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フリージアうすしお味



「ひゃはははは!」

「は、放せこら……放せってんだろッ……ぁあああああ!!」



 装備を剥かれたチャラ男が盗賊たちに攫われていく。トーマ君は俺とチャラ男を交互に見て立ち止まっていた。助けるべきか護衛を続けるべきか、その葛藤が自分の正体を告げているとも知らずに。



「…………っ」

「大切な仲間か?」

「それは……いえ、お嬢様の護衛を優先します」

「唯一無二の仲間なら助けに行ってもいい。そうでもないならはっきり言え。俺は話のわかる男だぞ?」

「いえ、お嬢様の護衛を離れるつもりは――おとこ?」

「そうか。ならついてこい」

「は、はい!」

「あのムシケラ、チンピラにボコられてたです」



 マジかあいつ……なら近衛兵になれたのは親のコネか。

 思えば貴族令嬢(♂)相手にあの態度だからな。まともに苦労して訓練を積んだ人間なわけがない。それどころか、採用した担当者の正気を疑うレベルで品が無かった。


 それに奴らがどんな計画を立てていようが関係ない。こちらに害をもたらすなら消えてもらうだけだ。


 近衛兵たちは馬車を守るように防御を固め、ちらほらと見覚えのある盗賊たちが大勢で取り囲んでいる。アイシャがディーネと魚拓さんを守るように立ち、懐かしのスキンヘッドがなにかを要求しているらしいことがわかった。間違いなくロフだ。



「そこをどけ」

「……あ?テメェ今なんつった?」

「どけと言った」

「あぁ?俺たちをなめてんのか嬢ちゃん!」



 面倒なので軽めの威圧をぶち込んでやる。

 一斉に俺から距離を取る盗賊たちはさすがというべきか、顔色を変えて飛び跳ねるように間合いを確保していた。危機察知と状況判断に優れているあたり、騎士団長が厄介というだけはあるようだな。


 俺の威圧を感じた近衛兵、ブリジット、ロフも言葉を止めてこちらを凝視している。さて、正確な事情を聞ければいいが……。



「お兄様。おかえりなさい」

「ただいま。問題ないか」

「はい。特にありません」

「ディーネお嬢様。若干の問題はございます」

「…………君たちはどうしてそんなに冷静なんだい?絶対絶命じゃないか!」

「大丈夫だ。あとは俺が話をつけるから下がっていろ」

「じさくじえんするです?」



 なんて人聞きの悪いことを言うんだ君は……。



「ロフ。これはなんのマネだ?」

「……あんた、まさか」

「この姿では初めましてだな。俺はクロ。アウタールフ家でお世話になっている」

「…………先月ジョゼの野郎んとこへ行きやしたか?」

「よく知っているな。狩人組合の仕事で、王国騎士団長と一緒にお邪魔したぞ」

「マジですかい!?さっきのアレでもしやと思いやしたが、ジョゼの野郎が殺されるって転がり込んでき――って、生きてんなら連絡すりゃいいでしょうが!」

「随分と温かい言葉をくれるじゃないか。だがこっちも死にかけるぐらい頑張ったんだ。それくらい許せ」

「く、こっちがどんだけ心配したと……」

「まぁ済んだことは気にするな。で、これはなんのマネだ?」

「なんのって……国家反逆罪の首謀者としてアウタールフ家に捕まって、王都へ護送されると聞いたら黙っておれんでしょう!?」

「反逆罪?俺がか?」

「それ以外に誰がいるんですかい!」



 ……こいつら(クロード)を救出しようとした?んなバカな、こんなチンピラ共に仲間意識があるとは思えないんだが。


 いや、実際に行動してくれたのならそれが事実か。だとすれば悪いことをした。



「お兄様はクロ・フォン・アウタールフとして我が家の大切な家族となりました。お返しすることはできません」

「……まぁそういうことだ。反逆罪とやらはどこで聞いた?」

「そりゃサウスポイントじゃみんな知ってる噂なんですがね……っていやいやいや、それよりその姿はどうなってんです!?おかしいでしょう!?」

「俺だってそれなりに頑張ったんだぞ?ここは色々あったで納得しておけ」

「……さっきのアレで本人なのは間違いねぇと思ってやすがね。じゃあ拘束されたってのはどういうことで?」

「偽情報に踊らされたな。だが心配はいらない。あとはこっちに任せて結果を待つといい。あぁついでに、店の子の仇は取ってやると伝えてくれるか」

「うわ……国は滅ぼさんでくださいよ?今はそこそこ居心地がいいんで」

「約束はできんな。夜逃げの準備だけはしておくことだ」

「……勘弁してくださいよ!お、おいテメェら。引き上げだ。撤退しろ!」

「か、頭?」

「黙って引け!引かねぇ奴ぁ俺が斬る!」

「うっす!」



 蜘蛛の子を散らすように撤退する様はまさに盗賊。四人一組でバラバラに逃走するのも経験から学んだ知恵か。意外なほど統制もしっかりしているし、あれなら充分に使えるな。


 立ち尽くして困惑しているトーマ君の耳を引っ張り、囁くように警告をしておく。これくらい軽めに脅してやれば道中は大人しくなるだろう。チャラ男が攫われた今となっては、トーマ君を泳がせるしかなくなったからな。



「…………」

「聞こえないのか?返事はどうした」

「了解しました!!」



 ……なんでコイツ真っ赤になってんだ。脅したつもりなんだが。



「この身に代えても必ずやお守りします。お任せください!」

「お、おう。しっかりな」

「はっ!」



 ビシッと敬礼付きで返事をされたのだが、なんなん?お前は敵だろうが。


 それからというもの、トーマ君は別人のように仕事をしていた。

 仲間たちからの不可解な視線をものともせず、休憩時間には率先して見張りを行い、暇になるとヴィンスの悪行をこっそりと俺に教えてくる。


 チラチラとこっちを見ては赤くなるトーマ君に、俺とアサガオちゃんは深い哀れみを感じていた。よりによって令嬢(♂)に惚れてしまうとは……かわいそうに……。


 やはり人は見た目に騙されることがはっきりと証明された。やや不快ではあるが、キモさ以外は都合がいいので利用させてもらおう。別に俺から騙したわけじゃないしな。ハハッ。



「お兄様もお人が悪いです」

「ディーネも気づいたか」

「気づかないはずがありません。でも、お兄様は私のです」

「……上手く泳がせれば便利かもしれん。もちろん誤解を解いたらメスガキ風に煽ってやるつもりだ」

「…………」

「どうしたフィル王子。肛門みたいな顔して」

「なんて下品な言い方するんだ!それよりあの盗賊たちはなんなのか説明してほしいと言ってるじゃないか……」

「申しわけありません殿下。お兄様に悪気はないのです」

「い、いやいや。僕は気にしていないさ!ディーネ嬢、どうか心配しないでおくれ」

「殿下の心配はしておりません」

「…………」



 ……う~ん、これも青春か。

 寂しげに宙を漂うフリージアをムシャムシャと食いながら苦笑する。やはりアサガオちゃんの花とは比較にならないほど味が薄かった。



「アサガオちゃん。塩を頼む」

「あい」

「僕のフリージアに味を付けて食べないで……」

「味が薄い。土に魔力が足りん証拠だ」

「食べ物じゃないんだよ!」



 ストレスが溜まっている魚拓さんは置いといて、もうじき王都の城壁に到着する頃だ。


 小窓を開けて見えてきた城壁は、まさに王都と呼ぶに相応しい立派なものであった。だがこの周辺に生息する魔獣は大したものではなく、サウスポイントのように猛牛が付近を徘徊しているわけでもない。なぜここまで堅牢な城壁を必要としたのだろうか?


 先生に解説をお願いすると、うっとおしいくらいに嬉々としてうんちくを垂れ流し始めた。が、あまりに長いので要約する。


 遥か昔、人類は純エーテルによって絶滅寸前まで追い詰められ、事実上の滅びを迎えた。太古の文明は死に、長い年月と共に純エーテルは一部をのぞいてろ過され、少しずつ魔素へと変化していった。その魔素を取り込んで進化した動物が魔獣となり、人もまた適応することで新たな文明を築いたという。


 当時、この大陸は無人の実験施設があるだけで、転移門(災厄の扉)が開発されるまでは魔獣の楽園だったそうだ。やがて移り住んだ人にとって安全な場所はどこにもなく、食って食われての応酬は文明の進化を緩やかなものにした。


 要は魔獣の襲撃から安全を得るためには城壁を作るくらいしか方法はなかった、ということらしい。


 だったこれだけの説明でアホみたいにスクロールさせられてしんどい……どうしてこう先生は説明が回りくどくて長いのかッ。簡潔にしろ簡潔に。



「よくぞご無事で」

「殿下のお戻りだ。アウタールフ家の御令嬢方も一緒にな」

「……左様ですか。どうぞお通りを」

「ご苦労」



 門番に対し、真面目な近衛兵である金玉さんが対応すると、こちらに視線を向けた門番がトーマ君に耳打ちをする不審な動きを見せた。


 念のため先生に門番の写真を保存してもらい、もしものために備えておくことにしよう。敵は徹底的に叩き潰す。後顧の憂いは残さないのが信条だ。


 門を抜けて、予想よりも活気のない大通りへと馬車を走らせる。

 しばらくすると、魚拓さんがなにやらキョロキョロとして落ち着きがなかった。小腹がすいたのだろうか?



「殿下。どうされました?」

「……うん。本当ならアウタールフ家の別邸に向かう予定だったんだけどね。通り過ぎたみたいなんだ」

「それはどういう意味でしょうか?」

「……すまない。きっと父上だと思う。君たちを、ディーネ嬢を城に招くつもりなんだ」



 みんなの顔を見るに、これは礼儀のない行いのようだ。とはいえ、俺の役目は変わらないがな。



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