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047 過ぎし日は一欠片も安らぎを与えない

ちょっとR15。

ちょいと書き方が雑なのでいつか書き直すかも。

ここはマーガレットさんの背景付けなのでほんのわずかにR15部分がありますので読み飛ばしてもおけ。


---ああ、風と戯れし乙女よ

たゆたうままにいかなる場所へも赴きし乙女よ

生い茂る深緑を潜り抜け踊り請う若草をすり抜け咲き誇る花を射止め散らす風の乙女よ

その移り気をしばし止め汝と共に歩む我に集いてその力を示せ


風はいかなる場所へも赴く---


マーガレットは"風はいかなる場所へも赴く"、通称"必中の矢"を詠唱し追撃してきた竜の2体を貫きその首を消し飛ばした。銀の弓から放たれた魔力の込められた矢は先頭を飛ぶ竜とその斜め後方を飛ぶ竜をあり得ない軌跡を描いて迎撃した。竜の首が消し飛ぶ寸前に先頭の竜に乗っていた男が飛び降り地面へと着地し憤怒に顔を歪め叫びながら突進してきた。


「クソォ!クソ!ここまで強いなんて聞いてねぇぞ!オラァ!聞け!聞いてひれ伏せ!俺こそが・・・」


マーガレットはその無謀な突撃に目を向けながらも残る1匹の竜に注意を払い、この後の事も考えて魔力温存の為に剣を抜き地上へと降りた竜と対峙する。どうやら翼を射抜かれて墜落する事を嫌ったらしく、マーガレットは思惑通りだと笑みを浮かべる。そんなマーガレットもわずかに起こる振動に驚き、視線をわずかに下げるとそこには先ほどの男が胸甲を叩きマーガレットの愛機を揺さぶっていた。マーガレットも最初は何の冗談かと思ったがこの男は腕がかなり立つらしく、なるほどそれなら未知の相手に挑む勇気も考えられると思い至り、気を引き締め対人魔装を解き放つ。放たれた光線が容易く男を吹き飛ばし、マーガレットはさて後1匹と剣を構えて走り出す。



「もうこれ以上は持ちません!撤退を!」


ミシェルとはその最後の言葉でもって別れた。立ち昇る煙から考えるに彼はもう生きていないだろう。

マーガレットは殿を務めながら彼方を見る。街が燃え煙が方々から昇る中、いつもと変わらずに聳え立つ黄金樹を悔しそうにマーガレットは見つめる。



彼女の愛機"深緑の乙女"を以てしてもこの数の暴力を止められなかった。後続の部隊が津波のごとく押し寄せ僚機をも飲み込んでいった。人間の裏切り。その一言に尽きる。

東の黄金樹の下にはエルフと人間が共同で治める国アイングシスがあった。

東の黄金樹は神との交信を行うために大規模な法陣を設置しその末端の管理を人間に任せていた。アイングシスの民は敬虔な信徒であり惜しみなくその力を神の為に捧げ、エルフも彼らにならと役割を与えた。

それが間違いだったのかも知れない。確かにアイングシスの民は優秀だった。しかし人である。どこかに付け込む隙があったのだろう。彼らを懐柔し彼らの知らぬ間に情報を盗み取った帝国がいた。交易をしながら送り込まれる人間は少しずつ情報を蓄え陣の末端のある場所を知り、防衛の要所を暴いた。中央の状況は分からずとも大まかに地理を把握した帝国はエルフ側の戦力を想定し単独では撃破出来ないと考え魔族と手を結んで侵略した。

本来なら魔物の侵略時に共に戦うはずだった人間の攻撃にエルフ側は善戦するも3日程しか保たなかった。大抵においてあまり知性の高くない魔物では行う事の出来ない拠点制圧作戦を実行し武器庫の制圧、防衛拠点の無力化、伝令の殺害、通信手段の妨害による情報の混乱、諸々の妨害工作により防衛線はうまく機能せずに孤立化しかなりの数が虐殺された。アイングシスの民も共に戦ったが彼らはもっと悲惨な目に会うだろう。彼らの一部が逃げる隙は作ったがそれ以上の危険を冒す事は出来なかった。

人間だけならどうとでもなっただろう。魔物だけならどうとでもなっただろう。しかしここまでの裏切りを想定していなかった。彼ら人間がここまで愚かだとは思わなかった。黄金樹の魔力を利用して更に欲望を満たそうと自殺行為をするとは思わなかった。黄金樹は枯れるだろう。その影響は周囲に及び、魔力の浄化と供給を狂わせ、魔力は枯渇し土地は荒れ、汚れた魔力はより強力な魔物を生み出すだろう。それは帝国全土をも巻き込みいずれじわじわと真綿で首を絞めるかのように彼らを苦しめる。それすら分からない。恐らくは自分達でもうまくやれると考えている。そんな考えをしているのは簡単に分かる。彼らはエルフがしているように黄金樹を独占してしまえばその利権は自分達のものだと思っているだろう。そして恐らくは黄金樹をただのデカイ樹だと楽観視している。勝手に自生しておりそこから生まれる果実だけをしゃぶり尽くせると思っている。だから彼らは愚かだ。しかし我らも愚かだ。どのような形であれ侵略を許したのだから。



マーガレットは徐に目線を下げ、突き刺した剣を引き抜く。愛機を操り先程止めを刺した竜は既に息絶え骸を晒しその横には潰れた人間が居た。


龍煌12星の一人”牡牛"の愚か者。名も知らぬし勝てると夢想し竜3体を引き連れ追撃してきた。人間とは思えぬ強大な膂力を使い竜と戦っている隙をついてマギアを撃破するつもりでいたのだろう。無知とは罪。無謀にも試みた結果が死であるなら教訓にもならない。確かに単体ではエルフの戦士すら容易く屠るだろう。功を焦ったか愚かであったのか。既に名を聞く必要もない、いや、確か名乗ったかも知れないが記憶する必要のない相手に思考を割く事を止めた。


遠い土煙に目を向けマーガレットは仲間を追いかける。


黄金樹を護る為に配備された48機居た守護騎士団は既に3機にまで減っていた。その能力は高く追随するものはないと言える程の実力差はある。しかし1機1機は強くとも消耗は避けられず操縦者も疲労を蓄積させ、いつまでも全力で稼働し続ける事は出来ない。そして帝国は使い捨ての如く人間も魔物も消費してきた。攻める側なら放置しただろう。しかし護る側だ。略奪しなおも中央部へと侵攻するならず者共を放置出来ない。味方を逃すために剣を振るい魔法を放ち巨人や竜と対峙する事を1日、2日と繰り返した結果、守護騎士は一様に皆、機体を自壊させ敵を巻き込み物言わぬ骸と化した。マーガレットが残っているのは単なる運だ。たまたま中央近くに配備され仲間を逃がす為の役割を担ったからに過ぎない。いや、それも少し違う。マーガレットは魔力特性が優秀で殺すには惜しいと判断されたからだ。故に仲間を引き連れ西へと逃げる役割を担う事になった。

幸いにもマギアは黄金樹の魔力とリンクしてエネルギーを供給しているため黄金樹が枯れるまではエネルギー自体の心配はない。遠く離れればそれだけ供給量も減るが西へとたどり着くまでの残量は充分確保出来ていた。


はるか後方で一際大きな爆発が起き中央が陥落した事を知った一行は急ぎ脱出し西へと落ち延びた。



東の黄金樹を管理する東のエルフが虐殺されその管理が人間の手に渡った事を知った西のエルフは慌てる事になった。セルマの東には王国があり防衛線として機能しているが帝国はその後先考えない拡大により人口を増やし数の上では王国を圧倒している。数だけが戦況を支配するわけではないが投げつけるかのように送り出される兵は脅威となる。巣を遥か離れて西の地を攻める理由など魔物にはなく旨味がないからか王国へは侵攻しなかった。だが同時にそれを操った魔族が確認されているために調査は必要であり、数多くの斥候が東の地で刃に倒れた。

調査の結果、グリゴリと名乗る集団が存在しどのような手を使ったか知らないが魔物を操り竜と交渉し巨人を従え帝国と共に侵略した事が判明した。その日からエルフの日々は彼らとの闘争の日々となった。しかし彼らは巧く隠れその所在を明かさず今日に至るまで捕まえる事が出来ていない。エルフ達が知り得た事で重要だった事は、その寿命はエルフに匹敵するという事だ。


そして100年経ち、東の黄金樹は枯れた。あまりにも早すぎる枯れ方だった。魔力を魔物に、人間に吸い尽くされあっという間に枯死した。それにより東より運び込んだ3機はすべて稼働不可能となり、3機ともに搭乗者が西の黄金樹との再契約を辞退した。マーガレットも他のエルフ達もその事実を受け入れる事が出来ずにいたからだ。そしてマーガレット達にとって現状で稼働する必要もない機体よりもあれ以来続けられる同胞の救出こそが最優先になっていた。


大多数のエルフは虐殺されたが全てがそうではない。女のエルフには愛玩動物としての価値があるとみなされた。かつては敬っていた対象を自らの下に置く。その優越感が堪らない、とエルフを奴隷として飼っていた貴族は言っていた。そして自らの劣情のはけ口にするのだ。彼らにとりエルフは何物にも代えがたい快感を得るための道具でしかなかった。

囚われたエルフを助けるために救助部隊が結成され"真紅の乙女たち"と名付けられた。彼女らの役割はハイランドの守護と捕らえられたエルフに対しての選択肢の提示。彼女らがなぜ女性のみから構成されるのか。それは捕らえられたエルフの尊厳の為である。男のエルフがその捕らえられた状況で行われた性的も含めた虐待を見る事で捕らえられた女性が自らの貶められた現状に悲観してしまわないために同性のみで構成され同性であるからこそ選択肢を提示する事を受け入れられる。彼女達が提示するのは"生きるか死ぬか"であり、捕らえられたエルフたちはその境遇から死ぬ事を選ぶ。もはやエルフの国ではその事実を知らぬものは居らず、また、人間の世界では同じ事を繰り返す事になるだろう。エルフとしてどれだけ強くともいついかなる時も狙われ続けるだろうし、そして何より強く根付いた恐怖と憎しみは消えもしない。人間を見る度にその感情をかき立てるエルフはやがてその憎しみを制御できなくなるかも知れない。迫害される側から迫害する側へ容易く変質してしまうかも知れない。助けたエルフはもはや全て失い同族との隔たりもなくならず自身が闇へと堕ちる事を嫌い、死ぬ事を選択した。


それから数百年を過ぎた後、マーガレット達に転換点が訪れる。魔導学の発展が作り出した新たなマギアが従来のマギアを打ち破って見せた。エルフたちは否応にも気づく。あれはかつて東で運用されたマギアの拙い模倣だと。エルフたちは議論を重ね、情報は足りないが秘密が漏れたと仮定し対策を取る事になった。黄金樹からの魔力供給により稼働する防衛前提のマギアとは違う、帝国の造る新たなマギアに対抗するためのマナバッテリー内蔵型のマギア、|剣機[グラドール]の製造を始め最初の機体は東から持ち込まれた休止中の3機となり、技術そのものは元々あったがその管理と遺失のリスクにより使われなかった技術を投入して造られたグラドールは最初の任務を帝国のグラドールの撃破を任ぜられ性能試験となった。


予備のバッテリー、運搬用のキャリア、護衛部隊、他国通行時の取り決め、食料調達方法など課題もあったが始めてみればそれほど苦労もなくその日を迎えた。与えられた任務は撃破よりも居場所の特定と帝国内での隠密機動にこそ問題があった。場所によっては帝国内部へと深く侵入する事になりまず達成不可能となるが奇しくも居場所は黄金樹の近くであり、その試運転に黄金樹の魔力を喰らって成長した魔物を相手していると報告を受けた。帝国の中枢であれば侵入は至難の業であったが周囲をかつての被占領国に囲まれた場所ならば気づかれずに運び込む事はまだ容易だった。黄金樹が枯れその恩恵を受ける事が出来なくなった民は帝国に少なからず恨みを持ち一部を除いて協力的であり、無事かつてのアイングシスへと侵入出来た。



そして目前に迫るグラドールの撃破においてマーガレット達は議論を重ね、得た情報から敵のグラドールはそれほどの強さを持ち得ていないと結論付けた。

敵のグラドールは鈍重に見え、上半身が比較的大き目で重心を低く保ついまだ開発途上のものと推測された。武器はハルバードであり、その先端に爆薬を内蔵し深く刺した後に内部から破壊を目的とする戦い方をし、突進力を重視した機体のようで旋回性能となにより熟練度が足りていなかった。そんなグラドールでは準備が出来ている状況で1対1なら負ける事は考えられず、トードルド伯のシュベトールを撃破したのは奇跡と言える。


敵の情報がこちらの優勢を示す事もあり、あえて敵が稼働中のタイミングを狙い電撃戦を仕掛ける事で一致した。死した仲間に贈る功績に一点の汚れもあってはならない、そうマーガレット達は考えた。


作戦開始間際に敵の動向を探ると敵のグラドールは11機編成で行動し翼に傷がありうまく飛べない竜を囲んで戦っていた。竜の爪や牙が届かない間合いからハルバードですこしずつ弱らせる戦法を取っている。


やはり練度も低くかなり手間取っていたが竜を倒すのを待った後、マーガレット達は隠蔽魔法を解き行動を開始した。周囲に優秀な魔術師が居ない事は判明しているので500m近くまで近づく事が出来、そこから全速力で駆けた。どうやら敵はレーダーすら装備しておらず、マーガレット達が姿を現した程度では気づかず200mまで近づいた所でようやく隊列を整え始めた。マーガレットはわざわざ待ったというのに対応できない事までは配慮する気もなくそのまま近接し突き出されるハルバードを潜り突進の勢いに任せて1機の胸と腹の継ぎ目を突き刺す。操縦者ごと貫いた剣を敵に足を掛け蹴り飛ばす事で抜き、無造作に掲げられたハルバードを切り折る。足蹴にされた機体はたたらを踏み後続の機体にもたれかかり行動を阻害し、その隙にもう1機の短い首へと剣を叩き入れ沈黙させる。伝達系に直接マナを叩きこむのだ。中枢を焼かれてしまえば駆動部は停止する。どうやらほとんど対抗術式を施していないと見え簡単に沈黙した。そこまで行動した後にマーガレット達はようやく誰何される。


「貴様ら!どこの部隊・・・」


「遅い」


懐に入られた時点でハルバードは単なる邪魔な棒であり機体の性能差も相まって敵にはなり得なかった。肩口から滑り込ませた剣はやはり容易く伝達系を焼き、その衝撃で操縦者は即死した。



結果は圧勝に終わり、敵機体のコアを回収し速やかに撤収した。3対11で衝突し1機を大破するに1分もかからず、敵は突進にある程度の速度を有したがそれでもマーガレット達の機体より劣りその特性を活かせず、何よりほぼ初と言って良い対マギア戦のため熟練度が足りていなかった。持っていた武器もハルバードで、距離を取って敵を倒す武器であり接近されては使いものにならない。機体性能の低さをカバーするために取り付けられた先端の爆薬は使う間もなく折られ単なる烏合の衆を蹴散らす結果となった。そして何より機体の内部を守る対抗術式が無かった。あったかも知れないが貧弱なために無い事と変わりなく、恐らくは対マギア戦など考慮していなかったのだと推測された。


マーガレット達が持ち帰った情報から分かった事はエルフの秘匿した技術は漏洩していなかったという事実であり、かつて廃棄されたマギアは外殻の駆動部関係の情報以外いかなるものも奪う事が出来ず、またアイングシス中央部の情報も無事破棄されているという推測が立てられた。そして帝国のグラドールはいまだ開発途上であると判断される。秘密が漏洩していない決定的な根拠はコアにあり、魔導学の発展によりコアの新たな製造方法が生み出されていた。コアを強力な魔物から取れる素材で代用するという方法が確立され、魔物によっては部位に魔力を蓄える性質を持つものもあり、また、高威力の攻撃を仕掛ける時には魔力を高密度に貯めこむ時がある。その部位をコアへと転用しており回収したコアには竜の心臓が使われていた。それだけの素材をどこから調達したかを調査した結果、帝国は黄金樹の魔力を用いて勇者を召喚し勇者の力をもって竜を倒しその素材を機体製造にあてている事が判明した。

そう遠くない内に技術の向上により強い機体が製造されると判断したエルフは王国へグラドールを提供し軍備を整える事になる。



そして東の黄金樹が枯れて800年経ちもはや全ての同胞が苦しみから解放されたと思っていた時にまだ囚われたエルフが残っている事が伝えられた。その情報を伝えた男は自分の目的を手伝うなら教えてやっても良いと提案してきた。

情報の出所は帝国のとある伯爵家の次男で継承権争いになり嫡男が邪魔になった次男はエルフの噂を聞きつけ利用する事を決めた。帝国ではあるもはるか東方の田舎貴族でありそれゆえに情報も集まらず、また、奴隷売買などの跡を辿りやすい方法ではなく、アイングシス侵略時に拉致して連れ帰った為に死んだものと判断されていた。しかしその情報はその子孫が自身の利益を求めて嫡男を蹴落としたいが為にずっと囚われていたエルフを材料にする気になり、エルフからしてみれば些細な出来事の為に容易く漏れる事となった。



帝国南部を通過してから北上し1年をかけ現地へと赴いたマーガレット達は伯爵家の次男と名乗る人物と交渉する事になった。

着いた場所は良くも悪くも田舎であり、丁度収穫の時期と重なり、揺れる穂と束ねられた藁、豊かな田園風景はそこで行われている迫害を思えばなお一層マーガレットの感情を逆撫でした。

伯爵家の次男との交渉自体は簡単に進み、囚われたエルフは伯爵が幽閉しておりその解放には当主の持つ鍵が必要であると告げられた。つまりどのような手段を用いても鍵が必要になり、エルフが侵入出来るように手引きをするから当主を殺害して欲しいという提案だった。当主と嫡男がエルフの所有権を争い嫡男が当主を殺害したとして、その罪で嫡男を排除し次男が次期当主になるというのが筋書きらしい。しかし終始その次男が交渉役のマーガレットを劣情の籠った目でねめまわし、その視線からマーガレットは結局はこいつもご相伴に与かったのだなと推測した。彼らが普段どのようにエルフを見ているか、それが良く伝わってくる。彼らにとって元々エルフは遠い地の自分達に関係のない存在だったのかも知れないが、奴隷として捕らえた後は性欲のはけ口でありどのように扱っても許される存在だと置き換わっているようだ。今はそれよりも救出が先であり次男の提案を受け入れる事にした。


作戦を実行し手引きされ城へと侵入したマーガレット達は首尾よく当主の部屋へと到達する。しかしそこに当主の姿はなく別働隊からの報告を受けてエルフが捕えられているとされる地下室へと急いだ。マーガレットが部屋に着いた時にはもう当主と嫡男は死んでいた。報告によれば別働隊が到着した時には既に当主と嫡男がエルフを挟み仲良く共同作業をしており1秒でも早く終わらせる為にやむなく殺したという事だった。

助けたエルフは声帯を潰され歯を全て失っていた。枷を外した後に彼女が取った行動は哄笑。ただただ声にならぬ笑い声を上げ続けた。それが数分続いた後にマーガレットの襟を掴み真剣な眼差しで声にならぬのにこう口にした。『殺せ』と。彼女が彼女のままで居られる時間はほんの僅かな時間だったのだろう。狂う事で逃れ続けた数百年をただ蹂躙され続けもはや正気では居られない彼女が望む事は誰へも復讐を求めずに消える事。マーガレットはその時激しい怒りに囚われ神への憤りも感じた。神は囚われたエルフを助けず、だがしかしマーガレットにそうするだけの能力を与えた。理性では分かる。神の次元で容易く干渉してしまえば世界への影響も、そして神に仕える者たちも含めて誰もが神の指示に従うだけの存在へと成り下がるだろう。神はただ奴隷のように従うだけの、自分達の事すら自分達で決める事の出来ない存在を好ましく思わない。エルフですらそう思うのだから。だがこれは何だ。神はこのような下劣な存在に何を求める。

そしてマーガレットはここにもグリゴリの影を見る。高度な隠蔽魔法が施されエルフの探知魔法でもここを見つける事が出来なかった。過去何度か経験しており今回も良い様に振り回されているのをマーガレットは感じた。


かつての同胞に薬を与え永遠の眠りへと誘った後、物々しい音を立てながら次男と兵士達が部屋へ侵入し襲い掛かって来た。マーガレットを抱きかかえるエルフを見た次男は『それは俺のものだ!そしてお前もな!』と叫びながら迫ってきたが常軌を逸していたのだろう。彼我の戦力差は如何ともしがたく、罠を考慮していないはずもない。田舎の城の常備兵など数も練度もたかが知れておりいまだ大半が通路にいる状況で後詰めと挟み込んでしまえば問題もなく、屋内戦闘は数の利点を活かしにくい。密集すれば押し込まれた時に下がれず切り伏せられ、下がった為に味方とぶつかり更に混乱する。武器を振り回せば味方に当たり距離を取ろうにも前も後ろもスペースがない状態ではどうにもならない。相手を押し返す事が出来てこそスペースを確保し戦える状況を作り出せるがのどかな田舎者に歴戦の戦士を技量で勝る事など出来ない。次男が仕掛けた束縛の魔法は拙いもので、そんな魔法ではエルフの魔法を打ち破る事は出来ず、剣で切り伏せられ炎で焼かれ、数の優位を活かせぬままに駆逐されていった。

結果としては次男も嫡男も死ぬ事になった。何を血迷ったか罠に嵌めようとした次男はコレクションでも増やすつもりだったのか、或いはエルフに最もご執心だったのはこの男だったのかも知れない。



セルマへ帰還した後、マーガレットは旅に出た。奴らを、グリゴリを倒すには力が必要だと。数十年の探索の末に彼女は炎の精霊界へと足を踏み入れる事が出来、新たな契約をし帰還した。帰還した彼女の髪は燃え上がる炎のような鮮やかな色へと変わっており、その瞳も真紅に染まっていた。そして大きな紅い結晶をセルマへと持ち込んだ。強大な炎属性の結晶はマーガレットの愛機のコアとして埋め込まれ、機体デザインと共に改修し、その機体名を|唯なる真紅[スカーレット・ワン]へと変えた。

彼女が探し求めたのは黄金樹に頼らずに黄金樹と同じ恩恵を授ける事の出来る力だった。グラドールではその保有する魔力量のために長距離運用が出来ない。シュベトールではその魔力源より遠くへと長期間離れる事が出来ない。それでは奴らを倒せない。故に彼女は世界を探索し手がかりを探し、神の時代の奇跡とも呼べる力を契約により手に入れた。炎の精霊界の加護、それがマーガレットの手に入れた力であり、スカーレット・ワンの動力源となる。マーガレットの交した契約は不浄の浄化であり魔物の排除、魔族の消滅、咎人への断罪であり、マーガレットの死か結晶の返却若しくは破損をもって終了する契約である。しかしマーガレットに終わらせる意思はない。最早居ないと分かってはいてもいまだ帝国に同胞が囚われている可能性は無くならない。それが皆無だとしてもその可能性は捨てきれない。既に経験してしまったのだから。だが同時にその可能性が潰える時は帝国の消滅の時だと確信しはするも、それもただの甘い幻想だと心のどこかで気づいてしまっている。帝国とはつまり人間の本性とも呼べるものだ。人間がより人間らしさを追求した何か。自らを肯定するために、白痴も、自己正当化も、欺瞞も、偽装も、隠蔽も、虚実も、押し付けも、脅迫も、ありとあらゆるものを容認して存在する何か。一方で、保身の為に、契約を、ルールを、制限を、モラルを、声高らかに主張する何か。その腐った内臓を樽にぶち込んでかき混ぜ熟成させたような汚物にマーガレットは吐き気を覚える。綺麗に蓋をしてしまえば外面だけはマシになる、そんな愚物を消し去る事の出来ない自身の無力さにも憤りを感じる。


マーガレットが過ごした半生は同胞の血と涙で濡れており、過ぎし日は一欠片も安らぎを与えない。


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