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にじゅうよん かわいいこです。 ~シャルド~

 僕はリレイさまに許可をいただいて、近くの教会に来ていました。教会について、僕はすぐにそこにいた司祭さまにフィアレイン様のお母上『真珠姫』という方について聞いてみました。


「十年以上前に教会に所属していらっしゃった『姫』さまですね。真珠のように光り輝く美しい髪をしていたそうですよ」


「あの!その方は、今…?」


「恐らく婚姻して、教会を出たと思いますが…すいませんが、『姫』たちの行方は極秘になっておりますので、詳しくはお答えできません」


 あぁ、やはりです。『姫』たちの現役は十数年。それ以後はどこかの貴族の家にお嫁にいく。嫁いだ後のことは全く公表はされない。それは周知の事実です。


 では、『真珠姫』と呼ばれる『姫』は、旦那様に嫁いだということなのでしょうか?…奥様はおっしゃっていました。


『あの子の母親は、旦那様と結婚したいがために、当時婚約関係にあったわたくしたちの仲を裂いたのです。そればかりか、旦那様のお子ではない子どもを旦那様の子と偽って…。旦那様をどれだけ傷つけたことか…』


 『姫』と婚姻したい貴族ははいて捨てるほどいます。『姫』が選んだのなら、どんなに婚約している人でも、結婚している人でも、逆らわないと言われるくらい、『姫』との婚姻は特別です。


 奥様のご実家も貴族の家柄です。奥様はフィアレイン様のお母上を『どこの物とも知れない』とおっしゃっていましたが、『姫』だったのなら、奥様の婚約が破棄されていてもおかしくはありません。本当にそんな方なのでしょうか?婚約者がいるような方との婚姻を望むような?確認のしようがありません。お母上のことであんなに怒ったフィアレイン様に真実を確かめることはできません。


 教会の椅子に座って僕は一人で考えていました。


 僕はどうしたらいいのだろう?フィアレイン様は従者を必要としない方です。僕はあの家で蔑まれていて、僕の居場所なんて…どこにもない。それでも、僕は逃げる場所もない…。孤児院には戻れない。街を出たって、奴隷狩りに捕まる危険がある。



「ねぇ、きみ」


 頭を抱えて、考えていた僕はすぐ近くでした声に驚いて顔をあげました。


 そこにいたのは、大きな藍色の瞳をした金髪の女の子。長い髪を後ろで一つに括っています。同じくらいの歳でしょうか?あまり見たことのない形の服を着ています。かわいい子です。


「…あの?」


 知り合いだったでしょうか?でも、こんなにかわいい子なら一度会ったら忘れないと思います。僕の全身をじろじろと見ていたと思えば、馬鹿にしたように笑います。


「ふん。な~んだ。あの方の従者って言うからどんな子かと思ったら、ただの子どもじゃない」


 え?一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。


 …と言うか、彼女も子どもじゃないか?!


「ふさわしいとは思えないけれど…手がないよりはマシかしら?」


「あの…?」


 この子は誰なんだ?「あの方」…?フィアレイン様のこと?


「ねぇ、シャルド・デュレ。きみはあの方の味方?それとも敵?」


「ぼ…くは」


 聞かれて、思わず口ごもります。僕は…どうしたいのだろう?


 あれ?どうして、初めて会ったこの女の子は僕の名前を知っているのだろう?

 不思議そうな顔をしたのが分かったのか、女の子はにっこりと笑います。手を後ろで組んで、座っている僕を覗き込むような形でじっと見ています。


「不思議?そうでしょうね。まぁ、気にしなくても大丈夫よ。私はきみになんか欠片も…これっぽっちも興味がないから」


 じゃあ、なんで名前…


「きみって、思っていることが、もろに顔に出るのね。貴族の家に仕えるなら、それも問題よ。ポーカーフェイスは大切よ?


 まぁ、いいわ。私が興味あるのは、きみのご主人様、ただ1人だもの」


 旦那様のこと?でも、さっき…


「ちょっと!きみは誰の従者なのか分かっているわよね?」


「フィアレイン様…?」


 そう言うと、女の子は眼を細めて、僕を睨みます。何か、僕は彼女の気に障ることを言ってしまったのでしょうか?


「…きみ…その名前。まさか本人に言ってないわよね?」


「…え?」


 名前?フィアレイン様?ですが、旦那様にそう呼ぶように言われました。そう言えば、屋敷の方々は、誰もフィアレイン様を名前で呼ぶことは一度もありませんでした。旦那様や奥様でさえ、『あの子』か『息子』でした。旦那様から息子の名前だと聞かされた時だけです。


「そう…。きみは平民だったわね」


 ため息交じりに言われた言葉にムッとしましたが、その声に僕を蔑むようなものは感じませんでした。


「時間があまりないから、説明している時間も惜しいのだけど…。貴族の名前は、私たち平民と違って、名前と家名の間にもう一つの名前があることは知っているわよね?」


 頷くと、彼女は僕の隣りに座る。


「間にある名は『幼名』。10歳くらいまではその幼名で呼ばれることがほとんどよ。大体10歳くらいで父親か一族の者が幼名の前に貴族としての名前を付けるわ。例えば王族、王太子『カイリムス・リム・アザルファイド』。第二王子『セイリウス・セス・アザルファイド』。名が付けられた後は幼名はよほど親しいものでなければ、呼ぶことは許されないわ」


「それが、『フィアレイン様』の名とどう関係があるんだ?」


 思わず、素で聞いてしまったけれど、彼女は気にすることなく先を続けます。


「王太子と第二王子の名で気が付かない?貴族としての名は、幼名を元に付けられるのよ。


 そして…『フィアレイン・レグド・ガーナード』。



 幼名と何の繋がりもなく、ましてや女性名を付けられることは…貴族の子にとって、存在を否定される最大の屈辱だわ」





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