第70話 裸の付き合い
ここはヴェルフールの湯。
ヴェルさんが作った露天風呂である。
「「あ゛~~……」」
その露天風呂でデブとイケメンは揃ってだらしなくノびていた。
世界滅亡について連日連夜杖を使って調べてみたものの、その部分だけ切り取られているかの如く、全く杖から情報が引き出せなかった。
それでも検索をやめないで現在、湯船に浮きながら遠い目で月を眺めるジルベルトに俺は提案する。
「そろそろあきらめません?」
「……そうだねぇ」
ジルベルトが折れて弱音を吐き出していた。
ザバッと顔を湯船で洗いながら彼は佇まいを直す。
釣られて俺もしっかり対面するが、どうしたのだろう?
「無駄なことにつき合わせてしまって悪かったね」
「無駄だとは思いませんよ?
脅威に立ち向かうために脅威自体を知ろうとするのは当然だと思いますし」
「君はそういう人だよね。
でも僕の考え方ってこの世界だと結構異端だったりするんだ」
「そうなんです?」
「そう。
文明のほぼ全てを壊されて数百年。
あの時の事は当時を生きていたドラゴンなら誰もが見て、団結するために国まで作ったのに、
『あんな天災はもう起こらない』
って言うんだよ。
そんな保障なんてないのに……危機感が薄いんだ」
「危機感持ちっぱなしって言うのも息が詰まる生き方だと思いますけど」
「悟った言い方だなぁ。
まぁ否定は出来ないよ、僕がそうだから」
ジルベルトはどこか疲れた表情で大陸中を旅して調べ回った思い出話をしてくれた。
異世界人の言葉を必死で学んだり、彼らが残した文献を漁ったり。
その間に人間達は世代交代していき、当時のことは御伽噺として語られるだけとなってしまったそうだ。
そうすると今度は民間伝承や説話などを調べてまとめて……。
どこまでもひたむきに“真実”を追い求めたそうな。
それでも結局、滅亡させた存在についてもその原因についてもわからなかった。
「今となっては……そうだね、もしかしたら僕は意地を張っていただけなのかもしれないなぁ」
彼の万感の思いを込めた言葉は夜の闇に消えていく。
最後の希望であった賢者の杖も空振りに終わり、ジルベルトはどこか自嘲気味に笑っていた。
「……そうだ、ジルベルトさんの姉夫婦について教えてくださいよ」
俺は暗くなる空気が嫌で、他愛もない話題を振ってみた。
異世界人でドラゴンの夫で長生きとか、少し気になるし。
「あぁ、あの義兄さんのことかい?
そうだね、同じ異世界人として気になるよねぇ」
ジルベルトの目がいきなり据わった。
それから言葉を紡いで出てくるのは異世界人なんかそっちのけの姉への愚痴三昧。
……こういうところは異世界だろうが、人外だろうが変わらないんだなぁ。
話を聞いてわかったが、ドラゴンと結婚した異世界人の高橋というその男をジルベルトはとばっちりで嫌っているようだった。
だってこの高橋、暴れん坊の姉を倒して娶って農耕民族してる単なる日本人だもの。
しかも子煩悩で愛妻家。
どこにも嫌う要素ないじゃないかと言ったら、
「だって、義兄さん……凄く奇抜で優秀なのに僕に賛同してくれなかったんだもん……」
イケメンが“もん”とか語尾に着つけるんじゃない、子供かッ!
結局のところ、彼は仲間が欲しかっただけなのかもしれない。
仕方がないので、さめざめと涙目になっているイケメンを慰めていると、何処からともなく高笑いが聞こえてきた。
「奇縁に磨きが掛かっているなぁっ!
異世界人っ!?」
俺達が声のした方を振り返ってみると、ビッグマグナムを携えたゴー様が仁王立ちで俺達を見下ろしていた。
うん、なんでちょっとエレクトさせてんの、あんたっ!?
所用が入ってしまいましたので8日と9日の更新が滞りそうです。
次回更新は10日に行いとうございます。




