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にじゅうなな いいね? ~アランティス~

覚えていますか?

リューナにいい様に使われて、北へ肉を買いに行った貴族の少年です。

「ねぇ、ぼっちゃん。シルバはどうプラスに考えても、利用されているとしか思えないのですが」


 馬に乗って2日。朝から晩まで馬で駆け、疲れて休憩している所に、私よりも3歳年上の従者のシルバが不満しか感じさせない口調で言った。今は、途中の町に寄って、昼食を食べている所だ。


「ふっ!シルバ…。今ごろ気が付いたのか?」


 バカだな。私は彼女に話をふられた時から気が付いていたさ。


『シベルラ地方にお肉を買いに行かなくてはならないの。でも、私は用事でこの街を離れられないし…。


 ねぇ、アラン…』


 上目づかいでそんなことを言われて、騎士の家に生まれて、女性を尊重するように叩き込まれた私が、「任せろ」以外の言葉を紡げると思うのか?


 分かってて、言っているんだよ。あの小悪魔は!


 相も変わらず、彼女に認めてはもらえないが、私は他のどんな女性よりも、彼女に興味がある。そのことも分かっていて、言っているあたり、少し性質が悪い。


「なっ…!!分かっててなに、いいように利用されちゃってくれてるんですか?!


 あんた、仮にも伯爵家の嫡男でしょうが!!」


 こいつ…!素を出し過ぎだろう!なに、あんた呼びしてくれてるんだ?!仮にも私は主だろう!!


「いいんだ、シルバ。私は、彼女に認めさせるまでは、どんなに利用されたって構わ…」


「構う!構うだろう!!あんたのとばっちりが俺にまで来るんだから、ちっとは構ってください!!」


 なかなかな言いようだな。こいつの教育はどう考えても、失敗しているぞ。主のはずの私を馬鹿にし過ぎだろう。


 …だがまぁ、気持ちは分からなくもない。


 私は真剣そのものなのだが、こいつにとっては本当にとばっちりもいい所だろう。1年前から勝手にお忍びで街に降りては、年下の…それも商人の娘の周りをちょろちょろする。問題行動にしか見えない。そして、毎回、私を見失うこいつは、執事長に『教育』と言う名の『お仕置き』をされている。かわいそうに。


 シベルラ地方まで行って帰るのに、まだ12歳の私を一人で行かせるわけにはいかない。となると、従者兼護衛のこいつはどんなに嫌でも着いてこざるを得ない。


「しかし、アブヒラドールの姫は末恐ろしいですね。男を手の平で弄ぶなんて。しかも絶対、影の腹黒なぼっちゃんをだなんて…。いやはや」


「いやだな、私のどこが腹黒だって言うんだい?」


 にっこりと笑うと、何歩か引かれる。


「いやいや、あんたの本性を知ってる俺にその人の良さそうな天使の笑みは通用しませんから!!本性知ってたら、その笑顔は何かを企んでいるようにしか見えませんから!!」


 本当に失礼な従者だな。


「いやだな。私は心の底から、楽しいと思って笑っているよ」


 おや、従者の顔が引きつってしまったな。


「リューナ嬢に、利用されているのが、楽しいと…?」


 ん?なんだか意味合いが…。


「…変態…?」


 おい!!なんだ、その極論は?!


「失礼だな。私は彼女に利用されるのが楽しいと言っているのではないぞ。彼女のために動くのが楽しいと言っているんだ。


 彼女は私の指標なのだ。彼の方がいない今となっては、彼女に認められることは私の目標だ」


「あ~、彼の方ってのはあんたの言っていた、昔王宮で会ったっていうあの宝玉の君ですか?そんなに美人なんですか?」


 ん?


「美人と言えば美人だったが…恐らく男性だぞ」


 …おい、なぜ私と距離を取る?


「お、俺にはそう言う趣味はありませんから!!」


 っ!!思わず、吹くところだった。


「本当に失礼だな。私にもないぞ。確かに美人だったが、そう言う色恋とは違う。リューナとも違う」


 リューナのことは、商人の娘と言うこともあって、将来は考えられない。だからこそ、私の付きまといは私自身も今だけの行動と思っている。どうせ、学園に入ったら、婚約者を決めなくてはならないだろう。仮に、彼女を婚約者にできたとしても、彼女は私なんかに縛られることはないだろう。けして籠に収まらない蝶に想いを馳せるのは今だけだ。


 彼女のために何かをしたい。彼女の近くに居たい。彼女に認めてほしい。これは、恋かもしれない。だが、どうせ、叶わない恋でしかない。


「彼女のことは恋として好きだが、あの方は、違う」


 あぁ、これは不敬かもしれない。騎士家の者が、王族以外にこんな感情を抱くなんて…。


「私は、あの方のために…命を賭けられるだろう」


 従者が驚いて眼を見開く。


 それに私はくすりと笑う。


 私は…王太子殿下以上にあの方に仕えたいと思ったのだよ。



 口に出すのも憚られる想いだ。


 私はある方に、王宮でかつて一度だけ出会った時、心の中で騎士の誓いを立ててしまった。


 私はこの方のために死ぬことができる。生きることもできる。


 命を賭けられる、そんな方に人生の中で出会えるなど、幸せなことだろう?


 王太子殿下は歳が違い過ぎるし、すでに専属騎士がいる。第二王子殿下は騎士の誓いを立てるのも愚かしい。周りの思惑は恐らく、私が第二王子殿下に仕えることを望んでいるのだろうが…。


「…あんた、だから…第二王子殿下の取り巻きになっているのに…肝心な時にはいなくなるんですか?」


 そうだよ。あの馬鹿がなにか問題を起こす時は決まって、それを事前に察知して、その場を辞す。巻き込まれるのはごめんだ。あの馬鹿を諭すのは、最初の数回で諦めた。あれはダメだ。周りの全てを見下し、甘い言葉しか聞かない。


 仮にうまく逃げられなくても、全部、この笑顔で乗り切れる。馬鹿の扱いは楽でいい。


「お前は賢いから割と気に入っているよ。だから」



 賢い従者は気付いているだろう。私の誓いは別の方に、すでに差し上げている。だから、歳が同じだからと、王子殿下といっしょにされていることに、私がどれほど苛立っているか。


 そんな全ての感情を隠して、本当に楽しそうな笑顔を浮かべる。



「だから…私の邪魔だけはするんじゃないよ。




 いいね?」



 


 

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