最初の出逢い
2013.08.14投稿
2013.08.27修正
2013.10.14修正
2013.10.21修正
主人公は、自分を襲う頭痛と闘っていた。
(―――……あー、頭いてぇ…話には一応聞いてはいたけど…来た瞬間に、地面と激突だもんなー……幸先悪いなぁ…)
主人公は、どこかの森の中に居た。どこかの森の中で、草むらの上に寝転んでいた。いや、倒れていると言った方が、正確かもしれない。そして、鬱蒼と茂る森の木々の隙間から、木漏れ日。その光は暖かく、主人公を包んでいた。どうやら昼時らしく、ちょうど主人公の真正面から光が落ちてくる。直接太陽光が当たり、主人公は目を開けられない。
彼の側には、先程まで彼が背負っていたリュックサックが落ちている。ま、それもどうでもいいんだが…一向に動く気配無いなぁ主人公。このまま此処で寝てしまうつもりか? やめとこう、動こうよ…阿呆じゃないのか……。
ふと主人公の位置から真西へ数十メートルの所に目をやると、誰か居た。2人。12、3くらいの少女と10歳前後の少年の2人。
「マリア姉様! ほら、いたよ。ブラックルシファー!」
少年は、自分のすぐ側の樹の幹にいる黒い蝶を指さしながら、少女に向かって言った。
「ホント! セレア凄い。しかも2羽も。番いかな…?
よし、スケッチスケッチ!」
そう言うと、少女はショルダーバッグからスケッチブックと鉛筆を1本取り出す。あっという間に蝶を大まかに写生し、細部に渡って描いていた。
少女の名はマリア。真っ黒で腰まである長い髪。ストレートかと思いきや、長さ下半分くらいはウェーブがかっている。黒いマントに黒い法衣。どうやら魔術士の様だ。スカートと手袋だけそれと反する白で(少し青みがかっている)、ワンポイントの様に胸元に一つだけ、魔法力を帯びた宝石を付けている。そして両耳に群青のピアス。
少年の名はセレア。マリアの弟である。姉と同じく真っ黒でストレートの髪。基本的にはショートカットであるが、両サイドの髪は鎖骨に掛かっている。白いマントに白い法衣。一見、法術士の様に見えるが、腰に長剣を携えている所を見ると、剣術士かもしれない。彼はピアスをしておらず、両手中指に、魔法力を帯びた宝石の付いた指輪をしている。
ちなみに法衣とは、それに使用されている布が織られる際に、法術も編み込まれており、普通の服より耐久性に優れ、魔法攻撃にも多少耐えられる様になっている。
「あっ! 嘘ぉッあと、もうちょっとなのに!」
マリアが最後の仕上げをしようと、ブラックルシファーを見た時だった。蝶は、その場を飛び去ったのである。
どうやらマリアは今の出来のスケッチに満足しておらず、すぐさまルシファーを追いかける。セレアも姉についていこうとした。
「姉様ッ待って…」
その時である。セレアが主人公に気づいたのは。
木々の間から見える人の足。蝶を追いかけようとする姉を引き留め、一歩一歩、彼に近づく。もしかして、死んでいるのではないか、と思いながら。
「姉様……、人の足だよあれ! 行ってみる?」
「当然じゃない……生きているにしても死んでいるにしても、何とかしてあげなくちゃ……」
2人が音を立てないように駆け寄り、顔を覗くと、主人公は目を閉じたままだった。寝てるのか?
半信半疑のまま、セレアが声を掛ける。
「……あのー……生きてます…?」
(生きてるって。―――あ、口に出さねーとわかんねぇか)
当たり前だよ主人公。わかったら凄い。
「……生きてるよ」
瞬間、セレアの表情がパッと明るくなる。
「姉様ぁ、生きてるってこの人!」
「ホント? よかったぁ」
(…子供……か…?)
子供だよ。主人公、アンタも高校生だから、子供だけどな。
ずっと閉じていた目を急に開けた為、どうやら主人公、太陽光が眩しすぎて、セレアの顔がよく見えないらしい。おそらくまだ、男女の区別もついていないだろう。
少し目を擦り、改めて自分の目の前にいる人物を見る。主人公は何か言おうとしたが、気づかずマリアが話しかけた。
「あの、お兄さん、起きれますか? 何か…擦り傷が沢山あるみたいですけど…立てないなら、もたれるのに丁度いい木もありますし、わたし達手伝いますから」
「傷…?」
言われるまで、主人公は気づいていなかった。恐らく落ちた時に木に引っ掛かったりしてついたのだろう。
「……悪い、手を貸してくれ」
ゆっくりと、主人公は右腕を動かす。するとマリアは主人公の右側を支えた。
「わかりました。ほら、セレア。お兄さん起こすの手伝って。左側」
「はぁい、姉様」
セレアは張り切って、主人公の左側を支える。
「はい、これで治療終わりです」
そう言うと、マリアの手のひらから、淡い輝きが消えていった。
魔法…いや、回復系なので法術である。主人公をすぐ側の木にもたれさせた後、マリアは彼の怪我を治す術をかけてくれていたのだ。
最初は周囲がよくわかっていなかった主人公も、もう把握出来ている。此処が何処かの森の中だという事も、2人の子供が側に居て、助けてくれた事も。……但し、セレアの性別に関してだけは、区別がついていない。笑わせる。
「有難う…
ふーっ、落ちた時に出来た擦り傷だけじゃなく、落ちたショックで起きた…というか単に頭を打ったからだろうけど、頭痛まで治してくれて…助かったよ」
「…落ちた?」
主人公の言葉に反応したマリアが、すぐさま聞き返してきた。
「え!? あ、いやいや…え…
……えっと…名前は? 一応恩人だし…聞いておかなきゃ」
おい、人に聞く前に自分の名前はどーした。ちょっと礼儀なってないぞ主人公。しかも落ちた事を聞き返されて、動揺してるし…。
それに対してマリアは恩人呼ばわりされて照れてるし…。
「恩人だなんてそんな大袈裟な。わたし、マリア=カーラといいます。この子は弟のセレア。わたしは14、セレアは11歳です」
(あ…最初に声かけてきた子、男の子だったのか…可愛らしい顔してんのになぁ)
男でも可愛いのはいるぞー。自分だってどっちかっつーと猫目の女顔のクセにー。自分の顔をちゃんと見てからいいましょうね、主人公。
まぁ、セレアの場合は子供だから余計に女子に見えるっていう…。
「でも本当にびっくりしました。こんな街道から外れた森の中に、人が倒れているんですから。ねぇ、姉様」
「そうよねー。わたしたちはこの森だけに生息する蝶を見に来たんですけど、まさか人が倒れているなんて……」
2人して主人公がこんな所に倒れていた事を不思議がる。そりゃあそうだ。森の中で倒れている人。理由がなんであれ、それだけでも不思議だもんな。当然といや当然である。主人公もそれは納得している様子だ。
「んー…ちょっと、事情があって…さ。 で、此処、何処?」
『は!?』
姉弟は、思わず声を合わせて言った。