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触れてはいけないもの

 兼元 慎二は私の彼氏。


 5つも年上なのにも関わらず、私を好きだといってくれた。


 私は慎二くんの気持ちに応えられるようにいつも背伸びをしている。







「愛梨。おいでよ」


 慎二くんは今年、21歳なった十分な大人だ。


「まだ、宿題してるの」


 私、林田 愛梨は16才で高校に進学したばかりだ。


「愛梨ー。宿題、わからないところある?」


 ソファからごろーんと伸びてきた巨体。


 慎二くんは身長185cm。


 足が長くて顔が小さいくて。


「大丈夫」


 私はそういって難易度の高い問題を解き進める。


♪~♪~♪


 玄関から慎二くんの携帯の着信音が聞こえた。


 慎二くんはゆっくりと立ち上がり、のそのそと見えなくなる。


「慎二くん・・・仕事かな・・・」


 慎二くんの声が聞こえる。


 かすかに眠たそうなその声は電話越しの相手から何か怒鳴りつけられている。


「愛梨、ごめん。急に仕事が入った・・・」


 そう寂しげにいう。


「うん、分かった。じゃあ、私、帰るね」


 机に広げていた教科書やノートをまとめて鞄の中にいれる。


「ごめん」


 慎二くんは呟くと後ろからぎゅっと抱かれた。


 栗毛のやわらかい髪の毛が私の頬にあたる。


 なんだかくすぐったい。


 けれど、この場から離れたいなんて思わなかった。


「慎二くん、お仕事頑張ってね。応援してるから」


 私はそういってそっと慎二くんの腕を離れた。


 こうしなければ、慎二くんは仕事に行けなくなってしまう。


 













 夕方には家に帰って家族と食事をする。


 どこにでもある風景。


「お父さーん。お風呂上がったよー」


 リビングでテレビを見ている父に声をかけて水を一杯飲む。


 テレビの画面には慎二くんがきれいな女優さんやアイドルに囲まれている。


 これが、普通。


 私と慎二くんが一緒にいるのが異様なのだ。


 だって、慎二くんはアイドルという名のテレビの中の人物なのだから。


 私は唇をきゅっとかみ締めた。


 これは家族にも友達にも話していない私と慎二くんだけの隠し事。

















 私が丁度中学2年生に進学したとき、慎二くんは19歳。


 そのころから若手イケメン俳優と呼ばれる中でもずば抜けてかっこよかった。


 私の周りの子も慎二くんのファンがたくさんいた。


 もちろん、スポーツも得意でその映像や話題を度々、テレビで披露していたから男子からも人気だった。


 朝の連続ドラマにも出演していたり幅広い年齢の人から人気を得ていた。


 でも、中学2年生の私は慎二くんの存在を知らなかった。


 それは、テレビを極端に見なかったからだ。


 両親から止められていたわけでも、家にテレビがなかったわけでもない。


 漫画や小説を読む方を好んだからだった。








 そんなときだった。


 私が仲の良い友達に慎二くんの出待ちに誘われたのは。


「愛梨、大丈夫?」


 友達と遊んだ後の出待ち。

 

 女の子がたくさんいた。


 その日は、朝から体調も良くなかった。


「ごめん、ちょっとお手洗いにいってくるね」


 友達は無理しないでいいからね、と優しく声をかけてくれた。


 お手洗いにいくというのはちょっとしたウソ。


 体調を少しでも和らげるために近くの公園にあるベンチに腰掛けていた。


 柔らかな日差しが心地よい。


 ふと、誰かが隣に座った。


 男性だった。


 その男性は黒い帽子を深くかぶり、眼鏡をかけ、黒いジャンバーを着ていた。


 少し不審者に見えた。


 私は男性と一定の距離を置き座る。


 男性の携帯が鳴った。


 男性はゆっくり携帯を耳にあてた。


「そっちには戻りたくないんだ」


 男性は恐る恐る声を出す。


 携帯からはかすかに怒鳴り声が聞こえる。


 男性は携帯を切ってから、数分間、隣でわかりやすいように落ち込んでいた。


「何か・・・あったんですか」


 私は警戒しながら聞く。


「うん?・・・あぁ、ごめんね、隣でこんな風にしちゃって。大丈夫だよ」


 男性は顔があまり見えないようにそう答えた。


 そうですか、としかいいようがなかった。


 




 

 また、数分経った。


 それでも、男性は動こうとしなかった。


 ふと、目線を落とすと、男性の手の甲に大きなえぐったような傷があった。

 

 しかも、まだ赤々としていて、傷ができて間もないようだった。


 私はバッグからバンソウコを10に等しいほど出した。


 ついでに日頃から携帯している消毒液も出した。


「あの、手、見せてもらってもいいですか?」


 男性は不思議そうに手を出した。


 傷に消毒液を塗る。


 どんどん傷がなくなっていく。


「ん?」


 男性はそれを見て不思議そうな声を出して、笑い出した。


「ごめんね、これ、本物の傷じゃないんだ」


 傷は手の甲からきれいさっぱり消えた。


「特殊メイクっていうやつだよ。ごめんね、手当てさせちゃって」


 そういって顔を上げる男性は友達のいっていた兼元 慎二だった。


 私の目が点になっているのを見た慎二くんは両肩をがっしりと掴んだ。


「今あったことは全部忘れて。誰にいってもだめ。ネット上に流してもだめだから」


 そういってアメをくれた。


 まるで子ども扱い。


 慎二くんは走ってどこかへいってしまった。










 その後、友達と合流するも出待ちが中止され断念した。

 

「もう!せっかくここまできたのに!」


 友達はとても悔しそうだった。


 



 私は家に帰って、慎二くんに手紙を出してみた。


 ファンレターというのだろうか。


 驚くことに慎二くんから返事がきた。


 そして、今度、会おう、という内容にまで発展してしまった。


 それからというもの、私と慎二くんは恋人になり、今に至る。










「愛梨。俺、愛梨がいないと生きていけないかもしれない」


 慎二くんはテレビのときとは違って、とても繊細で崩れやすい生き物だ。


「大丈夫だよ。私はどこにもいかないから」


 私はいつまで慎二くんの隣でこうしていられるのかな。


 いつまで笑っていられるんだろう。


 慎二くんの隣で・・・。



                                          END

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