46 最終回
数年後。
二〇〇〇年前後。
東京。
「…………」
田中レイ、二十代。
「のだぁ〜〜♡」
妙に機嫌が良かった。
リビング。
ソファ。
暖房。
そして。
台所から漂う夕飯の匂い。
「のだぁ……」
レイはしみじみしていた。
「結婚生活なのだぁ……」
前回人生。
想像していたような。
していなかったような。
でも。
今。
本当にある。
「…………」
橘彩音。
現在。
田中彩音。
「できたよー」
「のだっ♡」
レイは即座に立ち上がった。
結婚して数年。
それでも。
未だに彩音がご飯を持ってくるだけで嬉しそう。
「今日は生姜焼きなのだぁ♡」
「好きでしょ?」
「愛なのだぁ♡」
「便利ワード」
彩音は笑いながら皿を置いた。
「…………」
部屋。
普通のマンション。
だが。
かなり良い部屋だった。
「のだぁ……」
理由。
株。
「うむっ♡」
レイ。
若い頃から。
将来伸びる企業へかなり投資していた。
ネット。
IT。
ゲーム。
通信。
「…………」
しかも。
妙に握力が強かった。
途中でビビって売らなかった。
「のだぁ……」
結果。
かなり増えた。
「うむ!」
そして。
創作も。
そこそこ成功。
『江戸時代フィジカル無双』
『落ちこぼれ御曹司の成り上がり』
「のだっ♡」
特に。
黒沢モデルの江戸タイムスリップもの。
妙に売れた。
「…………」
読者。
『主人公の身体能力高くて気持ちいい』
『変に生活感ある』
『妙に人間関係がリアル』
『ギャグがうるさい』
「のだぁ♡」
レイ、大満足。
さらに。
西園寺モデルの御曹司ものまで当たった。
「うむぅ……」
現実でも。
西園寺の家は一度かなり落ちた。
父親の事業失敗。
借金。
揉め事。
「…………」
だが。
西園寺本人が這い上がった。
営業。
人脈。
度胸。
そして妙な負けず嫌い。
「のだぁ……」
今では。
普通に成金社長だった。
「…………」
ちなみに本人は。
「誰がハーレム主人公だ」
と未だに文句を言っている。
「のだっ♡」
レイは夕飯を食べながら笑っていた。
「うまいのだぁ♡」
「よかった」
「ご飯が美味しいのだぁ♡」
「うん」
「結婚最高なのだぁ♡」
「また始まった」
だが。
レイは本気だった。
「…………」
前回人生。
一人で食べることが多かった。
コンビニ。
カップ麺。
深夜。
「…………」
でも今は。
帰る家がある。
妻がいる。
温かいご飯がある。
「のだぁ……」
本当に。
それだけで幸せだった。
「うむ!」
だが。
一つ問題もある。
「彩音ぉ」
「何」
「布団取るのやめるのだぁ」
「取ってない」
「毎日寒いのだぁ♡」
「知らないよ」
「吾輩、端っこなのだぁ」
「寝相悪いからでしょ」
「のだぁ……」
レイはしょんぼりしていた。
「結婚前の予想が当たったのだぁ……」
「何の」
「布団戦争なのだぁ」
彩音は吹き出した。
「まだ言ってる」
「深刻なのだぁ」
「冬になると毎回言うよね」
「命の問題なのだぁ」
だが。
彩音は笑っていた。
「…………」
結婚生活。
忙しい。
仕事。
締切。
税金。
生活。
「…………」
でも。
ちゃんと幸せだった。
「のだっ♡」
その時。
電話が鳴る。
「のだ?」
レイが出る。
『おい』
「のだぁ?」
西園寺だった。
『今度の新作、また俺モデルか?』
「うむっ♡」
『やめろ』
「成金なのだぁ♡」
『お前のせいで俺、取引先に“ハーレム御曹司”って呼ばれたんだぞ!』
「人気者なのだぁ♡」
『ぶっ飛ばすぞ』
電話越しでも元気だった。
「…………」
彩音はその様子を見ながら少し笑った。
「西園寺君、ほんと元気だね」
「うむ」
「昔よりさらにうるさくなったのだぁ」
『誰のせいだと思ってんだ!』
リビングに笑い声が響く。
「…………」
レイはふと思った。
前回人生。
孤独死した自分。
何も残らないと思っていた。
「…………」
でも。
今。
ちゃんと。
人がいる。
家族がいる。
友達がいる。
作品がある。
「のだぁ……」
そして。
隣には。
彩音がいる。
「…………」
レイは急に彩音へ抱きついた。
「わっ」
「幸せなのだぁ♡」
「急に何」
「ご飯美味しいのだぁ♡」
「はいはい」
「結婚して良かったのだぁ♡」
「…………」
彩音は少し笑って。
そのままレイの頭を撫でた。
「私も」
「…………」
レイ停止。
「…………」
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「また感動してる」
だが。
レイは本当に泣きそうだった。
「…………」
前回人生では。
絶対に辿り着けなかった場所。
「うむっ♡」
レイは彩音へ抱きついたまま笑った。
「人生、やり直して良かったのだぁ♡」




