↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
PR
20/37

文也の記憶


「何を言ってる?」


文也は、突然何かに怯え出した。

テーブルに置いた手が、小刻みに震える。


思わずその手を、じっと見詰める翔太と桜。


文也は脂汗をかき、激しく動揺した目が2人の視線と合わさった時、慌ててテーブルの上の手を引っ込めた。そして、身体を丸めた。


寒いの?翔太は、突然様子の変わった文也に動揺した。


確かにクーラーは付いているが、寒いと言うより、今やどこへ行っても省エネを呼び掛ける時代、多少温度は高く設定していて、実際少し暑いと翔太は感じてた。


やっぱり桜が直球過ぎたんじゃないの?大丈夫?


文也の顔は青褪め、生気を無くしていた。


震えを止めようとしているのか、必死に自分で自分の手を強く握って見る。だが、震えは治るどころか益々激しく全身を揺らした。


その様子を、ただ見詰める翔太。


桜の方はと言えば、文也の顔を覗き込み目を合わせ、静かに話し掛けた。


「何に怯えてるの?もう、終わりにしようよ」


落ち着いた桜の声が、何故かその場の雰囲気を一掃した。


暗く淀んだ空気が春風に吹き消され、パッと明るく心地よい景色が現れた……様な気がした。


青褪めた文也の顔が、ゆっくり色味を増して、身体の震えも静かに治って来た。


翔太は思わず桜を見た!


なんだなんだ……この人、時々不思議⁈

これって例の能力と関係してるのかなぁ……そんな力あるなら初めから使って、冷静に話せば良いのに……。


「あなた本当に、大倉さんに会った事も覚えて無いの?」


落ち着きを取り戻したのか、ゆっくり話し出す文也、何処と無く以前と雰囲気が変わった気がした。


「さっき言われて、よくよく考えてみたんだ……もしかしたら会ったかも知れないって思えて来た。嘘だと思うだろうが、夢だと思ってたんだ!夢の中で祐一に会った気がしてた。君に言われて現実だったのか?…って」


「なんなの?そのまだらボケ!」


「まだらボケ……って」


少し困った顔を翔太に向けた。


「確かに仁絵との結婚は、仁絵の財産目当てだった。20歳の時、母さんの職場に呼ばれて、そこで1度会っただけのよく知らない30過ぎの女と、突然結婚させられて」


「何故拒否しなかったの?」


「知らされた時には、既に入籍は済んでた」


「そんなの無効じゃないか!出る所出れば済む話だろ‼︎」


興奮した翔太の声が響いた。


「翔太!興奮しないで。逆らえ無いのよ、ね!」


桜は哀れむ様に文也を見た。


文也は寂しそうに笑った。


「母さんの金切り声を聞くと駄目なんだ!金縛りにあったみたいに何も出来無くなる。もうどうでも良くなっちまう」


「ずっとそうして諦めて来たの?」


翔太も、改めて気の毒そうな目で文也を見詰めた。


文也は翔太の同情の眼差しに、そんなに嫌な感じはなかった。ちょっと照れ隠しに、肩を竦めた。


「看護師辞めて、暫く介護士の仕事をしてたんだ。担当の婆さんを連れてった病院に、仁絵の爺さんも通ってた。いつも付き添ってる仁絵に偶々声掛けて、意気投合したって言ってた。介護の悩み聞いたり、仕事紹介したり、色々世話してやったって」


「偶々?本当に仁絵さんに声掛けたのって、偶々だったのかしら?」


「良く分からないけど……確かに何故だか、東城家の財産に異常に執着してた。だけど、蓋を開けて見れば財産と言っても、仁絵の両親が残した保険金位で、東城家だなんだって偉そうに言ってるけど、代々の財産と呼べる物なんか、100坪程のあの土地と古い家しか無かった。

その家も、仁絵は酷く嫌がったんだが……強引に立て直してしまった。

土地を売って他に家を買う提案も出されたが、あの土地に住む事に強く拘って……おかげで仁絵の保険金も殆ど無くなってしまった」


「東城家の財産に執着ね……何故東城家に財産が有ると思ったのかしら?仁絵さんだったら、東城家の財産って言い方しないだろうし」


「どっかで昔の羽振りの良かった噂でも聞いたんじゃないの?」


「んー……そうなると、病院で会ったのも本当に偶々だったのか、怪しいものね」


『羽振りの良かった昔話?さっきも聞いた様な……』

翔太は東城八重子の話を思い出した。


「古い家を壊したのも、本当は何処かに、財宝でも隠してるとでも思ったのかしら……結果、何も出て来なかったから、腹癒せで厄介払いしちゃった?仁絵さんの事!」


不意を突かれ、文也は瞬きするのを忘れた。


3人の視線が合わさった時、文也は俯き頭を抱え、じっと動かなくなった。


「仁絵さんは……何故亡くなったの?」


相変わらず空気を読まずに、桜が追い討ちを掛ける。


暫く沈黙した後。文也は顔を上げると『はぁー』と、大きく溜息をついた。そして、観念した様に静かに話し出す。


「結婚してたって言っても、戸籍上の事だけで、夫婦だったなんて間隔、俺には全く無かった!

保険金の残りは、母さんが全部取り上げてしまったから、生活する金は俺が稼がなきゃならなかった。昼も夜も必死に働いた。

そんな時、気を使ってか、なんやかんや世話をやいてくる仁絵が鬱陶しくて、好きで一緒になった訳でも無いのに、馴れ馴れしく世話をやく仁絵が正直怖かったんだ。仕事に託けて職場に泊り込んで、殆ど帰らなかった」


そこ迄一気に話すと、文也はもう一度深い溜息をついた。

目の前のアイスコーヒーを一口飲んで、2人に視線を合わせ、反応を確認した。


桜は頷いて見せた。


翔太の方は、ぼんやり仁絵の気持ちを考えていた。


仁絵さんも同じだったんだろうか?


最初から、愛情の無い結婚だって、理解してたんだろうか?


近所の……大河内さん?だったっけ、大河内さんの話しだと、少なくとも仁絵さんは、嬉しそうだったって言ってたのに……切ないなぁ……。


「言い訳する様だが……そんな生活で、家の中で何が起きていたのか、詳しくは分からないんだ。ただ……時々帰る度に、仁絵は窶れて行った気がした。だけど、気にかける気にもなれず、俺は無視を通した。

久々に帰った時、仁絵の様子はかなり変わってた。動く事も儘ならない状態で、それでも俺の顔見て嬉しそうに笑ってた。

そして、次に仁絵にあったのは……母さんから、取り敢えず帰って来いって連絡が来て、気乗りしないまま帰宅した時……既に、仁絵は息をしていなかった!」


仁絵の最後を思い出し、多少の後ろめたさなのか、話をする文也はいつもの興味の無いそれとは違って、辛そうだった。


「少しだけでも、気に掛けてあげられなかったの?」


桜は、今更仕方が無いと分かっていても、どうしても文也を責めてしまう。


翔太は胸が詰まった。


「母さんが……」


「此の期に及んでまだ母さん!母さん!言ってるの⁈」


翔太は文也の言葉に、堪えていたものが弾け、思わず怒鳴った!


「あ、ごめん!違うんだ!あの頃、酷く」


翔太に誤解を招いた事に文也は焦った。被せる様に次の言葉を急いだ。


「怯えてたんだ!」


「怯えてた?」


「爺さんが家中を徘徊してるって……」


「⁈…爺さんって、その頃には亡くなってたでしょ!」


「そうなんだ!……けど、誰も爺さんなんか見てないのに、母さんだけが狂ったみたいに騒いで……呪われてる!古い家を壊さないと皆んな呪われる!とか、池の中に爺さんが立ってるとか……言う通りに古い家を建て替えたり、池を埋めたりしたけど、結局何しても駄目だった」


「へー見えてたんだ……」


翔太はほんの少し、仲間が居て嬉しかった。


「本当⁈本当に見えてるの?そのわりには、病院に来て佐登美さんに浸いてる八重子さんの事、何も言わなかったわよね?」


「あー確かに…うちの爺ちゃん、ガンコツ先生の事もスルーしてたなぁ……」


分かりやすくガッカリした。


「先生戻ってたの?」


すっかり翔太の気持ちを見透かした桜は、その様子に同情しつつ声を掛けた。


「ん?ああ、うん!随分前に……」


「えっ⁈先生?何先生って?お前達、話しがあっちこっち飛んでて、良く分かんないな……」


そう言って笑う文也、すっかり毒気が抜けている。こっちが本当の文也なのか?嫌味で嫌な奴だったのは、ただ虚勢を張って演じてただけだった、のか?……謎⁈


「確かに、婆さんの事は見えてなさそうだったけど、あの時は本当に酷かったんだ」


ふーん。お爺さんだけ見えてたのかなぁ?

だけど、狂った見たいに怖がるんだったら、引っ越せば良かったのに……なんでそんなに執着したんだ?

静かで良い所だけど、それだけなら探せばいくらだって他に有るだろうに……。


「で、……仁絵さんを生け贄にしたって事?」


「……⁈」


「あの部屋に、仁絵さん諸共封印したのよね!」


「…………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。