じゅうに ストーカーです!
「…ちょっとくらい…お風呂覗いてもいいかしら?」
(…やっと階段下で見つけたと思ったら、急にもだえて、いきなりの痴女発言?!)
キラキラの長い金髪をポニーテールにして、黒い短めのチュニックに茶色のベスト、レギンスのようなものを履いている。こんな子だったのか…。フィアレインの記憶には、姿がなかったから分からなかったけど、少女だというのは認識していた。壁に向かって、でも、とか、ちょっとなら、とか呟いている。
この年で、男の…
(中身女だけど!)
風呂を…
(トイレ以上に勇気が出なくて、服を脱ぐ前にUでターンしましたけど!それがなにか?!)
覗こうだなんて!!
(とんだ痴女だな、おい!!)
「…誰の風呂を覗くって?」
「そりゃあ、もちろ…ん…?」
ぎしぎしと壊れかけた人形のような動きで彼女は振り返る。大きな藍色の瞳が零れ落ちそうなくらい見開かれている。かわいい!文句なく美少女!さすが、乙女ゲームの世界!!しかし、それが台無しなのは言うまでもなく、奇行の数々のせいだ。いろいろ残念だ。
「…」
「…」
思わずお互いに沈黙。
「ふっ…」
ふっ…?
「…ふにゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
叫び声とともに、私の横をすり抜けて、走り去っていく。はっ!思わず見送っちゃったよ!
しかし、あの子の顔…。
いやな予感がするぐらい、見覚えがある。あれ…名前を聞かないと自信はないけど…『リューナ』じゃないよね?まさかね!
ため息をつきながら、のんびり追いかける。たぶん、家からは出ていないだろう…。私がこの家にいる間に、私を見る…同じ空気を吸う機会を逃す訳がない。
勝手に後を付けまわして個人情報を調べたり、知らないうちに勝手に合鍵を作って家に入り込んで、ゴミの日に出したゴミを勝手に持って帰って、部屋を勝手に掃除をする。意味不明な分厚い重苦しい手紙を寄こしたり、呪いでもかかっていそうな変な人形を送り付けてきたり…。まぁ、本邸の方には来ることがないし、隠し通路を通ることもないあたりはわきまえているんだろうけど…。
(はい!その通り!!誰がどう見ても、どう考えても、ストーカーです!!しかも、思い込みが激しい系…)
それを放置しまくっているフィアレイン…。害がないからって、後をつけてくるのも、家に入っても放っている。しかも、便利に使っていた節がある…。ようやく二ケタの歳の子どもになんてことをしているんだ…。とは言え、この家の掃除には、ちょ~っとどこかに行ってて欲しいんだよね~。さすがに、これから捨てる本とか色々を女の子が持って帰るのは賛成できない。
しかし、フィアレイン…
出すゴミに罠をしかけたり…
(引っかからなかったみたいだけど)
分厚い手紙を全部読んだり…
(しかも、おもしろすぎてクスクス笑っていた)
変な人形をさらに変な装飾をしてゴミにだしたり…
(彼女は嬉々として持って帰っていたけど)
完全に玩具扱いで遊んでいたよね~?!
「…た…っ」
ん?
「うふふ。話しちゃった!話しちゃったわ!ふふ!しかも、嫉妬までされちゃったわ!」
見つけた!今度は、キッチンのテーブルの下か…。床にのの字を書いて、眼をきらっきらさせている。
嫉妬?なんのことだか…?あの一言に、そんな要素があったっけか?ん?
(「誰の風呂を覗くって?」→「私以外の男の風呂を覗くつもりじゃないよな?」ってことか―――――!!電波だ!何を受信したんだよ!!おもしろいくらいに思い込みの激しいストーカー…!!)
しかし、使えるのは事実なんだよな~。
「…唐突に、シベルラ産の牛肉が食べたくなったな。本場の…」
ぼそっと独り言のように、キッチンのテーブルには眼をやらずに呟く。
がたっ!!どたどた!!がちゃ!!ばたん!!
(ちょろい…単純すぎて、お姉さん、涙が出ちゃうよ…。…おい!どこのどいつだ!10歳からしたら、大学生なんておばさんだって言ったやつ!!表出ろや!!!20代はまだお姉さんですぅ!!)
彼女が出て行ったドアにしっかりと鍵をかけて、彼女はしばらくは戻らないだろうと予測をつけた。北のシベルラまで、馬車で片道3日。まぁ、最短で6日は帰って来ないだろう。馬に乗ればもう少し、早いか…。その間に、シャルドを懐柔させる策も練らないとな。
…だけど、その前に、覚悟を決める必要がある!!
………風呂に入る…覚悟を!!




