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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all. 2 1995年 夏 亘編
30/60

草刈る山路が笛の音1 Every step you take, my eyes follow. 扉絵付き

改訂版です。

挿絵(By みてみん)


 あー。

 紅緒を部屋に入れてしまった。 

 くそぉ、今夜は一人になりたくなかったのに。

 崇直に泊まっていけって、言えばよかった。

 

 せめて下まで見送りたかったのにさ。

 あんなにあっさり帰らなくても良いじゃないか。

 

 ん?

 エレベーターの↓ボタンが点灯してる。


 

 あーーーーっ!!!

 今夜、家で久々に飲もうぜって言ってたんだった。


 あぁあぁぁ、すまん。

 色々とすまん崇直。

 

 エレベーターが上昇してきた!

 崇直が戻ってきたんだよな。


 エレベーターが到着したベルが鳴る。


 ドアが開くと、崇直が腕組みしてこっちを見ていた。

 

 「崇直、スマン」


 本当にごめん。すっかり忘れてた。

 呆れ顔で、一瞥される。

 だって。


「まさか、紅緒がいるなんて思わねーだろ。それに、先輩がまー爺どころか紅緒やおまえとも顔見知りって」


 思わずため息が出る。誰が想像するってんだよ。世間が狭すぎるんだって。

 だとしても。


「僕だけ蚊帳の外だ……」


 落ち込んでたら、崇直が肩を軽く叩いてきた。


「まーそんなに、落ち込むなって。接触絶ってたそっちにも問題あるからな」


「それは否めん」


「おまえ、まー爺の仕事知らなかっただろ」


 そーなんだよ。必殺遊び人が名刺持ってたんだよ。


「驚いたよ。笠神ビルの取締役だって。名刺もらちゃった」


 崇直によるとあのクラブのオーナーで、そっちがメインの仕事らしい。

 先輩も言ってたな、人と人を繋ぐ仕事だって。

 今、僕が学んでるのが、正にこの「暗黙知としての人脈の構造化とサプライチェーンの効率化」なんだよね。 

 意気揚々と説明してたはいいが。

 まいったね。崇直が、腹減ってると思って何かないかと冷蔵庫開けたんだけどさ。

 

「どうしよう、崇直。ナンにもない」


「コンビニでも行くか?」


 お互い顔を見合わせる。


「腹減ってる? もしかして」


 だよな。僕のせいで、ゴメンよ。


「冷凍の餃子があるんだ。生餃子、近所の中華屋で冷凍買ってきてたんだ。それからご飯もあるから、それ食べよ、な」


 僕は冷凍庫から餃子の入った袋を取り出した。確か二人前はあったはず。

 パントリーを開け、買い置きのパックご飯を取り出しシートをはがして電子レンジに突っ込んだ。


 餃子は箱入りなんだが、ビニールでコーティングが手じゃ裂けねーや。

 歯で噛み切れるか、これ。

 よし上手く裂けたぞ。

 焼こうとしたら崇直が自分でやるからと、フライパンごと持っていかれた。


 それにしても、喉が渇くな。あんな酒の飲み方はやっぱ宜しくないね。


「晩飯は先輩と食べたから、全部食って。あー、喉がカラカラだ」


 そうだ、紅緒が作ってくれたレモン水、あれ美味かったな。崇直の分も作ってやろう。

 あの麦茶も、今度教えてもらって買っとくか。


「これ美味いな。麦茶もだが、なんか今日は意外なことだらけだったよ」


 レモン水を渡すと、崇直は一口呑み美味いねって笑った。

 トレイを出してやったら、そこに焼きたての餃子とチンした炊きたてご飯、レモン水を乗せリビングへ持っていった。


 美味そうに餃子を食ってる崇直を見てたら、幸せそうで何だか眠くなってきたよ。

 欠伸が止まらない。


「ふああぁ〜っ。食ってる間に先に風呂入ってて良いか。布団だ出すの面倒だから、一緒でいいよな」


 ゴメン崇直。

 いつも僕が隣で気持ち悪いだろうが、一人寝は特に今日は辛いんだ。付き合ってくれ。


「ついでにパジャマも出しとくよ」


 あーあ、すっごい呆れた顔でこっちを見てるよ。

 こんな男が親友で、崇直も災難だよな。

 ごめん。

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