じゅうろく どこにいるの? ~リューナ~
アブヒラドール家は、ただの商人だ。元々は南の砂漠の国から来た一族は、大昔、放浪の末にこの国にたどり着いたと言われている。国中に広がる彼らの商売は多岐にわたっている。食料はもちろん、衣服に食器、宝石に薬、武器や防具。
だが、そんな国一番の商家ではあるが、裏の顔、つまり裏の商売の元締めでもある。情報に奴隷、希少価値の高い生き物を売り、カジノや裏のオークションなどを取り仕切っている。
そんな二面性故に、裏を取り仕切るのは本家直系の誰かになる。多い兄弟の中で、どちらの商売に関わるかは、その素質によって決められる。
現在、裏を取り仕切るのはリューナの叔父、父の弟であり、その後継として育てられているのが、リューナの5歳年上の次男だった。
「中兄さまが…あの方を?」
「そういう情報がきたわ。おまけにご丁寧に情報屋でもある私のところにあの坊っちゃんの情報を買いに来たわ」
思わず、姐さんをじっと見ると、慌てた様に手を振る。
「売ってないわよ!売ってないわ!さすがに、その契約は守っているわよ!」
ほっとする。
「よかったわ。姐さんを始末するのは心が痛いもの」
「あぁ、うん。…命が助かってよかったわ」
にっこり笑うと姐さんが乾いた笑みを零している。
「それで…中兄さまは?どこにいるの?」
「さぁ?今は潜っていて、場所が特定できないわ」
「じゃあ、叔父さまは?」
「あんたの叔父さんの場所が特定できないのは、常じゃないの。むしろ、あんたの方が知っているんじゃないの?」
「…ちっ!使えない…」
「…ん?なんだか舌打ちが聞こえた…」
「気のせいよ!」
姐さんの顔が引きつっているわ。どうでもいいけど。とりあえず、かぶせるように言って、にっこり笑っておく。
「…中兄さま、返り討ちにされそうね」
あの方が中兄さまごときに仕留められるとは思わないし…。
「…甘く見ない方がいいわ」
姐さんの真剣な声に考え込んで俯いていた顔を上げる。
「あんたの所の次男は確かにそれほど危惧するほどではないわ。でもね…。
『フィル・ドーナ』の武器は…1人の凡人を百の軍勢に対抗できる強者に変える、悪魔の武器なのよ。あんたの兄さんが買った武器がどんなものかは知らないけど…いくらあの坊っちゃんでも無事であるとは考えにくいわ」
姐さんの言葉に急に不安が増す。そうだわ。いくら中兄さまでも、叔父さまの許可なく勝手に仕事を受けるとは思えない。となると、これはあの慎重な叔父さまができると思って受けたお話。以前はその危険性からあの方の暗殺依頼を受けることはなかったのに、それを受けたと言うことは…。
「『フィル・ドーナ』の武器があれば…暗殺ができると考えたから?」
これは、急いで叔父さまか中兄さまを探す必要があるわ。
「父さまに…『お願い』するしかないわね」
いやだわ。今度は何を賭けないといけないかしら。父さまへの『お願い』はリスクが高いわ。でも、他に叔父さまや中兄さまの居場所を分かる人間がいないもの。
「行くわ!早くしないと」
出て行こうとすると、姐さんが呼び止める。
「あぁ、それから。あんたから受け取っていた『青い花』だけどね。
あんたがどこでこの花を手に入れたのかは知らないけど、この花は間違いなくあんたが思っていた通りよ」
「毒…?」
「そうね、毒ね。でも、普通の毒とはちょっと違うわ。『月青花』。その花を特殊な精製で作り出したものは、標的に常用させることで相手を徐々に弱らせ、後にはその痕跡さえも残さない。病死にしか見えない死体を作り出すことが出来る。それがこの花の毒。昔、病死を装った殺人によく使われたそうよ」
「…」
「この花の種は西の国でしか手に入らない貴重な物で正規のルートでは絶対に手に入らない禁止されているモノなんだけど…。たった一度、知り合いの裏の薬師が種をとある人に売ったことがあるって聞いたわ」
頷いて、先を促す。
「六年も前の話よ。売った相手は、とある貴族の侍女だったそうよ」
※『青い花』の設定はフィクションです。現実のものではありません。




