最新のゲームはスゲェと好き放題やっていたら現実だった

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「かんぱ～い！」

「乾杯」

「…………ぷはぁ！疲れた後の一杯はさいこーだね～」

「お疲れさん。アンナはなにを頼む？」

「ん～、こってりしたのがいいなぁ」

「こってりね。あ、注文いいですか？」

「もちろんです。本日はどれになさいますか？」

　仕事を終わらせて飲むエールは美味い。あれだけ不機嫌だったアサガオちゃんもご覧の通りだ。とはいえ不機嫌だった理由はさっぱりだが。

「じゃあトード―のあぶら祭りと、串と肉欲の迷宮をお願いします」

「かしこまりました」

「お、クーちゃんすごいの頼んだねぇ」

「こってりと言えばコレなんだろ？俺も初めて注文した」

「そーなんだよ。死ぬほどおいしいって話だから期待がウジャウジャするね！」

「わけわからん表現だな……しかし、こうして人の金で飲む酒はたまらんな」

「そういうのやめようよ。加齢臭がしてきそう」

　うるさいですね……現実でも若者の範囲だっつーの。

　人生まだまだこれからだ。

「でさでさ、今回のお仕事はどーだった？」

「普通」

「ふつ～？それはウソでしょ」

「そんなに聞きたいのか？」

「もち！教えて教えて」

「実は王都から騎士団長がやってきて、商業組合が不正行為に加担していると――」

「ウソウソウソ！ぜんっぜん聞きたくないよ！？いやーごめんねぇ！」

　バカめ、その好奇心が命取りだ。

　耳を塞いでアーアー言っているマヌケに無理やり事情を聞かせていたら料理が運ばれてきた。サウスポイントが誇る名物店のあぶら祭りだ。ヌトヌトでギットギト。肉と油が苦手な人にこの鶏ステーキは拷問だろう。

　しかしこれが意外にも後味がすっきりしていてしつこくない。ソースにはたぶん柑橘系かな？が入っているのだと思う。さわやかな酸味と甘みが絶妙にマッチした肉に酒が進む。本当に美味いな。

「おいしいねクーちゃん。でもさ、なんかお肉がお空に浮かんでは消えていくんだけど……」

「気にするな」

「ムリだからそんなの。気にしてないのはクーちゃんだけだよ？」

「ところで、近くに上質な魔石が取れる場所を知らないか？武器を作るのに必要なんだ」

「会話しよ？ね？お肉が消える現象についてお話しよ？」

「ところで、近くに上質な魔石が取れる場所を知らないか？武器を作るのに必要なんだ」

「クーちゃんもいい感じに無敵な女の子だよね……」

「俺はちゃんと男として登録してある。残念だったな」

「あ、それわたしが直しておいたよ」

「は？」

　個人情報を独断で変更するとかイカレてんのか？

「……組合にも規定はあるよな？個人情報を勝手に改変してはいけないとか」

「たぶんあると思うよ！」

「思うよ！じゃなくてだな……」

「反対する人いなかったよ？」

「ならあの人は髪が無いから特技をハゲにしたよ！って言って反対されなければ通すのか？」

「わたしなら使用武器覧にするかな」

「項目の問題じゃねぇから」

　ふざけんな。狩人組合のコンプライアンスはどうなってんだよ……。

「ところで、近くに上質な魔石が取れる場所を知らないか？武器を作るのに必要なんだ」

「三回目だね」

「やかましい！質問に答えろバカ娘が。親に懺悔しながら生まれ直してこい」

「すっごいこと言うよね。そこまで言える人クーちゃんだけだよ」

「きっと亡くなったお母さんも悲しんでいるだろうよ。ルールも守れないバカ娘をな」

「まだ生きてるから大丈夫」

「人はいずれ死ぬ。後悔しないように親孝行は早めにな」

「……そうだね。あれ？なんの話だっけ？」

「魔石だっつってんだろ！はよ言えバカチンが」

「ご、ごめんってば！あー魔石ね魔石――あ、そうだよ！ふふふー、お客さん。いい話があるんですよ～」

「…………」

　うわ、アンナが満面の笑みを浮かべているのは嫌な予感しかしない……。

　何度も繰り返すが、武器を作るために上質な魔石が必要になった。

　先生によると、サウスポイントの鍛冶師は平均的で特徴が無いという。なので難しい注文には答えられないだろうとのこと。

　そこで俺はこう注文した。とにかく頑丈な棒を作ってくれと。

　理由は簡単、俺には武器を扱う技能が無いからだ。

　強力な身体強化があっても技量不足で武器が壊れてしまう。いつかは武術も学びたいと思っているが、それまでに持つとすれば壊れないものがいい。つまり太くて硬い棒がベストというわけだ。

　ごしゅは素手でいいです。とアサガオちゃんに言われたがそうもいかないかった。魔力障壁を張れないから拳を守れないのだ。

　一度ゴズの親戚を狩りに行ったときに手が砕けたからな。あの時は本当に焦った。おかげで拳一つ分の身長を失うというバカをやってしまった。

　というわけで早急に武器が欲しい。強化率二割程度でも体が壊れるなんてやってられんわ。

「んとね、サンブルグの南に魔石の採掘所があるの知ってる？」

「あぁ。昔から枯れない採掘所として有名らしいな。確かアグネアの心臓とも呼ばれているんだったか」

「そうそう。この領地が裕福な理由だね。おいしい仕事だからここにはウチからも定期的に派遣してるんだけど、ちょっと強い魔獣が出たみたいなんだ」

「ほう」

「そこで炭鉱の責任者からもうちょっと頼りになる人を派遣してほしいって依頼があったの。これってクーちゃんにとってもいいタイミングじゃない？」

「そうは言っても、そこはアウタールフ家の管理下にある採掘所だろ？個人での採掘許可なんて下りないと思うが」

「許可書なら組合で発行できるよ？そしたら貫通するまで掘っても大丈夫さぁ！」

「お待たせしました。串と肉欲の迷宮です」

「おー待ってましたぁ。クーちゃん早く切り分けて！」

「わかったから落ち着け」

　その後、高級店だからと遠慮しようと思ったが、アンナから今日は組合長の奢りだと聞いてリミッターを解除した。いやぁ満足満足。なぜか遠くから聞こえた悲鳴が耳に残っているがどうでもいいよな。人の金で食うメシは最高だぜ。

　翌朝。いつものように朝食の準備をしていると、宿屋の幼い娘さんが部屋へとやってきた。なにやら俺に対して不満があるらしい。

「おきゃくしゃん。おはようござます」

「あ、あぁおはよう。えーと、どうかしたのかい？」

「きょうもおへやでモクモクしてましゅね？わたちたちはなんどもちゅういしてましゅけど？」

「……あ、ごめん。ちゃんと窓も開けてるんだけど煙がなかなか――」

「いいわけはみぐるしゅいです。おとにゃのクセにはんせいもできないでしゅか？」

「…………」

「これがしゃいごのけいこくでしゅ。まわりのめいわくをかんぎゃえてくだしゃいね？」

「……はい、すみませんでした」

「まったきゅ、さいきんのおねえしゃんはきりちゅもまもれないでしゅか。よもしゅえでしゅ！」

　……幼女にガチ説教された。

　その小さな背中を見送っている俺。後ろからニヤニヤしているアサガオちゃん。襲い掛かる二重の屈辱にとても興奮した。今日はいいことがありそうだ。

　宿を出るとラフな格好に剣と盾を背負った団長が待っていた。騎士団のほうは大丈夫だろうか？

「おはようございます騎士団長。部下の人たちは大丈夫でした？」

「おはようございますアウタールフ嬢。騎士団の事でしたら心配ありません。任務中に別行動になり連絡が取れないことになりましたから」

「……それ本当に大丈夫ですか？」

「ご安心ください。今は真実を知ることが重要ですから」

　プールトンさんとの話の後に騎士団長をダメ元で説得した。このままでは毒殺とか暗殺されますよと。するとあっさりその可能性を認め、俺に同行してアウタールフ公爵に会いたいと言ってきたのだ。

　いや本当に都合のいい展開に驚いたし、騎士団長は妄信的じゃなかったのが救いだった。上手く誘導すればジェシーと会わせてあげられるかもしれない。

「実は狩人組合で仕事を受けているので付き合ってください。段取りとしては、組合で依頼書を受け取り、サンブルグから南の採掘所で仕事。それが終わったらサンブルグの公爵邸へと向かいます。以上ですが、意見があれば遠慮なくどうぞ」

「は！任務了解しました。姫君はこのグレゴリー・マクドナルドが全身全霊をもってお守りいたします」

「…………サンブルグで本物のディーネに会えますから、楽しみにしてください」

「フッフッフ。わかっております」

「フフフじゃねぇのよ……」

　この人も向こうに着けば嫌でも納得するだろ。きっとアウタールフ家の人たちが無関係な他人であることを証明してくれる。まして正体が分かるわけもないから問題もない。

　さて行くぞアサガオちゃん。騎士団長の盾に落書きするのはやめなさい。