本木ににまさる末木なしⅠ The first is the best.
僕らは再び電車に揺られ、良い機会だからと先輩がある店に連れて行ってくれることになった。
「家の近所なんだ、これが」
「へぇ〜」
先輩と僕は最寄り駅が同じだ。でも、通勤も帰りも一緒になることはまずないんだよね。
「南口から出るぞ」
「賑やかな方ですね」
「そうそう」
先輩は得意気に頷く。
「会員制の店なんだが、紹介したい人がいてさ」
会員制? 思わず眉が上がるよ。
高級店なんて行ったこと無いから緊張するなぁ。
「お前が考えてるようなのじゃないからな。社交クラブみたいなもんだ」
社交クラブって、余計に謎だよ。
改札を抜けて、いつもと違う出口へ向かう。
「ちょっと歩くぞ」
「うっす」
酔い覚ましにちょうどいいや。スタスタ歩く先輩の後ろを追って行く。
「日向って帰国子女だろ」
「そーっす」
何を今さら。先輩こそ米大出てるじゃないですか。
繁華街を歩く間も先輩の足取りは軽いままだ。
「お前の英語、きれいだよな。イギリス英語って品があっていいよな」
「え、嬉しいっす」
先輩に言われると何か照れるな。
「でも僕の英語、所詮お子様英語っスよ。16で帰国してますし」
フィフスフォーム(高1)で戻ってきたんだ。まだまだ子どもだったよ。
「へぇ、そういうもんか」
「先輩みたいに向こうの大学出てる人のほうがずっと凄いっすよ。僕、女性口説けないし」
間を置いて、先輩が鼻で笑う。
「なるほどな〜」
気づけば繁華街を抜け、住宅街へ入っていた。
「ところで、ただの興味だが……生まれたのはどこだ」
「ドイツっす。デュッセルドルフ」
戸建ての多い静かな道を、どんどん歩いていく。
「デュッセルドルフか。さすがに行ったことないな」
先輩が大きく伸びをする。
「そこからフランス、イギリスって感じです」
「俺なんか日本のド田舎だぞ。子どもの頃から海外を知ってるのは強みだよ」
「だといいですけど。小さすぎて記憶あるのイギリスだけです」
先輩が振り返って僕を見た。
「親が外交官ってのも大変だったろ。引っ越し先が異国だと友達できにくいだろうし」
「まぁ、簡単じゃなかったっすね。だから小学生で帰国してできた友達は今でも大切です」
小3の春に出会ったあの4人は、一生の親友だ。
「なるほどな。そりゃ慎重になるか」
「はい。そういうことです」