じゅうよん な…にあれ―――!!
夜の学園は昼のそれとは、まるで別世界。
暗い暗い月の光もない中、高い校舎の間に人影が二つあった。否、実際には人は3人いるのだが、その内の1人は地面に倒れ込み、身動き一つしない。その人物に馬乗りになり両手で何かを握る男。そんな2人を少し離れたところから、見つめている男。
倒れ込んでいる1人は、別の1人が振り下ろす銀色の光を放つ『もの』によって、僅かに動かされている。
ぐちゃ。びちゃ。
なにか液体が零れ落ちるような音がただ、校舎の間に響いていた。馬乗りの男は、ただ銀の光を振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
その度に何かがあたりにまき散らされる。辺りには強烈な『臭い』。
倒れている人物は両手と両足を振り下ろされるモノと同じモノで地面に縫いとめられていた。爪の間には、細い針が何本も刺さり、頭は髪の毛を引きちぎられた痕があった。
「あぁ!あなたの言うとおりです!生きている人間など、みんな醜い!死した後のなんと美しいことか…」
楽しそうに!悦に入ったように!恍惚とした声の男はため息を零す。
そして、手に持つ銀色の光を放つ真っ赤に染まる『もの』を再び振り下ろす。
どすっ!
「人間の真の美しさは、死んだ後にこそ分かるのですね」
「…お前は分かる人間だと思っていた…」
立ったままの男は、静かな声でぼそりと呟くように言う。そう言われ、男はまるで神を崇めるかのようにもう一人の男を見つめる。真っ赤に染まる手を胸の前で組み、愉悦に満ちたようなため息を零す。
「あぁ!あなたは、私の崇める神にも等しい。あなたのそのお考え…私ではとても思い至らないものでした」
恍惚とした男は、跪き、頭を深く下げる。
「矮小な私めに、あなたのお名前をお教えいただけませんか?」
男を見下ろし、もう一人の男は、口の端を少し上げる。
「私の名は…」
ばちっ!!
「……」
眼が覚めた音だよ…。
(な…にあれ――――――――――!!ちょっ!!今見せる意味があったの?!フィアレイン?!)
「ゆめ…夢だけど、夢じゃなかったぁ…」
どこかのジ○リ映画の名言(?)みたいなことを思わず呟く。前世のゲームのワンシーンですた…。もちろんフィアレインの顔も相手の顔も影で見えないんだけどね。こっわ!性格悪いでしょ!昨日、あんなこと考えてた私への仕返し?!
(そういえばR15だったね…あのゲーム。ぐろ…)
ゲームでは正確な死体の描写はあまりなかったけど、妙にリアルだった。
あぁ、想像で色々補ってくれてありがとう。妙にリアルな原因は、補足しまくってリアルな血や内○やらを描写してくれちゃったせいだ!さすがに、動物をいろいろしちゃってるフィアレイン…。
(リアルに見ると、怖すぎる!!謝る!謝るから、もう見せないで―――!!)
昨日は怖い想像をしてしまったが、よく考えたら、私はフィアレインのことをあまり知らない。
なぜかって?フィアレインは自分の感じたことや心の内をご丁寧に鍵をかけて仕舞っているからだ。ちょい出しはしてくるくせに!例えば…足元の何かを踏みつぶしたときとか?
フィアレインは頭の中をきちんと整理しているのだけど、例えていうと、頭の中にたくさんの扉があり、項目ごとに分類分けしている。必要な時に必要な扉を開いて、いらない時は閉じておけば、頭に余計な負荷がかからないてわけだ。
(なんて、気が利くと言うか…自分の頭に負担がかからないやり方なんだろうけど、いっそ嫌味なくらいにできるヤツだわ!10歳の子どもとは思えない!)
そして、その中に鍵をかけている扉がいくつもある。
主なものは、フィアレインの感情、5歳前の自分、そして、母親の死だ。
感情が分からない。だから、フィアレインが何を考えて、『私』を前面に出しているのか全く分からない。知識だけのためなら、『私』という前世の性格はいらなかったはずだ。
ならば、なぜ?
「考えても分からないか」
立ち上がり、ドアに向かう。
無理やりドアを開くと、足元に食事が置いてある。
「『劇場』の効果か?」
どう見てもセレナ作の食事にため息が零れそうになる。逃げ帰ったか?それとも…。
ドアを閉めてから、食事に火を付ける。
「…あいつも同じか?それとも、本当に私の力になるのか?」
昨日着ていたローブのポケットに手を突っ込む。
(あれ?)
「花はどこへ行った?」
どこにやったんだろう?落とした?
探したが見つからない花に落ち込んでしまった。
だけど、ここで思考を…考えることを止めるべきじゃなかった。『フィアレイン』の目的を…深く気にしていれば…。
あんなことにならなかったんじゃないかと…私は後に深く後悔することになる。




