にじゅういち わかっているわ! ~リューナ~
アブヒラドールの一族には『家』という概念がない。というのも、住処を転々としているから。だって、昔から裏の仕事のこともあって、王族の次に命を狙われる一族と揶揄されるくらい命を狙われるのよね。だから、『家』っていうのは、場所じゃなくって、家族がいる場所が『家』だと思うの。そうじゃない?家族が全員いなくなっても家が残ればいいなんて人はいないと思うのよね。それくらいなら、家を失っても、家族さえ残っていれば、帰ることのできる『家』は残ると思うのよ。
「今の住処は…なかなか前衛的ね」
目の前の建物を見ながら、呆れたため息を零してしまうわ。昼間っから裸に近い女の人が立っているお店。
「娼館にしたのは、きっと大兄さまの趣味ね」
母さま命の父さまがこんなところを選ぶわけないもの。
「…よくわかったな。リューナちゃん」
「大兄さま」
振り返ると、七つ上の大兄さまが立っている。
「大兄さま、父さまはどこ?」
ニヤッと笑う大兄さまに嫌な予感がするわ。
「親父殿はどこにいるか分からないな。数日前からどこかに行っている。ちなみに、叔父上殿も他の兄弟たちもどこにいるのかわからないな」
「…どうして、私が叔父さまを捜しているって知っているの?」
にやにや笑っていた大兄さまが真剣な顔をしたのを見て、分かってしまったわ。私が反対するのを見越して、みんな姿を消してしまったんだわ。思わず、ぎゅっとスカートを握る。
「…分かっているだろ?リューナ。俺たちはお前があの坊っちゃんに関わるのを良しとしない。あの引きこもりの坊ちゃんにお前がどこで出会う機会があったのかは分からないし、お前がなぜあの坊っちゃんに執着するのかも分からないが、アブヒラドールとしては裏も表もあの坊っちゃんに価値を見出していない。あの坊っちゃんは父親から見捨てられた。『フィアレイン』と名付けられた瞬間に、あの坊っちゃんの価値は無くなった」
…わかっているわ。そんなこと…。
「それは、貴族としての価値だわ…」
「あぁ、そうだ。貴族としての価値だ。だが、あの坊っちゃんは残念ながら、貴族の子どもだ。それがどんな意味を持つのか分からないわけじゃないだろう?」
ぐっと唇を噛んで、何も言えなくなってしまう。そんなこと、どうでもいいことだわ。だって私は…。
「貴族じゃなくても…私はあの方の味方だわ」
「…本気で言っているなら、お前はアブヒラドールの子どもじゃない。この家がどんな家か十分すぎるくらい理解をしているだろう。よく考えろ。リューナ・アブヒラドール」
大兄さまに鋭い眼で睨まれて、びくりと肩を震わせてしまう。
俯いてしまった私を置いて大兄さまは娼館に入っていこうとする。
「…ているわ」
ぽつりとつぶやいた私に大兄さまは振り返る。
「解っているわ!ええ!十分すぎるほど理解しているわ!だって、そのせいで私は友人さえもできなかったんですもの!兄さまたちは幼いころから分家の子どもを忠実な従者として側に置いているのに!私は1人、女だから、それさえも居なかったわ!友人を作ろうとするたびに、父さまや兄さまたちは私から遠ざける!私のためと言って、そんな機会を作ることさえ許してくれなかった!!私はいったい何なの?ただの、アブヒラドールの人形?どうせいつか道具として嫁に行くから、私に心はいらないの?私は!あの方に出会って、初めて自分が執着するものに出会えたの!!」
大兄さまを見上げて、睨む。許さないわ!例え、誰であろうと!!
「だから、例え、中兄さまや叔父さまであろうと、あの方に手を出すなら許さない!!」
そうよ!あの方は私のものよ!誰にだって渡さない!!
私を見下ろす大兄さまの眼には何の感情も浮かんでいない。何を考えているのかは分からない。大兄さまは、普段どんな感情も陽気な性格の中に隠してしまうのだもの。でも、真剣な顔の時は絶対に眼を逸らしてはいけないことは知っている。
「ふぅ。お前は分かっていない。お前はアブヒラドールにとって唯一の『姫』だ。教会のじゃないけどな。大事に大事にして、何からも守りたいって思っている。親父殿も母殿ももちろん俺もだ。だからこそ、あの坊っちゃんの近くに居てほしくない。今回はたまたまアブヒラドールが仕事を受けたが、アブヒラドールが関与できない裏の組織だって、あの坊っちゃんの暗殺依頼は受けているだろう。そして、あの坊っちゃんは生きている限り、命を狙われ続ける。何故だか分かるか?親から見捨てられても、『レグド』の名は生きているからだ」
大兄さまは私を見下ろして続ける。
「だったら、あの坊っちゃんにとって…ここで命を失くした方が…幸せかもしれないぞ」
「そんなこと…!!」
ない、と否定しようとして、言えなくなった。ないと言い切れるほど、私はあの方のことを知らない。私はあの方の顔だけを見てきたのだもの。
「…それでも…私は、あの方を失いたくないの…」
それだけを口にして俯く私は大兄さまの視線を感じていた。俯く私には大兄さまがどんな表情をしているのかは分からなかったのだけど。
主人公が引きこもり中のため、動けるリューナとシャルドの話が増えていく…。




