ディメトロンの幻想
前の話を、三人称に改稿しました。
幻想の中、一組の少年少女は「世界」を見つめる。
西洋の古代と中世の初めのようなの街並み。
コロッセウムに、上から見れば丸いはずの教会。
「チョコ」白髪にも見えそうなプラチナブロンド、青にも緑にも見える目、痩せた体の少年が少女を呼ぶ。
「アポロだっつってんだろ、ロック」ウェーブのかかったつややかな黒髪、黒目、腰に剣をさげた少女は言う。
「え、でもチョコはチョコじゃん」へらへら笑う少年。多分格好いい顔を台無しにしている。
「うるせぇ、それ以上言うな。シャイ――」そう少女が言ったところで、少年は彼女の口をふさぐ。
「『それ以上言うな』は、アポロの方だよ。
アポロ、言ってたじゃん。『あんたはシャイ何とかじゃない。
《市民が悪い王様を殺しても良いんだ》っって言った方のロックだ』って。」
そういった彼の目は、どこまでも冷たい。
「それとも1000円くらい渡して黙らせようか? 」なんて、冗談を言っていたとしても。
「まぁいい。ロック、お前が呼んだのはあれだな。
『悪魔の霧』または『闇の霧』がやってくるからか。
私たちに悪夢をもたらす、存在」少女は目をつぶる。
「そう、いままでは僕たちはそれと逃げて来たよね。
でも今日は、それをばらまく『魔王』と戦ってみようと思って」
少年は無邪気というか、楽しそうな声色で言う。
町の外れに、黒い雲が見える。
「駄目だ、逃げた方が良い! 地下に隠れる」
少女は少年を連れて走ろうとする。
少年はニヤリ、と笑う。
「だめだって、もう目の前に『魔王』がいる」
黒い雲、の中。少年はひたすら「魔王」らしき人影にコインをぶつけようとする。
「くそ、来たか」少女は剣を振るおうとする。
黒い雲の中で、中世風の街並みは電気のついていないビル街に変わっていく。
コインはビー玉に、剣は木の棒へと変わる。
そして、「魔王」――明月変 遼子は、少年少女をまとめて取り押さえた。
「くっ、離せ! 「魔王」なんかいなくても平気なんだ! 」
少年――西洋人ではなく東洋人の、おそらくは日本人の少年は叫ぶ。
茶髪のショートカットの少女はじたばたと暴れている。
二人は引きずられるようにして、軽自動車に引きずり込まれた。
車は、静冷院修造が運転している。
遼子は、少年と少女の間に座る。
「佐藤 逸志と日立 千代子だな」
遼子は確認する。
「ちがうよ! 僕はロックだ」と、必死に否定する少年。
「あ、そうです。彼は逸志、私は千代子です」諦めた目で認める少女。
「ロック……逸志だったか。お前は『データディメトロン』で幻覚を見ていただけなんだ。金融業の親共々、お前は薬の中毒者になった。その夢の中で、
逸志は、ロックになった。6×9で五十四、逸志だ。そこを認めとかないと、後からが辛いぞ」静冷院は、そう告げた。
「逸志、私はアポロじゃない。千代子……チョコなんだ。逸志はそれを忘れないでいてくれたよね? だから私は逸志を、逸志って呼ぶよ! 」泣き叫ぶ少女――千代子。
「おちつけ、千代子。大丈夫だ、しばらくしたら逸志も目が覚める。
お前も少し休め、そろそろ『本部』だ」
車は、地下へと滑り込んだ。