じゅうなな は、はじめまして! ~シャルド~
お昼の話です。昼食を持って、地下に降りてきた僕は、扉の前で待ち構えていたフィアレイン様に部屋に入るよう言われました。戸惑いつつも部屋に入ると、フィアレイン様はドアのノブの下に本を積み重ねて、ノブが回らないようにしていました。それでドアが開かないのかと理解しました。
その後、あまりの部屋の汚さについ固まってしまいました。
なぜこんなことになっているのでしょう?
「座れるものならそこに座れ」
ソファを指さされますが、あまり座る気になれないソファです。しかも、部屋のこの臭いはなんでしょう?鼻が曲がりそうです。なんだか足元からカサカサという音が一か所ではなく至る所からして、絶対に下を見たくありません。
「あの…フィアレイン様…?なにか…ご用なのですか?」
目の前に立つフィアレイン様はなんだかご機嫌そうです。
「あぁ、今朝は来なかったな?どうしてだ?」
直球で聞かれたことに思わず言葉を捜してしまいます。そんな僕にフィアレイン様は楽しそうに眼を細めます。
「昨日、『奥様』に呼ばれただろう?何を聞かされた?」
「!!?」
なぜ知っているのでしょうか?呼ばれたのも急なことでしたし、部屋から出ないフィアレイン様が知る術はないと思うのですが…。
「…不思議そうな顔だな」
ご機嫌そうに笑うフィアレイン様は今までにないくらい笑顔です。こちらが本当のフィアレイン様なのでしょうか?
「お前が私に会ったと聞いたら、きっとお前と話をするために呼び出すだろうと思っていた。そうだな…」
フィアレイン様はにやと笑います。
「『あの子は狂っているのよ。旦那様からお聞きになったと思うのだけれど、動物の死体にまで興味を持ち、部屋にこもりっきりなの。あの子は昔からどこかおかしかったのよ』か?」
一言一句です。奥様に話されたのと一言一句違わぬ台詞を言われて、驚きのあまり眼を見開いて、フィアレイン様を見つめてしまいます。
聞いていた?!そんなわけは…、でもどうして?!
「合っていたようだな。不思議か?だが、あの女は比較的、言動が読みやすい。他は?」
そう聞かれて、僕は昨日のことを思い出していました。
「あら、その子が新しい従者なのね?」
「はい、奥様。シャルドと申します」
部屋に入ると、ソファにゆったりと座る綺麗な女の人にセレナさんは僕を紹介してくれます。赤い髪に金色の瞳。薄い緑色のドレスを着ています。隣りには同じ髪の色の小さな男の子が座っています。こんなにきれいな女の人、初めてです。
「は、はじめまして!シャルド・デュレと申します!」
思いっきり頭を下げます。すると、くすくすと笑い声が聞こえます。
「かわいい子ね。この子の従者に欲しいくらいだわ。よろしくね」
「はい!」
「それにしても…旦那様もひどいことをなさるわね。ね?セレナ」
「はい。私もそう思います」
ほうとため息をつく女の人。え?と疑問が顔に出ていたのでしょうか?見上げたセレナさんは、困ったように笑います。
「そんなに幼い子を…。その子が逃げられないとわかっていて、あの子の世話をさせようなんて…ひどいわ」
奥様は僕をまっすぐに見つめます。瞳にうっすらと涙が浮いています。奥様が僕のために?本気で僕のことを案じてくれている!
やはり、この家の方々は優しい人ばかりです。孤児の僕のために涙してくれるなんて…。
「あのね。あの子は狂っているのよ。旦那様からお聞きになったと思うのだけれど、動物の死体にまで興味を持ち、部屋にこもりっきりなの。あの子は昔からどこかおかしかったのよ」
困ったように奥様は笑い、隣りの男の子の頭を撫でています。突然の話に僕はついぽかんとしてしまいます。フィアレイン様は、やはり変な趣味をお持ちなんだ…。
「セレナ、レイをあちらに連れて行ってくれるかしら?その子と2人で少しお話ししたいのよ」
「ははうえ!レイじゃないよ。いつもみたいに呼んでよ」
「また後でね」
少年はぷうと頬を膨らましますが、奥様は少年の頭を撫でてセレナさんに促します。2人が出ていくと、立ち尽くした僕に奥様はにっこりと笑います。
「…そ…れで、奥様は…僕にフィアレイン様の話を聞いて…」
ソファに座って、しどろもどろに話をする僕をフィアレイン様は目の前に立ったまま、じっと話を聞いています。
「何を話したんだ?」
「僕が…いつどこでお会いしたのかとか…食事のこととか…です」
いつの間にか敬語が抜けていたことに気が付いて、慌てて付け足します。
「話しにくいのなら、2人の時は畏まらなくていい」
そう言ってくれたのに、驚きました。あれ?優しい?
「それで?」
「そ…れで…」
言いにくい。最後に聞いた話がとても言いにくいです。ぐっと拳を握ります。
「フィアレイン様…は…旦那様の御子ではない…と」




