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第二章 3

 目が覚めた。

 目の前には、二段ベッドの二段目のお尻が見える。元の世界に戻ってはいないようだ。窓の外は相変わらず明るい。太陽の位置も殆ど変わっていない。日が昇って沈むまでに、五日掛かるらしい。百二十時間も太陽が昇りっぱなしだ。数時間寝たくらいで、大きく動くわけもない。

 二段ベッドの上の段で眠っているリズの寝息が聞こえる。起こさないように制服に着替えて、外に出た。

 何度見ても、飽きることのない吹き抜けの空間。モナリザを毎日見ていたら飽きるだろうが、エッフェル塔で生活したなら、毎日でも飽きないだろう。面倒でうんざりするだろうが。

 下を覗くと、何人か見えた。全員制服を着ている。塔を経由して、一階に出る。北の玄関から、外に出た。

 朝の爽やかな空気はなく、強い日差しで地面に影を落としている。気温は春に近く、丁度過ごしやすい。城の壁の彫刻を眺めながら、芝生の上を歩く。見事な装飾だ。一部の彫刻だけでも、十分に価値はあるだろう。お腹は空いていないので、城の反対側にある学修棟に向かった。

 学修棟の入口は南北に二カ所ある。城は学修棟よりも北にあるので、北口から入った。学修棟より南側には、壁しかないので、そちらを使う人はいないだろう。

 円柱形の建物で、地下一階を含めた三フロアがある。そして、屋上が闘技場になるそうだ。建物の直径は五十メートル。高さは十メートル程。

 入口から入ると、すぐに廊下があり五メートル程進むと、廊下が左右にわかれていた。わかれた廊下は曲線で、円を描いている。入口から突き当たりの壁には、大きな扉がある。少しだけ扉を開けると、大きな円形の部屋があった。百人でも余裕で入るだろう。廊下の幅は三メートル程なので、単純計算で、直径三十四メートルの部屋だ。ただ、壁の厚みを考えない場合なので、もう少し短いだろう。その部屋の正面の奥側にもドアがある。曲線の廊下の反対側から、出入りする扉なのだろう。人はいなかったが、ドアを閉めて廊下に戻った。

 回廊を右回りに回ってみる。すぐ右手に二階と地下へ続く階段があった。左右の壁は曲線だ。右手側にはドアがあり、幾つか部屋があるようだ。丁度反対側にくると、右手に外へ出る通路と扉が、左手に大きな中心の部屋への扉がある。その外への通路のすぐ隣には、やはり、地下と二階への階段がある。廊下はこのまま一周出来た。

 つまり、中心に大きな広い円形の部屋がり、その周りを廊下が囲う。その外周に小さな部屋が幾つもある構造だ。二階も同じような造りだった。ただ、二階の方が外周の部屋の数が多く、中心の部屋は、ケーキを四等分したように、四部屋にわかれている。

 地下と屋上は立ち入り禁止だと、リズが言っていた。二階の外周の一室に入ると、マネキンみたいな、人形が立っていた。

 これがマリオネットだろう。顔はついていない。マリオネットは魔力で動くらしい。胸の辺りに石が埋まっていた。椅子や机があるだけで、あとは何もない殺風景な部屋だった。入口と反対側の壁も、勿論曲線だ。十等分にカットしたバームクーヘンのような形の部屋だった。

 魔力が無いと使えないので、本当に可愛くない『マリオネット』にしかならない。魔力が使えないやつは、思考の外なのだろう。高校に置いてある自販機は、一番上のボタンを押せない小さな子どもが使うことを、想定していないのと同じだ。そんなやつがいるとは、思ってもいない。魔力が当たり前の場所なんだろう。

 学修棟から外に出た。前から歩いてくる男が、こちらを見るとニヤニヤと笑みを浮かべて、近づいて来た。

「新技を開発したんだ。サンドバッグになってくれないか?」その男はそう言った後ニタッと白い歯を見せて笑った。背は高く、横にも広い男だった。もみあげが直角に折れ曲がる特徴的な髪形だ。無視して書庫に向かった。

 城の南側のドアから入る。すぐ左手には、大階段がある。この階段も使ってはいけない。成績優秀者は学費が免除されるように、ここでは、序列の高い一部の人に、特権が与えられるのだろう。でも、階段を使う権利を独占するのは、やりすぎじゃないだろうか?一部の人しか高速道路や体育館を使えなくするみたいなものか。その場合は便利な時もあるだろうが、この階段は、幅が広いので、渋滞することもない。

たぶん、過去に階段に腰かけて喋るやつがいたのだろう。それが邪魔でランカ以外使えないルールが出来たのではないか?注意しても直らない一部の馬鹿のせいで、制限が多くなるのは、どこの世界でもあることだ。異世界でもそうなのかもしれない。

 東に向かい、右側のドアから書庫に入った。横幅、奥行共に二十五メートル程。天井は低いが、書庫の建物の高さは五十メートル近くあるのを知っている。階段があるから、上の階が沢山あるのだろう。表紙の文字はアラビア語みたいなものだが読めた。気になる表紙の本を手に取って中を読むと、文法も理解出来た。全ての文字をカタカナかローマ字で書かれた、日本でいう専門書みたいな本だった。一冊読むだけでも時間が掛かるだろうが、この世界の歴史や魔力について、知っておきたい。

 制服を着た人を、数人見かけた。話しかけられることもなく、皆、本を選んで読んでいる。序列が低いと嫌われる、と言っても、いじめのように、直接被害があるわけではないみたいだ。それとも、嫌われているのは、リズだけなのだろうか?

 本を読んでいると、知らない単語が幾つも出てきた。最初は読み飛ばしていたが、それがあまりに多いので、辞書を探してそれで調べながら、読み進めた。この世界の文明レベルは、元の世界よりは低いらしい。一冊を流し読み終えて、次の本を探している最中に、外で会った太った男がいた。目が合って嫌な予感がしたので、無視することにした。


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