第37話 鋼の童貞力君が悲鳴を上げている
夜の砂浜、全裸の男女、共同作業……何も起こらないはずもなく
一通り落ち込んだところで、再度塩作りに挑戦!
今度はヴェルさんに水中内の砂やゴミのみを取り除いてもらい、海水を煮詰めていく。
「そろそろかな」
「白くなってきたのだ……」
入れた海水が10分の1くらいになったので、その間に作った甲羅鍋二号へと持っている中で一番小奇麗なボロ布で濾過しながら移し変える。
それからさらに煮詰める。
濾過してとれた硫酸カルシウムは拾っておいた巻貝の中に詰めて保存。
蓋は木から削りだした俺のお手製。
ナイフをくれた鍛冶の神様、これからは変態などとは呼ばずにしっかりゴー様と呼ばせていただきます!
「これが塩か?」
ヴェルさんが舐めようとしたので慌てて止めた。
さらに煮詰めている間、混ぜる以外にやることが無く、暇になってしまったので交代で散策することに。
「海藻ゲットだぜ♪」
ヴェルさんがうらやましそうに海藻をつかんだこぶしを振り上げている俺を見た。
交代して今度は鍋をかき混ぜる。
ちなみに火で身体がひりひりしてきたのでローブを着て混ぜている。
ヴェルさんは相変わらずだが熱くはなかったのだろうか?
「か、貝殻ゲットだぜ……ッ♪」
頑張って貝殻を見つけて恥ずかしそうに同じポーズをとるヴェルさん。
「それ中身入りっぽいよ?」
「うひゃっ!」
貝から水鉄砲をかけられるヴェルさん。
怒ったヴェルさんが貝を採りまくった。
調べたら食用できる貝だったので開いてる甲羅鍋を使って砂抜きを試みることにする。
そうこうしている間に塩が完成!
少々雑味があるものの紛れも無く塩である!
まだ水分があるがまぁ問題ない。
ちなみにヴェルさんは、
「~~~~~~~ッ!!」
いきなり大量に舐めてしまったため悶絶していた。
すぐに魔法で生成した水で口をゆすいでなんとか処置完了です。
この子、たまに子供みたいなことするなぁ。
にがりも出来たのだが、使いどころがないため泣く泣く捨て……なかった。
気になって一度賢者の杖で調べてみる。
「それ捨てないのか?」
にがりも舐めて、また悶絶していたヴェルさんが涙目で聞いてきた。
「石鹸に使える……はず。ちょっと待って」
「なんとっ」
「違った、併用すると美容効果があがるんだって」
「ふ~ん……」
あんまり興味なさそうなヴェルさん。
まぁ風呂に入れても良いらしいので入浴剤代わりに使うことにしよう。
夜は砂抜きした貝をヴェルさんが魔法で作った石板で焼いてバーベキューをした。
小ぶりな貝だったが味が濃く、蟹よりも断然旨かった。
ヴェルさんは焼けると口を開く貝たちが面白かったらしく、一気に焼かずに数個ずつ焼いては歓声を上げて食べ、焼いては歓声を上げて食べ、を繰り返していた。
……かわいい。
夜の海を見ていると、ふと思いついて賢者の杖で検索をかける。
「また何か調べてるのか?」
「うん……おっ、いけそう」
俺はお目当ての音楽を流す。
落ち着いた、夜の海に合う音楽が流れ始めてヴェルさんが食事を止める。
「良い音だな……」
「ジャズっていうジャンルの曲なんだ」
「この雌も良い歌声だ……なんと言っているのだ?」
「わからないんだなぁこれが」
「ククッ、スズキの世界の言葉なのにか?」
「あっちは国ごとに言葉が違うからねぇ」
「共通言語のあるこっちとは違うのだな……」
自然とお互い寄り添いながら海の向こうを見る。
ジャズと火の灯り……そして……。
男なら1度は憧れるシチュエーション……。
「娯楽としても優秀な道具、それが私ッ」
そんな中にイルカが唐突のエントリー。
……アッハイ、そうですね。
「こんなところで盛るなんてこれだから童貞は……」
はい、言い返せません。
……ちょっと下心が否定できなくなって、結局2人してそのまま眠った。
本日の教訓。
漫画的シチュエーションに憧れたからって不用意にムーディーな雰囲気にするのはやめましょう。
(何か起こるとは言っていない)
イルカの証言。
「2人が盛ろうが別に気にはしませんが、
身奇麗にもせず蟹の死骸に囲まれた初体験というのはいかがなものかと出張った次第です。
他意はありません。
リア充死すべし、慈悲はないとか思ってないです、本当です」




