本木にまさる末木なし4 The first is the best.
紅緒を抱きかかえて寝たのが気に触ったのか。
「わーちゃん、はい、お代わり。ぴっかレモンがあったからレモン水にした」
そこへ本人がグラスを持ってやってきた。すとんと僕の隣に腰を下ろす。
っていうか、おまえその生脚をどうにかしろよ。頭ン中はまだ小六男子かよ。
なんで髪の毛まで濡れてんだよ!
言いたいことが頭の中で渋滞して、言葉にならないぞ。
バカヤロウが。
「その格好……」
「ああ。ごめん。倒れた拍子にお酒被っちゃって。勝手に借りちゃった。風呂場に畳んであったから」
と悪びれることもなく言ってのける。
そこじゃねー。怒ってなんていないよ。びっくりしてんだよ。
おまえ、その格好でここから家まで帰る気かよ。
しかもそれ、僕が朝脱いだやつだよ。
こっちが赤面するから、マジ勘弁してくれ。
「じーちゃんが崇ちゃん呼んでくれたのよ。ちょうどこっちに用があって来てるはずだからって」
「紅緒一人じゃ連れて帰れないだろ。樹じゃ役に立たんし。お前でかすぎるから。まー爺はあの後別件で出かける用があって、お鉢がオレに回ってきた」
あああっ、もう!
座ってられなくて立ち上がる。
「そりゃ、すまなかった。紅緒も、迷惑かけて悪かったな」
「いいよ。わたしも何だかテンション上がっちゃって飛びついたから、ごめん」
と肩で小突いてきた。
バカか。下着が見えるだろ。この中身小学生がっ。
「そろそろ樹が迎えに来るな」
腕時計に目をやり、崇直が言う。
「今日はすまなかった。世話になったな、二人とも。ありがとう」
樹、早く来い。これ以上は無理。
生足も無理。
たとえ崇直が居ても濡髪に素足にシャツって、どんな罰ゲームだよ。
「えーっ。もう追い出す気。ひっどーい」
と、隣で紅緒がまた肩をぶつけてきた。
「べーは泊まっていくか?」
「いくいくーっ」
だから、体を摺り寄せるなって!
「だってさ、亘」
あほか、崇直。
ナニを言い出すんだ君も。
紅緒もイクイクって、応えんじゃねぇって。
そこへ、ちょうどいいタイミングで来客の呼び出し音が鳴る。
ナイッスー、樹。地獄に仏だ。
「ほら、迎えが来たぞ」
さあ帰れ、お前ら。
「忘れ物すんなよ~」
紅緒が、ゴミ袋一枚拝借したよ、と言いながら着ていた服を突っ込んだ袋を掲げて僕に見せる。
そんなもんいくらでも持ってけ。だから、早く帰れって。
「それ、置いてけ。クリーニング僕が出すから」
「いーよ、どうせ他も出すんだから」
と言いながら、こちらに背を向け右足を上げ左足の膝で支えながらローヒールのパンプスの踵に指を突っ込む。
素足には履きづらいんだろうか。
しかし、眼福すぎてまともに見れんぞ。
崇直はよく平気だな。紅緒の腕持って支えてやがるが。上から見えてんじゃないのか、このヤロウが。
兄妹同様で育つと、気にもならなくなるのか。
でも、直樹と紅緒は。
「わーちゃん、明日休みでしょ。トールちゃんが言ってた」
靴を履いた紅緒が振り向きざまに聞いてきた。
トールちゃんって、え、平川先輩。
そうだ。
「平川先輩は」
すっかり忘れてた。先輩置いて帰っちゃったんだ。
「平川さんならまー爺に連れられて出かけて行ったよ。心配ご無用って伝言頼まれてた」
何で知り合いなんだよ。
「だから、なぜ……」
「ああ、樹と卒業までオレもあそこでバイトしてたんだ。蝶タイ結んで。兄弟仲良く」
「崇ちゃんって、女性会員の人気すごかったのよ。じいちゃんは女性目当てで『オレの孫ハンサムだろ』って連れ回して喜んでた」
まー爺、元気っすね。
そっか、やっぱり僕だけ知らなかったのか。
部屋から出ると玄関先はこの部屋専用のエレベータホールだ。
エレベーターが着くと崇直が、ここで良いよと言いやがった。
何でだよ。
「下まで行くよ」
「ここで良い。じゃ、また」
「わーちゃん、また明日」
紅緒がニコニコで手を振ってくれた。
うわ~っ。
しまった。
紅緒を部屋に上げちまったぞ。
第1章 Grasp all , Lose all.1 1995年 亘編 春 終
お読みくださりありがとうございます。
より良い作品にするため、今回思いっきり改稿しました。




