落花情あれど流水意なしⅤ The love is one-side.
「ところで、社内でよく話す子って誰かいる」
「は?」
何ですか突然。女性と話すって、あんまり無いけど。
うーん。
「生方さん?」
「経理の? 口悪いけど、経費だけは神速の」
「ほんと助かってます。先輩の分まで毎回一緒に出すから」
両手で角を作ってやると、先輩は「はいはい」と笑って頷いた。
「あはは、学生インターンなんて初めてだからな。子供に金払わせてって言いたいんだろうな」
「良い人っすよね」
「他には」
「……すわさん?」
だったよな。名前を覚えるの苦手なんだよ。
「久美ちゃんか。総務の。相談役してんだよな」
「先輩と諏訪さんの夫婦漫才、好きです」
「なんだそれ。今年からインターン制度入れたからな。各部署のプレッシャーすごいんだよ」
言いながら生を飲み干し、空のグラスを掲げ「レモンハイ」と大声で叫んだ。
わぁ、これもジョッキで頼むんだ。
しかし、元気だこの人。
「これ、先輩の案だったんですよね」
「俺だけじゃないよ。お国も噛んでんだ」
届いたレモンハイで一息つく。
もう、半分飲んでんじゃん。
バブル期の青田買いと違って、今は氷河期だからなぁ。
残りカスでもいいから、何か無いんですかね。
「この数年、地方に良い人材、流れちまったからな。学生の質は上がってるはずなのにさ」
「確かに」
先輩はそういってまたジョッキを傾けた。
飲み干す勢いだな、よく飲めるよ。
「外に打って出られる人材が欲しいんだよ。内需だけじゃ回らないからな」
「バイリンガル、まではいかなくても」
「そういうこと」
国立大だけど、俺らのとこは企業寄りだから顕著なんだと、先輩は笑った。
「だからお前を真っ先に寄こしたんだよ」
「僕なんか推薦されてたんですか?」
「ヤマちゃん先生がな」
やまちゃん先生? ええっ、山寺助教授ってそう呼ばれてたんだ。
へぇー。
「……でも人妻好きは知らなかったなぁ」
「ぶはっ」
思いっきりむせた。