かれていった。

蒸し暑さで視界が霞む中でも、作業の手は止まらない。


最初の港湾施設が立ち上がると、今度は背後の丘に測量隊が向かった。


「湿地が多いな、川も多い」

「水は豊富だ、農地にも使える」


測量官たちはノートに地形を記し、地図を描きながら水系と標高を細かく記録していく。

河口部の流速、干満差、地盤の硬度。

一つ一つが、将来の都市設計の基礎となる。


やがて仮設本部が設けられ、湾は「南洋第二開発港」と仮命名された。

無線塔が立ち、台湾との通信が確立される。


『上陸成功。港湾設営開始。水資源豊富、農地適性あり。』


報告はすぐに返ってきた。

『南洋の柱を築け。ここを太平洋南部の要とする。』


夕刻、赤い太陽が密林の向こうへ沈む。

空は炎のように染まり、その色が湾の水面に揺らめいた。


甲板では明日の作業計画が読み上げられる。

港湾拡張、倉庫建設、医療所設置、そして内陸部への調査隊派遣。


密林の奥には、まだ見ぬ資源と未知の地形が眠っている。

鉱脈か、肥沃な平原か、あるいは険しい山岳地帯か。


南洋開発の最前線であり、日本国の航路がさらに南へと伸びるための足場。


蒼い海と緑の大地の狭間で、新たな拠点の灯が、静かにともり始めていた。


 やがて、森の奥から人影が現れた。

濃い緑の葉の隙間を押し分けるように、褐色の肌に槍を持った原住民たちが姿を見せる。

その目は鋭く、しかし無闇に敵意を向けるものではなく、慎重に距離を測るようにこちらを見据えていた。

足元の落ち葉を踏む音さえ、張りつめた空気の中では大きく響く。


兵たちもまた銃を構えはせず、ゆっくりと手を下ろしたまま動かない。

互いの呼吸だけが、湿った熱帯の空気の中でかすかに伝わる。


先頭に立った通訳役が一歩前へ出る。

彼は両手を広げ、武器を持たぬことを示しながら、穏やかな声で呼びかけた。


「我らは敵ではない。この島を共に豊かにしたい」


言葉そのものは通じない。

だが、声の調子、姿勢、差し出された掌。

そこに込められた意図は、完全ではなくとも確かに伝わった。


兵たちは果実や色鮮やかな布、磨き上げられた金属の装飾品を静かに地面へ置き、ゆっくりと後ろへ下がる。


原住民の一人が恐る恐る近づき、手に取った。

別の若者は布の手触りを確かめ、目を丸くする。

金属の光沢に、彼らは低いざわめきを上げた。


緊張は、少しずつ、ほんの少しずつほどけていく。


やがて、村の長と思しき年配の男が前へ出た。

羽根飾りをつけ、深い皺の刻まれたその顔は、長い年月の重みを感じさせる。

彼は通訳役の目をじっと見つめ、ゆっくりと、はっきりと頷いた。


「共に暮らすことを、許す」


通訳がその意を受け取り、日本語で告げる。

その瞬間、兵たちの間に小さな歓声が上がった。

それは勝利の叫びではなく、安堵の息に近いものだった。


こうして最初の接触は、流血なく終わった。


調査隊は原住民の協力を得て、山間部や川沿いを探索し始めた。

彼らは森の道を熟知しており、湿地を避ける安全なルートや、急流を渡る浅瀬を示してくれる。


鬱蒼とした密林の奥で、岩肌に赤く光る鉱石の筋が見つかる。

川岸では、黒く重い砂が集まる地点が確認される。

地層の断面を観察し、燃料資源の可能性を持つ層を慎重に記録する。


標本は袋に詰められ、丁寧に番号が振られ、船へと持ち帰られる。

後日、本国で詳細な分析が行われる予定だった。


海辺では港湾施設の拡張工事が絶え間なく続く。

燃料庫と冷蔵庫、発電設備、通信所が次々と立ち上がり、仮設だった桟橋はやがて頑丈な岸壁へと変わっていく。


夜になると発電機の低い唸りが響き、白い野外照明が海面を照らした。

それはこの島で初めて灯る、人工の光だった。


森を切り拓いた場所では、将来の飛行場予定地として広い滑走帯が整地され始める。

湿地を排水し、地盤を固め、砂利を敷き詰める。

空と海を結ぶ新たな道が、少しずつ形を帯びていく。


「この島は、南方の守りとなる」


現場監督が汗を拭いながら呟く。

その視線は、完成しつつある港と、遠く広がる海を見つめていた。


「本土から台湾、そしてここ新南島へ南洋を結ぶ日本の道ができるんだ」


その言葉は、単なる夢想ではなかった。

既に航路は測量され、補給計画は立てられている。

島々を線で結び、それを面へと広げる構想が、着実に進んでいた。


夕暮れ、海の彼方に太陽が沈む。

空は黄金から橙へ、やがて紫へと移ろい、港に並ぶ船のシルエットが静かに浮かび上がる。


初めて灯った発電機の明かりが、島の夜に小さな星のように瞬いた。

それは文明の火であり、新たな時代の兆しでもあった。


こうして新南島(ニューギニア島)は、1621年、正式に日本国の保護下に入り、次代の南方資源開発と防衛拠点の中心として、静かに、しかし確かに、歴史の第一歩を踏み出すのであった。

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