表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独死したおっさん、高校時代へタイムスリップ  作者: 雪だるま
橘彩音ルート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/46

37

 春前。


 二月。


 寒さはまだ残っていた。


 だが。


 教室の空気は少し変わっていた。


「受験どうする?」


「模試やばい」


「塾増やされた……」


 高二の終わり。


 つまり。


 “受験生になる時期”。


「…………」


 橘彩音は忙しかった。


 机。


 参考書。


 単語帳。


 問題集。


「…………」


 もともと真面目だった。


 だから。


 受験モードに入るのも早い。


「はぁ……」


 昼休みも勉強。


 放課後も塾。


 帰宅後も勉強。


「橘、最近ずっと勉強してるね」


「まあ受験近いし」


「偉すぎる」


 真里が呆れていた。


「…………」


 その一方。


 レイも忙しかった。


「のだぁ……」


 原稿。


 投稿。


 読者コーナー。


 小ネタ。


 コラム。


 ギャグ短編。


「…………」


 相変わらず落選も多い。


 だが。


 最近は。


 たまに載る。


「のだっ♡」


 ゲーム誌の端。


 サブカル誌の小投稿。


 名前が載る。


 少し原稿料。


「うむぅ……」


 小さい。


 かなり小さい。


 でも。


 レイには十分嬉しかった。


「…………」


 そして。


 いつの間にか。


 二人とも。


 前より忙しくなっていた。


「…………」


 だから。


 最近。


 一緒にいる時間は減った。


 帰り道も。


 デートも。


 減った。


「…………」


 だが。


 別に。


 空気が悪いわけではない。


 喧嘩もない。


 むしろ。


 自然だった。


「…………」


 昼休み。


 窓際。


 レイは原稿用紙に何か書いていた。


『追放された悪役がコンビニを経営する話』


「…………」


「田中君」


「のだ?」


 彩音が隣に座る。


 参考書を持っている。


「また変なの書いてる」


「時代が来るのだぁ♡」


「来ないよ」


 だが。


 二人とも自然だった。


 ただ。


 前みたいにずっとイチャイチャしてる余裕はない。


「…………」


 彩音は英単語帳を開いた。


 レイは原稿を書く。


 しばらく無言。


「…………」


 でも。


 妙に落ち着く。


「のだぁ」


「ん?」


「眠そうなのだぁ」


「昨日三時まで勉強してた」


「のだぁ……」


 レイは少し眉をひそめた。


「頑張りすぎなのだぁ」


「受験生だから」


「大変なのだぁ……」


「田中君も締切あるでしょ」


「うむぅ」


 レイも最近。


 妙に忙しい。


 しかも。


 書けば書くほど。


 “もっと上手くなりたい”が出てくる。


「…………」


 前回人生。


 途中で投げていたことを。


 今は続けている。


 だから。


 意外とエネルギーを使う。


「のだぁ……」


 その時。


 彩音が小さく欠伸した。


「眠い?」


「ちょっと」


「のだっ」


 レイは自然に自分の肩を軽く叩いた。


「使うのだぁ」


「教室なんだけど」


「うむ」


 彩音は少し笑って。


 そして。


 少しだけ。


 レイの肩にもたれた。


「…………」


 静か。


 教室のざわめき。


 ページをめくる音。


「…………」


 レイはそのまま原稿を書き続けた。


 彩音は単語帳を見る。


「…………」


 前みたいに。


 毎日大騒ぎではない。


 でも。


 これはこれで好きだった。


「のだぁ……」


 レイは少し思った。


 前回人生の自分なら。


 “最近会えてない”だけで勝手に不安になっていた気がする。


 でも。


 今は違う。


「…………」


 彩音が頑張ってるのを知っている。


 彩音も。


 レイが頑張ってるのを知っている。


「…………」


 だから。


 焦らない。


「のだっ♡」


 その時。


 彩音がぼそっと言った。


「最近、原稿載る回数増えたね」


「うむっ♡」


「この前、真里が雑誌見つけて騒いでた」


「有名人なのだぁ♡」


「まだ小さい投稿でしょ」


「だが一歩なのだぁ♡」


 レイはちょっと誇らしげだった。


「…………」


 彩音はそんなレイを見て少し笑った。


「ちゃんと続けてるの偉いね」


「のだぁ?」


「前まで途中で飽きそうなタイプだったのに」


「うむぅ……」


 レイは少し考えた。


「今回は途中で終わりたくないのだぁ」


「…………」


「ちゃんと形にしたいのだぁ」


「…………」


 彩音は静かに頷いた。


「うん」


「のだっ♡」


 その時。


 教師が入ってきた。


「席つけー」


「のだぁ」


 彩音が体を起こす。


「また後でね」


「うむっ♡」


 二人は自然に離れた。


 でも。


 どこか安心感がある。


「…………」


 窓の外。


 まだ寒い空。


 受験。


 進路。


 将来。


 少しずつ。


 高校生活の終わりが近づいていた。


「…………」


 レイはふと彩音を見た。


 真面目な顔でノートを開いている。


「のだぁ……」


 忙しい。


 前より一緒の時間は減った。


 でも。


「…………」


 ちゃんと隣にいる。


 それだけで。


 前回人生より、ずっと良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ