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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all.2 1995年 夏 亘編

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草刈る山路が笛の音2 Every step you take, my eyes follow.

久々に同衾した二人だが、崇直は眠れたのか?

 紅緒に醜態を晒した翌日は、朝から賑やかな声で起こされた。

『わーちゃん、崇ちゃーんっ。おはよ~っ。買い出し行ってきたよーーーっ』

『わーちゃん、昨日は僕ごめんね~。二日酔いになってない』


 やばい。非常にこれはやばい。

 紅緒が来たよ。

 どーしよう。

 腕にまだ紅緒を抱きしめた感触が残ってんだよ。

 まともに顔見れないよ。あんな醜態晒して。

「おあ゙あ゙っ」

 嫌われてたら、生きていけない。

 崇直、助けてと背中をつついた。

「なに? うわっ、びっくりした。何赤くなってんだよ」

 急に振り向くなよ、こっちだってビックリするじゃん。

「崇直、ベー怒ってないかな」

「なんで」

 え、怒ってないのか。

 呆れてんじゃないのか。

 嫌われたりしてないよね。

「いや、その、アレだ」

 何ていうか、ずっと会ってなくてさ。みんな知り合いなのに僕だけ置いてけぼりでさ。

「自分で確かめろよ」

 そんな事言うなよ~。

 崇直は面倒くさそうに四つん這いになって、僕を睨んだまま僕の体を乗り越えていく。

 降りたついでに崇直が窓の遮光カーテンを開けたら、眩しいくらいの朝日が差し込んできた。

 うわぁ、崇直くん、頭爆発してるじゃん。

 両手を上げ伸びをする。

 不機嫌な顔で僕を見下ろし欠伸を一つ。

「行ってくるか」 

 あ、そのまま行くんだ。

 もともと崇直は直樹ともどもクセのない髪をしてたんだ。

 少なくとも中学までは。

 こっちに戻ってきたら、何故か崇直だけ癖っ毛になってて、パーマかけたのかと驚いたよ。

 学校の王子さまだからちょうど良いんだよって、紅緒が笑ってたっけ。

 僕も直樹もクセの無いストレートヘアだ。

 癖っ毛の紅緒にずっと羨ましがられてて、それが内心嬉しかったんだよな。

 紅緒の場合は、癖っ毛通り越して巻き毛だから。

 それはそれで、とても可愛くて似合ってて良いと思うけど、本人は直毛に憧れてるらしい。

 おっと、僕も着替えないと。

 

「おはよー、わーちゃん。昨日はよく寝れた?」

 ドアが開く音がし、元気な声が響いてきた。

「おっはよー、わーちゃん。昨日はごめんな。平川さんと同じ物出して」

 あーあー、あっという間に部屋が賑やかになったよ。

「いや、一気飲みした僕が馬鹿だったんだから、気にしないで」

「ごめんね。コレ母さんからの差し入れ。冷蔵庫に入れとくから」

 いいって、ありゃおばちゃんそんな気を遣わなくても。

「そこに置いておいていいよ、樹」

「わーちゃん、頭痛くない? 二日酔いになってたらってママがね」

 と今度は紅緒がしじみを出してきた。

「味噌汁にしたら良いのよって。どうする作ろうか」

「すき焼き作るんじゃないのかよ」

 崇直が横から肉を出して、こっちに見せる。

 特売だったらしい。

「味噌汁は、今度でいいよ。ありがとうべー」

「じゃ、冷凍しとくね。お酒呑んだ日はしじみだよ」

 ありがとう、紅緒。先輩に付き合った日はそれ作って飲むよ。

「ほんじゃ、すき焼き作るって言うから準備しますか。樹は出かけるんだろ」

「あ、ごめんわーちゃん。僕、今から行かなきゃいけなくて。コレ、ここに置いとくね」

 崇直に言われ、帰る樹に楽しんでこいよと言ったら、照れながら出かけていった。 

「あ、お米準備しなきゃ。わーちゃん、このお米使って良い?」

 思い思い各自勝手に喋ってるのに、会話になってるのって良いな。

 昔を思い出すよ。

「樹のくせに、狭山とデートだってよ」

 崇直が棚から降ろしたテーブルコンロを箱から取り出し、ガス缶の確認してる。

「ガス缶、パントリーの下の棚」  

 樹は狭山とデートかぁ。羨ましいなぁ。

 僕はずっとデートなんてしてないな、そう言えば。


「わーちゃん、これ切ってて」

 と白菜が飛んできた。

 おっと、とキャッチして。

 これ、ざっと洗えば切っていいのか。

 そういえば、とにかく樹は狭山命だったんだよな。

 幼稚園の頃からプロポーズしていたって、崇直がからかってた。

 それがホントかは別として、今付き合ってんだから樹は大勝利じゃん。

 狭山は紅緒の親友で、高校時代からバスケットの日本代表選手に選抜されていた、いわゆる天才だ。

 体躯にも恵まれ、身長は百八十はあるはずだ。

 僕以外は全員バスケ経験者で、崇直たちは二年の時インターハイ出場を果たしている。

「来年結婚が決まったんだよ、樹のくせに」

 弟に先越されるの、そんなに嫌ならさっさと崇直も彼女作りゃいいのに。

 選り好みしてるふうには見えないんだけどなぁ。

「樹がねぇ、狭山と結婚か」

 そうは言っても、やっぱり樹は、偉いよ。

 しっかり将来を考え、相手に伝えそれを叶えようとしている。

 僕も樹の半分の勇気があればって思うよ。


「いっちゃんとひろよちん、結婚したらママたちと暮らすのかな」

「さぁ。樹は神社に通えればどこでも良いんじゃね」

 崇直はテーブルコンロをセットして、食器類を並べはじめた。

 僕は渡された白菜をざっと洗って、切りそろえザルに盛っていく。

 あらかた買い物類を片付け、紅緒が腕まくりをしながら僕の隣にやってきた。

「それじゃ野菜をやっつけるか、わーちゃんの好きな焼き豆腐もあるからね」

 紅緒が笑顔で僕を見つめてる。

 うわぁ、キスしてぇ。

 どーしよう。顔がにやけてしまうよ。

 ぜったい他のやつに触らせたくない。

 崇直だってお断りだ。

 今抱きしめたら、ぶん殴られるんだろうか。

 突き飛ばされるんだろうか。 

 刃物持ってるしな。刺されっかな。

 それでも良いから。

「こっち、セット完了したぞ」

 ダイニングから崇直の声がした。  

崇直のじゃましぃ

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