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あぶはちとらず Grasp all, lose all.  作者: 井氷鹿
落花情あれど流水意なし
10/10

本木にまさる末木なしⅤ The first is the best.

 ベーを抱きかかえて寝たのが気に障ったのか。

 

「わーちゃん、はい、お代わり。ぴっかレモンがあったからレモン水にした」

 

 そこへ紅緒がグラスを持ってやってきた。すとんと僕の隣に腰を下ろす。

 その生脚をどうにかしろ。お前の頭はまだ小6男子か。

 

 

「ああ。ごめん。倒れた拍子にお酒被っちゃって。勝手に借りちゃった。風呂場に畳んであったから」

 

 と悪振れることもなく言ってのける。そこじゃねー。

 おまえ、その格好でここから家まで帰る気かよ。

 しかもそれ、僕が朝脱いだやつだよ。こっちが赤面するから、マジ勘弁してくれ。

 

 

「じーちゃんが崇ちゃん呼んでくれたのよ。ちょうどこっちに用があって来てるはずだからって」

 

「紅緒一人じゃ連れて帰れないだろ。(いつき)じゃ役に立たんし。お前でかすぎるから。まー爺はあの後別件で出かける用があって、お鉢がオレに回ってきた」

 

「そりゃ、すまなかった。紅緒も、迷惑かけて悪かったな」

 

「いいよ。わたしも何だかテンション上がっちゃって飛びついたから、ごめん」

 

 と肩で小突いてきた。

 バカか。下着が見えるだろ。この中身小学生が。

 

 

「そろそろ樹が迎えに来るな」

 

 腕時計に目をやり、崇直が言う。

 

「今日はすまなかった。世話になったな、二人とも。ありがとう」

 

 樹、早く来い。これ以上は無理。生足も無理。たとえ崇直が居ても素足にシャツって、どんな罰ゲームだよ。

 

「えーっ。もう追い出す気。ひっどーい」

 

「べーは泊まっていくか?」

 

「いくいくーっ」

 

 あほか、崇直。ナニを言い出すんだ君は。紅緒もイクイクって、応えんじゃねぇって。


 

 そこへ、ちょうどいいタイミングで呼び出し音がなる。

 ナイッスー、樹。

 

「ほら、迎えが来たぞ」

 

 さあ帰れ、お前ら。

 

「忘れ物すんなよ〜」

 

 紅緒が、ゴミ袋Ⅰ枚拝借したよ、と言いながら着ていた服を突っ込んだ袋を掲げて僕に見せる。

 そんなもんいくらでも持ってけ。だから、早く帰れって。

 

「それ、置いてけ。クリーニング僕が出すから」

 

「いーよ、どうせ他も出すんだから」

 

 と言いながら、右足を上げ左足の膝で支えながらローヒールのパンプスの踵に指を突っ込む。

 素足には履きづらいんだろう。

 

 

 しかし、眼福すぎてまともに見れんぞ。崇直はよく平気だな。紅緒の腕持って支えてやがるが。

 兄妹同様で育つとそうなるのか。

 でも、直樹と紅緒は。

 

 

「わーちゃん、明日休みでしょ。トールちゃんが言ってた」

 

 靴を履いた紅緒が振り向きざまに聞いてきた。

 トールちゃんって、え、平川先輩。そうだ。

 

 

「平川先輩は」

 

 すっかり忘れてた。先輩置いて帰っちゃったんだ。

 

「平川さんならまー爺に連れられて出かけて行ったよ。心配ご無用って伝言頼まれてた」

 

 何で知り合いなんだよ、だから。

 

「ああ、樹と卒業までオレもあそこでバイトしてたんだ。蝶タイ結んで。兄弟仲良く」

 

「崇ちゃんって、女性会員の人気すごかったのよ。じいちゃんは女性目当で『オレの孫ハンサムだろ』って連れ回して喜んでた」

 

 まー爺、元気っすね。

 

  

 部屋から出ると玄関先はこの部屋専用のエレベータホールになっている。

 エレベーターが開くと崇直が、ここで良いよと言った。

 

「下まで行くよ」

 

「ここで良い。じゃ、また」

 

「わーちゃん、また明日」

 

 紅緒がニコニコでドアが閉まるまで手を降ってくれた。

 うーっ、しまった。

 紅緒を部屋に上げちまったぞ。

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