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にじゅうに なにをしに? ~リューナ~

 しばらく沈黙が続いた後、大兄さまはため息を吐いて、私に視線を合わせるように屈みこんだわ。


「仕方がないな。リューナ。なにも俺はお前を泣かせたいわけじゃない。まだ俺は納得できたわけじゃないが、このままだとお前の方が納得しそうにないからな。


 親父殿は今、教会にいっている」


「教会?なにをしに?」


 顔をあげて、不思議そうな顔で大兄さまを見つめる。父さまは信心深い人ではないし…。


「まさか、怪我を?」


 『姫』に治癒をお願いしに行ったのかしら?


「いいや。ちょっとした質問をしにだ」


 ますます意味が分からないわ。話を聞くためだけにわざわざ当主である父さまが出向くだなんて…。


「そんな顔すんなよ。お前、そんなに表情が変わるとは知らなかったな」


 苦笑する大兄さま。そんな変な顔をしたかしら?


「教会のちょっと上の人に会うためだからな。当主自ら出向いても不思議はない。教会はいかなる権力の影響もうけないそうだから、約束を取り付けるのに苦労したみたいだな。質問内容は…」



 嫌な予感がするわ。絶対にいい質問じゃない。





「『姫』の力は、子ども…特に息子に、本当に受け継がれないのか」






 『姫』の力は癒しの力。それは、親から子へと受け継がれるものではないわ。『姫』の子どもや子孫が『姫』になるかと言われると、そうではない。あくまでも『姫』の力は、ある日急に目覚めるもの。それは農民の子だったり、商人の子だったり、貴族の子だったり。そんな『姫』たちは力を確認された瞬間に教会に保護される。そして、今までの名も生活も家族でさえ捨てなくてはならなくなる。更に言うと、その力は『女性』にしか現れない。それが言われている通説だわ。



「俺たちは、『姫』の力は受け継がれるものと考ええいる。と言っても、恐らく先祖に『姫』がいたとかその程度だとは思うが、『姫』の出自は不明だから、はっきりそうだとは言い切れない。だが、そうでなければ、教会が『姫』たちの嫁ぎ先を極秘にしている理由が分からない。受け継ぐのなら、何としてでも、最悪誘拐してでも子どもを産ませようと考えるような奴まででてくるだろうしな。となると、次は、女だけに受け継がれる能力なのか否か」


「あの方が…『姫』の力を持っているのかどうかということ?」


「まぁ、簡単に言えば、そうだ」


「持っていれば、殺す理由はなくなる?」


「そうだな。叔父上殿なら子種用と実験用に飼い殺すんじゃねえの?」


 やっぱり、そんな理由だと思ったわ。あいかわらず、変態なのね。残念だわ。


「教会に行ってくるわ」


「だろうな。止めねえよ」


「止めないの?」


 大兄さまは、ぽんと私の頭に手を乗せる。


「好きにしろ。色々言ったが、お前は好きにすればいい。何か手が必要なら言え。ただし、自分でどうにもならないと判断した時だけだ。その時は手を貸してやる」


 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。ぼさぼさになってしまった頭を直しながら呟く。


「…大兄さまは私に甘い」


「はは!今頃気が付いたのか?お前はかわいい妹だからな!いいか?リューナ」


 また真剣な顔だわ。でも、今度は眼に優しさが見える。


「あの坊っちゃんのためには死ぬな。あの坊っちゃんのために生き残る道を選べ」


 頷くとにんまりと笑って、今度こそ大兄さまは娼館に入っていってしまう。私は教会に向けて走り出す。


 急がなきゃ!教会で捕まえられなければ、父さまを捕まえる機会が無くなってしまう!






 教会に付くと、真っ先に司祭さまに父さまの居場所を聞く。よかったわ。まだお話し中みたい。出口だけ教えてもらって、教会の中で待たせてもらうことにしたわ。教会の椅子には何人かの人が座って、お祈り中みたい。ここは王都にある正教会よりは大きくないけど、来る人は多いみたいね。


 ステンドグラスには『姫』の絵が見えるわ。信仰の対象である『姫』。それがいつから始まったのか、正確には分からない。気が付けば、この大陸にある国々に浸透していて、聖なる乙女として崇められている。


 本来であれば、『異質』と言っても過言ではないその力を、奇跡として扱ったのはどうしてだろう?


 そんなことを考えながら、近くの椅子に座ろうとした私の眼に、最後尾の椅子に座っている男の子が眼に入る。貴族の使用人のような服装をしていて、茶色の髪を短く切りそろえている。手を組んで、そこにおでこをくっつけて俯いている。一見、祈りを捧げているようにも見えるけれど…。


 あら?あの子、もしかして…。



 すっと気配を薄く薄くして、そっと少年に近付く。



「ねえ、きみ」



 顔を上げた少年は、驚いたように私を見つめていた。




 


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