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じゅうご 『フィル・ドーナ』? ~リューナ~

「姐さ~ん♪こんにちは~」


 私はいつものように見た目武器屋のドアを開ける。店内はいつも通り僅かばかりの武器や防具が置かれている。品ぞろえ的に問題ありのこの店は、街の裏の裏の通りにひっそりとあり、看板も出していないため、普通(・・)の武器を買いたいお客さんはまず足を踏み入れない。武器も売るけど、この店が売るのは、ほぼすべてが裏のモノなのよね。


「あんら~ん!アブヒラドールの嬢ちゃん!いらっしゃ~い♪」


 店の奥から店主の姐さんがくねくねと腰を振りながら出てくる。



「あんら?嬢ちゃん、昨晩は「これから北のシベルラ地方に行く」って言ってたじゃない?どうしてまだこの街にいるのかしら?」


 そう言えば、そう言ったかな?


「あぁ、行こうとしたんだけど、アランが暇そうだったから、代わりに行かせたの」


 アランは私が気配を消さずにいると、よく私に会いに来る2つ年上のお坊ちゃんのことね。アランティス・ティ・グランドラっていったかしら?一年くらい前から付きまとってくるんだけど、なんだかよく会うから、きっと暇なのね。昨日頼んだときは、嬉しそうに「任せろ!三日で帰ってみせる!」と張り切っていたけど、ちゃんとあの方に気に入ってもらえるようなお肉を持って帰ってくれるかしら?


「…惚れた弱みを利用するなんて…悪女ね」


「ん?なにか言った?」


「いいえ。アランも一応、貴族のご子息様じゃなかったかしら?しかも、将来有望なかわいいお顔よね」


「そうね。でもただの子どもよ」


 そう言うと姐さんが吹き出す。


「私から見ると、あなたもあなたの愛するお坊ちゃんもアランちゃんも子どもなんだけどね」


 何を言うの?!


「あの方は子どもじゃないわ!!あの方は、奇跡なんだから!あの白磁のような滑らかな肌!艶のある黒い髪!宝石のようなオッドアイの瞳!何より、整い過ぎたお顔!ああああああ!!完璧!!」


 思わず悶えていると、姐さんがぽかんとした顔をしている。


「あ、あなた本当にあのお坊ちゃんの顔が好きなのね~…いつもの冷静な雰囲気はどこに行ったのかしら?あなた、あの坊っちゃんが絡むと性格変わるのね」


 む!なぜちょっと引き気味なの?!


「好きなんじゃないわ!愛してるの!!」


 主張すると呆れたような顔をされる。


「それにしても…顔のことばっかりね。あの坊っちゃん、あまり褒められた趣味はしてないって聞くけど…本当のところはどんな性格なのかしら?どんなところが好き?」


 あ。姐さんが裏の顔をしてる。情報がほしいのかしら?でも…あの方の情報は絶対に売らないように交渉しているから、ただの好奇心かしら?


「顔!」


「え?」


「だから、好きなところでしょう?顔!」


「…顔が好きなのは分かってるわよ。他にいいところも…」


「顔!」


「もしかして…顔以外ないのかしら?」


「お話したことないから、どんな方なのかは分からないわ。でもどんな方だって、あの顔だったら許せるもの。あ、でも昨日!初めて会った日以来、久しぶりにお話したのよ!!」


 あら?姐さんがすごい変な顔をしているわ。どうしたのかしら?


「面食い…だったのね?知らなかったわ…。と言うか…あなた、合鍵をもらってお家に入って、片付けしてるって言わなかったかしら?プレゼントももらったって」


「ええ。でもお話したことはないの。鍵は机の上に置いてあったのを少し借りて複製したの」


「…え?勝手に?」


「片付けは、部屋に置いてある本の位置を変えた時は「本の場所が変わった」と怒られちゃったけど、お風呂やトイレは片付けても何も言われないわ」


「……」


「プレゼントも週に一度の木の日に必ずくれるのよ」


「木…ゴミの日?」


「ね?話したことなくっても分かるわ!優しい方でしょう?」


「……」


 姐さんが深すぎるため息をついて、眉間にすごい皺を寄せているわ。そんな顔してると、型になるわよ。


「あなたの愛情表現が重すぎることは理解したわ」


「ふふ…。ところで姐さん。何か(・・)情報はある?」


 小さな布袋を姐さんの前に置くと、姐さんはにやりと笑う。


「あるさ。とっておきがね」


 口調が変わった姐さんは手に持っていた細いキセルをくるくると回す。


「あんた、『フィル・ドーナ』は知っている?」


「『フィル・ドーナ』?あぁ、魔法武器を専門に作成する魔武具士だったかしら?」


 頷く姐さんに思い出す。


 フィル・ドーナ。有名な魔武具士で彼が作成する武器は強力かつ殺傷能力が高い。あまりの殺傷能力の高さに国はその武器を持つことを許可制にしたという。騎士や剣士が一度は憧れる、強力な武器だ。


「その『フィル・ドーナ』がどうしたの?」


「闇で取引されるモノの中には時々、その武器が出てくることがあるのよ。まぁ、偽物も多いんだけどね」


 頷くと、姐さんは顔を近づけて来る。


「先日、闇のオークションで『フィル・ドーナ』の武器が一つ登場したの。本物よ。持ち主が死亡した後、人知れず闇に流れたらしいわ」



「高額で取引されたそれを、あんたの兄、アブヒラドールの次男が手に入れたわ」


「中兄さまが?」


「そして…。




 あんたの兄は数日前に裏の仕事を引き受けている。




 『ガーナード家の長男暗殺』の依頼をね」



 

リューナが変になるのはフィアレインが関係した時だけです。それ以外は、割と冷静な10歳児。

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