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アリスの手紙

 親愛なるイーリス・エル・カッツェ様。

 あなたがこの手紙を読んでいる頃には、私はもうここにはいないでしょう。

 こうしてはじめて筆を執るというのは、思いの外緊張するものですね。決心をして手紙を書き始めたのはいいのですが、何を書けばいいのかわかりません。

 ですので、端的に書き記します。

 

 失敗しました。

 

 イーリス様、申し訳ありません。全ては私の責任です。

 何故、失敗したのでしょうか。私の愛が足りなかったのでしょうか。

 

 こんなはずではなかったのに。ただ、イーリス様の全てを愛したかっただけなのに。

 ですが、私は失敗しました。全ては水の泡。私は責任を取らなければなりません。

 

 イーリス様、ごめんなさい。

 イーリス様、ごめんなさい。

 私は責任を取らなければなりません。

 私が全ての責任を取らなければなりません。

 

 ですから、私は出ていきます。

 心配はいりません。必ず戻ってきます。絶対に、全て取り戻して、戻ってきます。

 

 私が愛を与えたせいで逃げ出してしまったイーリス様の下着は、必ず私が回収します。

 全ては私の責任です。ですから、私が全ての下着を回収してきます。必ず回収してきます。

 イーリス様、申し訳ありません。少しだけ、待っていてください。

 

 追伸:

 回収した下着は少しもらっていいですか?

 

 ◆

 

「探しなさい! この世の果てまで追い詰めて、絶対見つけ出しなさい!」

 覇王の覇気が王都どころか国全体を覆い尽くす。侍女に買いに行かせた新品の下着を身につけて、覇王勇者イーリス・エル・カッツェは怒りで天を貫く。

 全てはアリスの愚かで短慮な行動のために。全てはイーリスの下着に愛を与え、逃げ出す原因を作ったアリスという世界一の愚か者に制裁を与えるために。

 自らの動かせる全ての人員を動員して、イーリスはアリスを探すために世界中を奔走するのだった。

 

 そして三日後、アリスはイーリスの下着に埋もれて幸せそうにしているところを捕縛された。

 どうやら全ての下着を集めたらしく、さすがのアリスと言えど、世界中を駆け巡ったせいで疲れ果てたらしい。

 しかし、イーリスは容赦しない。イーリスは即座に全ての下着を回収すると、アリスを永久牢獄コキュートス――時間が極めて遅く流れている牢獄。コキュートスの中での百年が、外の一日である――に五日間拘留したのだった。

 

 数日後、永久牢獄コキュートスより少し憔悴した様子で出てきたアリスは、迎えに来たカイル・エル・バハームドに向けてこう語った。

「隠し持っていたイーリス様の下着がなければ耐えられませんでした」

 五百年の孤独という地獄を、愛するイーリスの下着一つで乗り越えたアリス。愛に生きる少女は、かくも偉大なのであった。

 

 覇王勇者下着失踪事件。

 この事件は、愛に生きる少女アリス・イル・ワンドの引き起こした五大悲劇として、語り継がれている。

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