さんじゅうよん まぁ、いいか
ぼふん!!
みたいな音が聞こえた気がした。実際、気のせいではないよね。目の前のリューナが真っ赤に染まっている。
(人間は…ここまで真っ赤になれるモノなのだね…)
耳どころか、首まで真っ赤っか。わなわなと震えるリューナ。思わず、さっと耳を塞ぐ。そんな私をきょとんと不思議そうに見るシャルド。
(いや、シャルド。耳塞いだ方が…)
「きゃああああああああああああああぁぁぁぁ!!」
Oh!!キー――――――ン。と耳に響く大絶叫。
おい!近所迷惑だろ!!というツッコミを入れる前に、リューナがゆっくり後ろへ倒れる。
どごん!!
…すごい音がしましたが…。シャルドが慌てて手を出そうとしたのだろうが、間に合わなかったみたいだ。私?いや、私は手を出そうとしたんだけど…。
(そのまま倒れたら、後頭部床に強打するよね?まぁ、角度的に死にはしないだろう。というフィアレインの意見が優先された結果、倒れていくのを見守ることに!)
なんて、ヤロウだ!仮にも女の子が倒れそうになっているのに、無視かよ?!若干、大きい声に不快になっていたせいでもあるけど。
リューナの近くで心配そうにおろおろしているシャルドを見ながら、冷静にそろそろお風呂に入ろうかと考えているフィアレイン。
(なぜ、名前を呼べと言っただけで、気絶?!あいかわらず、意味が分からない子だな~)
とりあえず、アランティスに会うことはできるだろう。あまり会いたくはないけど、こればっかりは仕方がない。
目の前でだらしなく気持ち悪い笑みを浮かべ気絶しているリューナを見ると…本当に会えるのか、不安しかない。
騎士家のアランティスの性格は、一言で言うと『温厚』。他のキャラの『傲慢』や『冷淡』とも違う、あの乙女ゲームの良心とも言うべき人間だ。
だけど、アランティスは、温厚ではあるが真っ直ぐな性格をしている。喧嘩の仲裁に入る姿もよく見たし、間違っていることは、はっきりと言ってくれる。ヒロインと犯人を懸命に追う姿は、本当に真面目な彼らしい。
(あのゲームは誰と犯人を追うかで、ヒロインの相手も決定する)
彼の『最後』を決定づけるたった一つの選択肢が存在する。
そこを間違えると、ゲームのアランティスは不幸にも犯人の凶刃に…。
(分からないのは、あの『犯人』たちはアランティスに勝てるような人間じゃないってことなんだよね)
正直、逆立ちしたって、50回生まれ変わっても、『犯人』たちはアランティスには勝てないと思う。不意を突いたって、絶対に勝てないとしか言えない。
なのに、アランティスは死んでしまう。
(あぁ―――!!嫌な予感しかしない!!これ、言っちゃうとフラグだよね?!)
もしも、もしもだ!リューナの時も思ったフラグが立とうとしているなら、私はアランティスに会うべきじゃない。だけど、会うべきだとフィアレインが言う。
「あの…フィアレインさま。彼女をどうすれば…?」
シャルドがおろおろと声をかけてくる。
「放っておけ。どうせ、お前一人では移動できないだろう」
え?2人で移動すればって?
そりゃ、できるかもしれないけど…。それ、フィアレインのキャラじゃないよね?しかも、その瞬間に眼が覚めたら、きっとまた大絶叫だよね。
「ですが…」
「いつも放置している。そのうち眼を覚ます」
あれ?シャルドが冷たい眼でリューナを見ている。
「…いつも?」
ああ!そこか!そうなんだよ。ストーカー女が気絶するのは初めてじゃない。初めのころはそれこそ眼が合うと気絶。変態女、と呼び始めた頃も「あだ名!あだ名をいただいた!」と言って気絶。ほとんどは叫ぶことなく意識を失っている。何度目かとかは数えてないけど、フィアレインはいつも放置している。正直、打ちどころ悪いかも…と思える倒れ方でも、手を出さない。
(痙攣してても、放置。むしろ、その状態を観察して、眼が覚めるまでの時間を計ったり、打った頭の状態を髪の毛をつかんで頭を無理やり持ち上げて、確認している。しかも、上げたまま手を放して、瘤をさらに作り出すという…)
清々しいまでの鬼畜っぷり。
「そいつは置いておけばいい」
…そう言うと、シャルドが冷たい眼でリューナを見て、頷いた。
あれ?シャルドってこんな冷たい眼もできるんですね~。どうしてだろう。なんだか、シャルドからフィアレイン臭がし始めたぞ。大魔王に汚染され始めた!!
(あぁ、でも不思議でもない話かな。だって、シャルドは…――――――だから)
…あれ?私は、今…
何を考えていたっけ?
まぁ、いいか。




