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021 オレワシ協定

「お嬢様、お言葉を改め下さい」


「えー・・・」


「えー、ではありません。このままにしておくわけにもいかない事です」


今日もエールトヘンは退かないらしい。

幾度となく繰り返されたエールトヘンの言葉。

もう何回目だろうか。

なぜエールトヘンがここまでしつこく言ってくるのかといえば、なんでも言伝を伝える時に問題になりやすいらしい。


事の発端はキャメロンとの会話だった。

新しく護衛隊長になったキャメロンが部屋に結界を張って護衛をしてくれるので部屋の防御力が増し、それは良いのだがおかげさまで幽体離脱で出歩けなくなり、楽しみも減った。

もちろんカメラモードがあるのは内緒だ。

カメラモードまで出来なくなると好奇心を抑え切れなくなる。

だからといってそれで毎回出掛けるという事もなく、エールトヘンだけではなくキャメロンとも話す事が増えた。


キャメロンとはエールトヘンに間に入ってもらって話す事になるのだがそこでエールトヘンから先程の言葉を貰う事になるわけだ。

仮にもお嬢様。

男口調で『俺』などと言っている言葉をそのまま伝えるわけにもいかないようで、伝える時にエールトヘンは渋面になる。

俺が話した内容をエールトヘンがオブラートに包んでキャメロンに話すのだがそれでもやはりその口調の悪さは隠し切れないようで、エールトヘンはこれから先の事を考えて言ってくれているのである。

だから再三の小言の結果、口調を変える事になった。

確かにそうだと思う。このまま成長して『俺』なんて言ったり話し方も乱暴なままだと変人扱いされる。

それによく考えればあまりの出来事に驚いて『俺』なんて話していたが、前世はこれでも社会人であり、普通に敬語を使っていたのだから『私』と言っても別に抵抗があるわけでもない。

状況が理解できずに混乱した事と急激に成長する身体に引き摺られ、そしてどこかでエールトヘンに甘えていたからあの口調のままだったに違いない。

今更それをエールトヘンに伝えるのは癪だ。どこか小っ恥ずかしい。


そう。だから今日からは『私』。

口調も変えてエールトヘンを困らせないようにしたいと思った。




のですけどね・・・。




「努力するからこれで良い・・・じゃろ?」


どうしてこうなった。

そう言わないで欲しい。

今まで男口調で話していたのにいきなり『わかったわ。これからはおしとやかに振る舞うわね。いままでごめんなさいね』なんて言えるわけがない。


むず痒いにも程があった私はこう答えてしまっていた。

『良いわよね?』なんてとてもじゃないが言えず、当然エールトヘンから駄目出しが入る。


「・・・なぜそうなるのです?」


「いやまあ、あれじゃ。いきなりな?

イヤーンとかな?言えるわけないじゃろ?」


「イヤーン?はともかくその話し方はなぜです?」


「ほら、な?さすがにすぐは抵抗があってのぅ・・・。

こう、なんじゃ、ほら。

良く考えてみてくれ、エールトヘン。

自分がいきなり女言葉でオカマのように話し始めたらどう思う?

こう、モゾモゾとしない?

な、するじゃろ?」


全くの他人行儀な敬語でもなく男口調もだめ、女らしいのはどうにもすぐには受け入れられないから出来るのはそう、男でもなく女でもなく男でも女でも通用しそうな話し方、という事でどうにかここに落ち着かせたい。


その言葉に少し考える素振りを見せてからエールトヘンは言った。


「ああ、そう言えば前世は男だとか言っていましたからね。

それなら確かにいきなりは難しいのか知れませんね。

ならあえて迂回するような手もありですか・・・」


「じゃろ?わしもな、良い手じゃと思う」


「わし!?まあ、俺、よりましですか・・・。口調と合わさるなら」


「勿論、ちゃんと敬語も話す。必要な時はしっかり『私』と言うし。ただな、やっぱりすぐには『私とした事がいけませんわ、ホホホ』とかムリじゃ」


「それもどうかと思いますが話が出来るようになって幼児がいきなり完璧な敬語を使うのも変ですか。

たどたどしい言葉では駄目なんでしょうか?」


「幼児プレイはムリ」


「プレイとか言い方があれですが本当に駄目ですか?」


「何の罰ですか難易度高いです勘弁して下さい」


「ちゃんと話せるじゃないですか」


「いや、さすがにずっとこれはあれじゃ。その、堅苦しいというか他人行儀というか・・・」


「ああ、なるほど。形式的な話し方ばかりでは疲れますか。

では少したどたどしい言葉を試してから出来ないかどうかを考えるのはどうですか?

とりあえず何か言ってみて下さい」


「えー・・・、えーるとへん?わたち、みんなとちゃんとおはなちちたいのバブー」


「そのバブーが良く分かりませんが無理難題を押しつけた事が分かりました。

このテレパシーを通じて伝わるなんとも言い難いむず痒い感覚が答えなんでしょう」


「わ、わかってくれるのか?やはり・・・、やはりお前はいい奴じゃ」


「まあ、ともかく・・・、しばらくどこか妙なその話し方で誤魔化しましょう。

いずれ女性らしい話し方にも慣れるでしょう」


やはりそこはエールトヘン。

最後には私を立ててくれるいい奴である。

エールトヘンの為なら、『少し位良くってよ?』なんて思えもするがさすがに長時間はまだ難しい。

こう、身体を捩りたくなる。


ほら、あれだ。

ときたま居るだろう?

個性出しをしようとして強引にキャラを作っている残念な奴。

どこかぎこちないからそれを見ている時のどうにもそわそわしてしまう居心地の悪さ。

あれを自分で被弾する感覚だ。

それならまだこの話し方の方がマシって事。


というか、そのうち慣れるんだろうか。



時が全てを解決してくれる。



なんて事があればいいのだが期待するのも間違いか。

折角エールトヘンが手伝ってくれるんだ。少しはがんばろう。


--言い訳--

少しずつ口調を女性側に近付けていくためのものですので。

赤ん坊の時の泣きの激しさは男性的に表わした方がわかりやすいって事で初めが男性だったりします。

主人公の口調が多少独特なら対話形式の話を進める時に楽なもので。


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