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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第1章 Grasp all , Lose all. 1 1995年 春 亘編
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本木にまさる末木なし4 The first is the best.



 あれはちょうど今頃、帰国してすぐの高2の春だった。


「お前ら、頭ん中まだ小6男子かよ」

 

 二人で抱き合って喜んでたら、崇直(たかお)がそう言ってからかってきたんだ。  

 何年も会えなかったんだから、そりゃ別れた時の小学生に戻るだろ、邪魔すんなっての。

 

 紅緒には直接会って、帰ってきた事を知らせたかった。

 だから崇直には内緒にしてくれって頼んでてさ。

 帰国の理由があれだったから、紅緒には余計な心配をかけたくなかったんだ。


 紅緒は9歳で両親を事故で亡くしている。

 僕は15のとき同じように両親を失った。

 そのとき痛感したんだ、あれは想像以上にしんどい。


 事故の連絡が崇直からまー爺に伝わって、結局まー爺がイギリスに来て全部手続きをしてくれた。

 本当に世話になりっぱなしだよ。


「一緒に帰るか」


 わざわざ来てくれたまー爺は何度も言ってくれた。

 崇直たちも手紙で何度も「家に来い」って誘ってくれたっけ。

 なのに、とうとう最後まで素直になれなくて。

 高1過程(フィフスフォーム)を終えてからは、編入試験までイギリスをぶらついて、年明けにまー爺と崇直にだけ連絡してマンションに引っ越した。


 両親の遺産と事故の保証金はかなりの額だったらしい。

 祖父母名義のマンションも相続して、まー爺が全部面倒を見てくれた。


 そのマンションを売って、別の土地に新しいマンションを建てて、商業フロアをテナントで貸して家賃収入で現金を確保して。

 その全てを、まー爺が取り計らってくれたんだ。

 学費も生活費も、全部まとめてまかなえたから、進学も諦めずに住んだ。

 こうして僕はバイトもせずに済んでいる。


 新学期が始まって一ヶ月くらいした頃だった。

 朝、窓からふと外を見たら、紅緒が制服姿で交差点に立っていたんだ。


 慌てて着替えて追いかけた。

 会うタイミングをずっと逃してたから、これを逃したら後がないってめちゃくちゃ焦ったよ。


 駅の改札でやっと追いついて声をかけたら、紅緒は無視してスタスタ歩いて行ってしまった。

 思わず腕を掴んだら、振り向いた顔が思い切り警戒してて笑ったよ。


 でも頭をポンと叩いたら、顔がみるみるほころんで、そのまま抱きついてきたっけ。


「わーちゃん、わーちゃん」

 と連呼して。僕も嬉しくて一緒に跳ねてたら――


「おい、亘」

崇直の声がしたんだ。

――残念でした、小6男子は卒業しましたよ。


「小6男子が何だって?」


 目の前に崇直の顔。

 何でお前が居るんだ。

 慌てて体を起こしたら、自室のカウチだった。


「わーちゃん、大丈夫?」

…紅緒まで居る。

 何でお前が僕のシャツ着てんだ。


「お水、飲む?」

 差し出されたグラスを一気にあおぐと、冷たい水が胃に落ちていくのが分かった。

 喉、カラッカラだ。


「おかわり持ってくるね」

 紅緒がキッチンに立つ。

 その背中を見て、心臓が止まるかと思った。

 おまえ、素足じゃん。

 何しんてんだよ。


「ベーを抱えたまま倒れたって聞いたぞ」


 崇直の顔がじっとこっちを見てる。

 やべぇ、あのロック飲んだんだっけ。

 一気に感覚が戻ってきた。


「モヒートのあと、ウイスキーも空けたって樹が言ってたぞ。頭湧いてんのか」

「モヒートまでは覚えてる」

 …湧いてたわ。もう大沸騰だったよ。


 崇直が大げさな動作でソファに腰かけ、すっと足を組んだ。

 さすが、崇直はスーツ姿が様になってるな。

 お前は一足先に社会人になったんだな。


 そう思って、崇直を見たら呆れ顔でため息をつかれた。 

お読みくださりありがとうございます。

より良い作品にするため、今回思いっきり改稿しました。

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