27
土曜日。
都内。
雑居ビル。
「…………」
田中レイは緊張していた。
「のだぁ……」
手には原稿。
ゲーム雑誌向けの小コラム。
変な海外雑学。
ゲームあるある。
ギャグ。
勢い。
「…………」
前回人生。
レイは。
“どうせ無理”で、こういう場所に来なかった。
投稿しない。
持ち込まない。
挑戦しない。
だから。
今は違う。
「うむ……」
雑誌編集部。
階段が妙に狭い。
タバコ臭い。
壁にはゲームポスター。
一九九二年。
まだ紙媒体が強い時代。
「失礼しますなのだぁ……」
レイはドアを開けた。
「はい?」
編集部。
大人たち。
忙しそう。
電話。
灰皿。
カップ麺。
「のだぁ……」
レイ、ちょっと感動。
“創作の現場”っぽい。
「投稿持ってきたんですけど……」
「あー、そこ置いといて」
「のだっ」
だが。
レイは帰らなかった。
「…………」
編集のおじさんが顔を上げる。
「何?」
「感想欲しいのだぁ」
「は?」
「吾輩、将来作家になるかもしれないのだぁ♡」
「高校生?」
「うむっ♡」
編集はちょっと面倒そうだった。
だが。
暇だったのか。
「……どれ」
原稿をめくる。
「…………」
レイ、緊張。
数分後。
「…………」
編集、真顔。
「のだぁ?」
「君」
「うむ?」
「文章下手だね」
「のだぁ!?」
即死。
「テンポはあるけど」
「のだっ♡」
「うるさい」
「のだぁ……」
「あとオチ弱い」
「のだぁ……」
「説明多い」
「のだぁ……」
「キャラは妙に変」
「のだっ♡」
「褒めてない」
レイ、撃沈。
「うむぅ……」
だが。
編集は原稿をペラペラめくっていた。
「でも」
「のだ?」
「妙に読める」
「!!!!」
レイ、復活。
「のだぁぁぁぁ♡」
「あと変な熱量ある」
「うむっ♡」
「勢いで押し切ってる感じ」
「才能なのだぁ♡」
「未完成なだけ」
だが。
レイは嬉しかった。
前回人生。
こういう“直接評価される場”から逃げていた。
怖かったから。
「のだぁ……」
でも。
今。
ちゃんと酷評されている。
つまり。
読まれている。
「…………」
編集はさらに言った。
「君、たぶんインプットはしてるよね」
「のだっ♡」
「でも文章として整理できてない」
「のだぁ……」
「あと、自分で面白がってる部分を読者に伝える技術が足りない」
「うむぅ……」
レイは真剣に聞いていた。
高校生なのに。
妙に素直。
「でも高校生でこれなら悪くないよ」
「のだ?」
「普通はもっと無難」
「うむ!」
「君、妙に変だから覚えやすい」
「のだっ♡」
レイ、嬉しそう。
「あと」
「のだ?」
「量書いた方がいいタイプ」
「…………」
その言葉。
レイに刺さった。
「量……」
「下手でもいっぱい書け」
「のだぁ……」
「今の君、考え込むより数こなした方が伸びる」
「うむっ!!」
レイは突然立ち上がった。
「もっと書かなきゃなのだっ♡」
「元気だな君」
編集はちょっと笑っていた。
普通。
高校生は酷評されると落ち込む。
でも。
レイは違う。
「のだぁ♡」
レイは妙に嬉しそうだった。
「吾輩、前よりずっと楽しいのだぁ♡」
「変わってるねぇ」
「うむっ♡」
レイは本気だった。
前回人生。
何もしなかった。
だから。
何も返ってこなかった。
でも今は。
出した。
読まれた。
酷評された。
それだけで前進なのだ。
「のだぁ……」
編集は最後に原稿を返した。
「また持ってきな」
「!!!!」
レイ停止。
「のだぁ?」
「改善したらね」
「…………」
レイの目が潤む。
「のだぁぁぁぁぁ!!」
「泣くな」
「うぇええええん!!」
「情緒どうなってんの」
編集部の他の人間まで笑っていた。
「また変なの来たな」
「でも勢いあるなアイツ」
「若いって感じ」
「のだぁぁぁ!!」
レイは原稿を抱きしめていた。
「吾輩、書くのだぁ!!」
「頑張れ頑張れ」
「連載王になるのだぁ♡」
「まず日本語覚えろ」
「のだぁ!?」
編集部、爆笑。
その帰り道。
夕焼け。
レイは駅へ向かって歩いていた。
「のだぁ〜〜♪」
妙に機嫌が良い。
酷評されたのに。
「…………」
でも。
五十歳まで生きたレイにはわかる。
何も言われないより。
読まれて。
反応される方がずっと良い。
「うむ!」
レイは拳を握った。
「もっと書くのだぁ♡」
その目は。
少しだけ、本気の創作者の顔になっていた。




