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046 マーガレット・マキシマムブースト・ヴァレト

その日、王都は久しぶりに祭りのような盛況さに包まれた。

マギア。

そのマギアも200年前のトードルド伯の搭乗するマギアを撃破し突如出現したバッテリー内蔵型マギアの出現で少しは目にする機会も増えた。

王杯、貴族杯から魔力を供給されるマギアは|杖機[シュベトール]、指揮官機という名称で呼ばれ、バッテリー内蔵型マギアは|剣機[グラドール]と呼ばれる。シュベトールを撃破してみせたグラドールだが、その活動時間は大抵において30分を限界とし、バッテリーの換装で対処する方法になっている。より高級な機体は周囲のマナを取り込み自然充填を可能とするがそれでも消費量に追いつく事はない。そして使用できる魔力量においてシュベトールには遠く及ばない。トードルド伯のシュベトールを撃破したのは想定外の出来事とトードルド伯の置かれた状況、そしてシュベトールを守る護衛機が存在していない状況によるものだった。領地を守るため急いで帰還しようと先行して突出したトードルド伯を待ち伏せした帝国軍による電撃戦によって成された偉業。本来ならばあり得ない伏兵というものが予想を覆した。

それ以来、エルフとドワーフによる技術供与によりバッテリー内蔵型のマギアが王国にも配備され、グラドールという名称が広まる。

そのエルフが所有するグラドールの1機が王都へ来るという噂が流れ、そして今王都上空を飛空戦艦に懸垂されて真紅の機体が民の目に映る。

人型であり流線形のフォルムにより女性をイメージさせかつ大盾と背部に装備した砲装がただのハリボテではない事をアピールしている。手足には大き目の鉄靴、脛当てと腕甲を装備しており、その割に胴体には胸甲のみというアンバランスながらも全体の重心は高めに設定されているのが分かる程にどちらかと言えば細身、そして流線形をしている。それだけでこの機体が汎用機ではなく一品ものである事が誰の目にも分かる。共通部品に見られるどの機体とも適合しやすいがデザインを無視するのが当然と言える無骨さがこの機体にはなかった。盾に刻まれた銀色の紋様と意匠は縁を彩り蔓が絡みついているようにデザインされている。紋様は乙女の横顔であり、この機体が誰のものであるかを表している。乙女の髪は炎のようにたなびきその瞳には特大の紅い結晶があしらわれていた。

その機体こそエルフの国セルマの中央に存在する都市アヴァロン、別名ハイランドを守る兵団の一つ、"真紅の乙女たち"の隊長機|唯なる真紅[スカーレット・ワン]であった。

王都の誰もその事実を知る事無く運ばれたその機体に王都の民は興奮し、画家や写真家はその姿を残そうと真剣になり、商人はどうやって名物料理を作るかを思案し始めた。マニアは初めて見た機体を値踏みし、王国の名だたる機体と比べ始め議論している。そんな喧騒を余所に飛空戦艦は王城隣に存在する半地下式格納庫へ停留し機体を切り離し去っていった。

民衆は姿が見れなくなった事に嘆きはしたものの興奮冷めやらずお祭り騒ぎになっていた。


「おー、あれが!あれが!」


ローレンシアは初めて肉眼で見るマギアに興奮していた。肉眼と言っても望遠鏡を覗いているのだが。屋敷が若干遠い位置にあり航路を外れていたので間近で見る事が出来ず、外出はエールトヘンに止められた。なら幽体離脱だ、とばかりに出ようとすればキャメロンに結界で止められ、じゃあどうしろと、と拗ねたらローラが珍しくどこから取り出したか分からないが暖かい視線で望遠鏡をそっと差し出してくれた。いつもはからかうローラだが必要な時はからかう事なく真剣に相手をしてくれる事は知っている。だがしかしいつもがいつもだけにどこか釈然としないのも確かだ。

それでも早く見たい気持ちが優先し、望遠鏡を覗いてあちらこちらを見る。惜しむらくは真横を通過する際は大盾によりその姿が見えず、うまく全身を観察できない事だ。そんなローレンシアの後ろでローラが話をしているのが聞こえた。


「へー。この機体凄いですね。こうなってるんですか」


「ローラ。その、だ。お嬢様にさせる事ではない。交代しなさい」


ローラの言葉にエールトヘンが苦情を言っている。何の話だろうと後ろを振り向いたローレンシアが見たものは。


「お嬢様が望遠鏡で見たいって言ったんですから。あー!お嬢様。ちゃんと望遠鏡を向けてください。録画もしているんですから」


望遠鏡の映像をスクリーンに映し出して観察しているローラがいた。ローラは今日も容赦がなかった。



「なぜそういう事が出来るんなら初めからそう言わんのじゃ!」


「世の中何事も経験です。失敗は成功の継母と言います」


「いじわるばかりしそうじゃの。ローラみたい」


「私のは生暖かい愛情から来るものです。だから望遠鏡もスクリーンも初めから用意していますでしょう?」


「そ・こ・で、わしに望遠鏡を無言で渡すのがアレじゃ。いつかガラスの靴でタップダンスして踏みつけてやる」


「ならタップダンスの練習が必要ですね。ダリアに伝えておきます」


「ぐぬぬ・・・。揚げ足取りめ」


「いえお嬢さまの為を思ってです。お嬢様には多才になってもらわないと」


「お前はわしをどこに連れて行こうと思ってるんじゃ」


「歌って踊れる色物枠?」


「さすがにそれはない。歌って踊れるまでは良いがのぅ」


「ならほんの少し付け足すだけじゃないですか」


「それを少しとは言わん」


「ならホーミィとかどうです?」


「どうしても色物枠がおすすめのようじゃの。タップダンスでホーミィとか誰得じゃ」


ローレンシアはいつの間にかはぐらかされている事には気づいたもののノリと勢いのままに話を続け、あえてローラ相手に事細かに一つ一つ問い詰めていて日が暮れるのであえて流した。

今はそれよりもあの物体についてより詳細に知りたいという気持ちが強かったので話題を変える。


「それよりもじゃ。あれはどうやって動くのじゃ」


ローレンシアの一言にローラは首を傾げ一言。


「さあ?」


そのやり取りを聞いていたエールトヘンが概要を話し出す。


「バッテリー内蔵型マギア、|剣機[グラドール]の登場により、マギアは二種類に分かれます。王杯、貴族杯から魔力を供給する|杖機[シュベトール]、バッテリー内蔵型のグラドールです。グラドールにバッテリーとして使われるのは強力な魔力を蓄える事が出来る鉱石や強い魔物の核となる素材です。現状で量産に使えそうな素材からバッテリーとして機能する|剣核[コア]の製造が出来るのはエルフとドワーフだけです。帝国では主に魔物を狩り、稀に強力な宝石などを使用するようです。グラドールは魔導学の発展と共に登場し、素体を金属と魔物を材料として形作られその機動性は形状に依存するも操縦者次第では恐ろしい程の成果を出します」


「なるほどのぅ。で、わしも手に入れる事が出来るのか?」


「性能次第では可能かと。今お嬢様が眺めていらっしゃる機体は一品物の名機です。本体の価格や交換部品等の備蓄等でかなりの出費が必要になると思われ、お嬢様がいただくお小遣いでは到底足りません」


「ふむ。ではどうすればあれに乗れるのじゃ?」


「一回程度乗るのであれば当主様にお話しになればシュベトールもしくはその|従機[スクワイア]に同乗させてもらえるでしょう。ですが自身の所有機が欲しいとなれば一番簡単なのは採用試験に合格し上級騎士になる事です。そうすれば機体を貸与されるでしょう。無論、そんな危険な場所に行くような事はさせませんが」


エールトヘンは過保護だった。しかし一応これでも貴族のお嬢様。確かに荒事専門に首を突っ込むには勇気がいる。前世でもしがない一般人だったのだ。『お兄さん、いい身体してるね』などと声を掛けられた事もない。そんなローレンシアが騎士職採用試験に合格を目指すというのはどれだけのハードルなのか計りかねていたが、生まれ変わった『今ならやれそうな気がする』事もないわけでもない。どうであれ、目の前にいる最初のハードルはとてつもなく高そうではある。とりあえず目の前のハードルの高さからは目を逸らして今は聞きたい事を聞く事にした。


「あれは誰でも操縦出来るのか。ほら、適正どうこう言うのは勿論あるのじゃろ?」


「適正というものとしては魔力操作が可能である事。そして操縦する機体の操作が出来る事。その2点だけです。汎用機はおおよそ似ている操作方法ですが個人の所有機などは特殊な仕様が多くその操作方法の熟練が必要になります。ですが、紋様契約がどの機体にも発生し、それが搭乗者を制限します。コアには個体毎に違う紋様が刻み込まれ、それと同様の紋様が搭乗者にも刻まれます。その紋様が始動キーとなり、マギアの駆動に必要なエネルギーの循環を行わせます。紋様契約はそのコアを製造した技師の秘匿した技術で行われ、他の技師による乗っ取りを防止します。その方法を知らなければほぼ乗っ取りは不可能だと言われており逆に漏洩すれば技術次第では可能になります。つまり、お嬢様が自身で操縦したいのであればまずはご成長なされて魔力の操作もうまくなる必要があります。ではもう充分にご覧になったでしょう。続きを始めましょう」


不用意に失言したと分かったローレンシアはなんとか話を続けようとまくし立てる。


「ほ、ほら。あれじゃ。わしもな、騎士に憧れたりするんじゃ。だからな、目指しても構わんじゃろ?な?な?」


「確かにお嬢様の意思は尊重いたしますが。それにお嬢様の将来はどうにも波乱に満ちていそうにも思えもします。ですがその前にお嬢様は知っておくべき事がございます。貴族令嬢の在り方です」


その言葉から『やばい。さらに墓穴掘った』と思ったが既に手遅れのようでキャメロンもローラも庇ってくれる様子もなく2人してスクリーンに映る記録映像を元に議論している。ローラは『さあ?』と答えた癖に中々知っているような話し方をしていて、後で問い詰めてやる、とローレンシアは心の中で固く誓う。しかしそんなローレンシアの考えなど知らぬかのようにエールトヘンは話を続ける。


「良いですか、お嬢様。人間の細胞分裂回数は決まっております。また卵子は生まれた時にはもう作られておりそれ以降体内で新たに作られません。つまり、体に関してはより激しく運動し新陳代謝を活発にすればするほど消耗され、寿命が短くなるのです。そしてそれは老化であり劣化です。世界とはエントロピーを増大させる、つまりは水が高きから低きへと流れ落ちるようにエネルギーを消費し続け劣化していくという事です。性質を男性が引継ぎ、形質を女性が引き継ぐ。この役割において子供を作る、世代を引き継ぐという事を最適化する為にはどうすれば良いか。先ほど言いましたように世界も肉体も全て常に劣化していく運命にあります。そんな世界の中でどうすれば劣化せずに子を成し世代を引き継ぎ能力を維持し社会をより長く安定させ種族としてより長い期間最大限に繁栄出来るかという問題が生じます。もちろん長い期間、という条件がつきます。なので最大限と表現してもその繁栄の在り方は静かで落ち着いたものになります。より長い期間でのトータルの利益が最大になるような配分になるからです。丁度、備蓄を貯めて不作の年に備蓄を放出するような形態になります。そのためには劣化していく私達はどのように私達を維持していく必要があるのかとなります。性質を引き継ぐ男性はその知性を年齢と共に積み重ねるように努める必要があり、形質を引き継ぐ女性は体が劣化しないように極力過度な運動を避け重いものは持たずより新陳代謝を抑え体をより若く維持する必要があります。同時に子を成し育てるだけの知性を持つかを示す必要があり、また生まれた子の姿形が整っているかが優れた資質として求められます。細く長く力強い指を持つ手は高い技能を習得出来、良い目は物事を識別する事に長け、識別する事に長けるという事は知性の発達に有利になります。より効率的に能力を維持して次の世代へと継承させる事で生存率を高めるために、貴族女性にはより繊細さが求められ、過度な運動はせず、重いものは持たず、より体を劣化させない事が求められるという事です。一部の人物はそれを貴族女性は贅沢の限りを尽くしスプーンより重いものを持たない、民衆に重い物を持たせるなどの負担を強いる存在だと皮肉を言う事もありますが、それ自体が間違いです。貴族女性には貴族女性の役割がありその役割を達成するためには必要不可欠な事なのです。なぜなら私達はそれがどれだけの影響が生じるか完全に把握できていません。それならば出来る事は最善を行い、いかなる瑕疵をも排除するように行動し、その結果をもって基準値の上方からコストパフォーマンスに優れる位置へと下降させていく事しかできません。しかしそれもコストパフォーマンスに優れた、という部分が目的の基準を保てない場合はやはり条件を付け基準値の維持を行う事になりますが。仮にある時代に傑出した才能を持つ人物が居たとしましょう。その人物の才能を時代へと継承するために出来る事を考えれば、より若く才能のある女性に子を産ませるという事になり、逆にその才能を失わせたいのなら、より年を取り染色体異常を発生させやすい女性に子を産ませれば良いのです。それを世代毎に繰り返せばそれだけ能力を失いやすくなったり維持しやすくなったりします。ですのでお嬢様。お嬢様の在り方は、将来計画が決まるまでは過度な運動は控えていただきます。ですがまあ、お嬢様においてはどうにも。さきほどマギアを見た限り、そうもいかないようです」


そうエールトヘンは締めくくった。どうやら先ほどのマギアを見て何か思う所があるようでローレンシアも不思議に思い聞いてみた。


「それはどういう事じゃ。あれに何か関係があるのか?」


「ええ、実はお嬢様の身体の成長に合わせたカリキュラムを組む者を寄越してもらうように頼んだのですが、恐らくはあれの持ち主がそうだと思われこちらも驚いています」


「じゃあ、待っていれば会えるのか?」


「勿論です。それまでは先ほどの続きですね。早めに情操教育を終えてしまいましょう。そうしなければマギアに搭乗するなど夢物語です」


そしてたいした時間稼ぎも出来ずにローレンシアはまた教育を受ける事になる。



そして午後の昼下がりに屋敷を訪れる者がいた。王都に運ばれたセルマ国所属のグラドールの搭乗者である女性、マーガレット・マキシマムブースト・ヴァレトがアーデルハイド家の屋敷の門をくぐった。

応接間にて対応したエールトヘンはやはりこの方かと驚きを隠す事もなくマーガレットを眺める。

鮮やかな赤い髪は肩ほどで切り揃えられ、少し高めの鼻、唇も色づきは良いが薄めではある。だが意思の強さを表すかのように細く短かい眉はその一際輝くような紅い瞳と合わさり、表情は理知的に見えはするもどこか情熱的な印象を与える。エルフの持つ特徴的な先端の尖った耳を髪で隠さずその姿は男装の麗人を思わせる。しかし今日のマーガレットは儀礼用の衣装を身に付けていた。金のサークレットの中央には紅玉が嵌めこまれ額に飾られ髪には宝石を散りばめたチェーンが編み込まれている。服装も装飾の多いキュイラスを装備し、シンボルとして世界樹があり周囲を蔦が取り囲む。世界樹の中央にはアンク、樹の右側に剣、左側に弓を配置してある。その横に女性の横顔を模したデザインも存在しそれらで所属を表しているようだ。女性の横顔はたなびく髪が途中から炎のような形式をとっている。

キュイラスに下には詰め物をした服を着ており、ブーツとグローブは革製であるが服装全体は赤を基調に整えられている。


身だしなみをもう一度整えて応接間に入ったマーガレットはエールトヘンを見て安堵する。王都へ訪れたからには儀礼上、王と謁見しなければならずそれなりの服装を求められ窮屈な思いをした後であるからやはり同族の顔を見て少し落ち着けたようだ。軽く手を振りながら微笑み話しかける。


「久しぶりだね。形式は略させてもらうよ。エールトヘン」


「驚きましたよ。まさかあなたが来るなんて。ハイランダーが国外へ出る事態でも生じましたか?もしかして、|見つかったのですか[・・・・・・・・・]?」


「いや、見つかっていない[・・・・・・・・]。協力者からの情報提供では100年前で終わったはずだ。もはや苦しめられる同胞は帝国には居ない」


そう、もう居ないのだ、とマーガレットは思いを巡らす。


ヘイフリック限界だそうです。

後、原始卵胞から卵子が出来るそうです。


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