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悪夢の予兆



「色々と聞きたい。まずは俺に登録させようとした意図は?」

「ごしゅはボクのたったひとりだけのてきごーしゃです。とーろくしないとごしゅがシステムをせーぎょできないです」

「それは急いで制御しないと問題があるからってことだよな?」

「いまはもんだいないです」

「無いんかい。いや、急がなくていいならよかった。登録が遅れた場合の問題点は?」

「とびらにたいおーできないです」

「扉?」

「えーちできろくをみてほしーです」



 アサガオちゃんが先生に魔力を通すと、画質の荒い記録映像が流れだした。


 突如として見知らぬ町の上空に大きな亀裂が入り、そこからこぼれ出すように真っ黒な異形の怪物たちが這い出してくる異質な光景。途切れることなく現れる怪物たちは、町をあっさりと飲み込んで破壊していく。それも、死の谷クラスの風格を持つ怪物がウジャウジャとしてやがる……。



「この亀裂が扉か。先生には詳細を出してもらいたい」

「ムリです。とびらのしりょーはマザーがふういんしたです」

「ほう、なるほどな。この扉を開いたのはマザーってことか」

「ちがうです。とびらはべつのたいりくでつくられたです。さいてーのムシケラがじこでぼーそーさせてこーなったです」

「えぇ……」



 海外の何者かが扉のシステムを暴走させたらしい。その尻拭いをアサガオちゃんがやっていると。



「この黒い怪物共は?死の谷クラスが山ほどいるみたいだが」

「じこでおせんされたムシケラどもです」

「元は人間なの!?」

「どーぶつもたくさんいるとおもうです」

「事故で発生したパンデミックが生物を突然変異させたのか。システムが暴走して空間の亀裂が――空間……?別の大陸で事故……これ、空間と空間を繋げたワームホールなのか」

「ごしゅ。スキ」

「お、おう」



 合ってたってさ。やったぜ。いやいやいや……ちょっと待とう。な?



「アサガオちゃん。これ、人類にどうこうできるとは思えない。見てみ?亀裂から延々と化け物が出てくる」

「これはまだちいさいとびらです」

「……これが小さいってマジで言ってる?」

「そしていつか、さいごのときがくるです。げんかいをむかえたとびらはあけっぱなしになるです」

「最後ってまさか――」

「あい」

「なんてこったい」



 悲報、ラストバトルは怪物が無限に襲ってくる模様。確実に無理ゲーです。本当にありがとうございました……と、言わせたいんでしょう?んあぁおっしゃらないで。わかっていますとも。


 今、これは過去の映像だと抜かしたが、それには大きな矛盾が生じている。過去にこんな大災害が起きたのなら、どうして今も人類は滅びてないんだ?ん?おかしいじゃあないか。そこんとこどうなんだ?ん?




「確かに地獄だ。なら、どうして人類は滅びてないんだ?過去に起きたこの災厄をどうやって退けた?」

「しりぞけてないです。コロニーはほろびて、あのかいぶつたちはすーじつでしぜんしょうめつしたです」

「数日で自然消滅する怪物だぁ?随分と都合のよろしいお話でござんすなぁ?」

「このたいりくはボクらがエーテルおせんからふせいでるです。おせんされてないかんきょうでは、かいぶつはながいきできないです」

「おうふ、左様ですか……。つまりだ、扉が開いても最悪の場合は逃げて放置することはできる。が、数日間は元気なので、その期間は戦うか逃げ続けるしか生き延びる方法はなかったと」

「あい。だから、ごしゅだけがボクのきぼーです」

「……ぇ」



 別にやるとは言ってないが?



「せ、せっかくだから金色ドラゴンにも頑張ってもらおうぜ。あいつなら半分は倒してくれるぞ」

「ドラゴンはどうにもできないです。マザーもあきらめたです」

「その方法もこれから一緒に考えればいい。できることは全部やらないと後悔するから」

「あい!がんばるです」



 ようやく話の終着点が見えたわけだが、単純に戦力差がありすぎる。この大陸VS海外の生物ってことだろ?さすがの金色ドラゴンでも無理だな。


 そして俺の場合はクロード君の能力が頭打ちなのが痛すぎる。今でも最高峰の強さなのは間違いないが、この一か月間で成長した実感がゼロだ。


 経験値によるレベルアップがない。技能を強化できるわけでもない。魔力が増えた感覚もなければ、店売りの装備品は素手以下の耐久力ときてる。強くなるための導線が全く見えてこないのが現状だった。


 そうなると与えられた能力で切り抜けることになるが、それには戦略的な観点だったり、技能を最大限に有効活用できる発想や応用力が求められる。そう、偉大なるアウストラロピテクスの頭脳が、大団円のエンディングへと導くきっかけを生み出す――わけがない。無理っす。


 戦略や戦術を求められるゲームは苦手だ。貧弱な戦力で高難易度のステージを攻略しました~みたいな動画を見るたびにスゲェって言うだけのモンキーなんだもの。かろうじて得意なのはアクション系だけでござる。



「でもボク、すごくふあんです」

「だろうな。あんな映像見せられたらそうなるよ」

「ごしゅはこわくないです?」



 怖くないよ。ログアウトするから。



「そういえば、アサガオちゃんは他の適合者(プレイヤー)を知らなかったな」

「あい。ごしゅはしってるです?」

「そりゃあ知ってるよ。適合者(プレイヤー)の中には廃人と呼ばれる規格外がいてな?俺と同じ条件であっても、さして苦戦もせずに金色ドラゴンを倒してしまうような怪物もいるはずだ。昔、対戦で何度も戦ったりしたんだが、ほとんど勝つことはできなかったよ」

「ごしゅが、まけた!?」

「この世界にも必ずいる。噂は聞こえてこないけど、今は世界を楽しんでいるからだろう」

「……ボクのてきごーしゃはごしゅだけです」

「まぁ上には上がいるってこと。有事になればその廃人たちも集まってくるだろうから、俺の出番は少ないかもしれんな」

「そんなことないです!」



 必死に俺を持ち上げてくれるアサガオちゃんがかわいい。

 どの分野にもいるが、廃人には勝てる気がしない。彼らは人生を捨て、ただ一つを極めているのだから。


 だからと言ってなにもしないわけにもいかんな。管理者登録の流れはメインストーリーの一部だろうし、ドラゴンを倒す必要はないとわかっている。いくらでもやりようはあるはずだ。



「とりあえず、帰ったら岩塩ステーキでも食ってのんびりしないか?さすがにちょっと疲れた」

「ゴズ。いままでありがとです」

「ブモッ!?」

「ゴズは面白い奴だ。食うのは親戚の後にしてやる」

「ブモォッ!?」



 ゴズ怒りの疾走により休憩を取ることなくサウスポイントへ帰国する羽目になった。腰が痛い……。






 サウスポイントに到着し、前と同じ宿へ入って休息がてらログアウトすることにした。


 今回のプレイは色々とあったが、パッケージの方はどうなっているのだろうか……正直に言うと見るのが怖い。だが目を背けるわけにもいかない。さぁ俺の進退はどうなる?



「……また変わってやがる」



 やはりか。しかも今度はカサンドラと見知らぬ黒髪の美少女がセンターを陣取って頬を赤らめている。

 とにかく大急ぎでスマホを取り出し、前の画像が残されているのを確認した瞬間ガッツポーズしてしまった。本当に嬉しい。俺は正常だっ。



「で、この娘誰?」



 問題は見知らぬ少女だ。よく見ると、下の方に軽い人物紹介があったので確認してみる。



 “クライスはあなたのニッチなニーズにお応えします。”



 余計なお世話だバカ野郎。人の性癖を歪めようだなんてふざけたマネを……。

 こいつらはどれだけ罪深いことをしているのかまるでわかってない。クライス君に女装なんてさせたら、純朴な少年の性癖がアルマゲドンだろうが。


 人生の迷子になった少年たちはどうなると思う?なぜか岡山の県北に移住者が増えたらどう責任を取るつもりだ?こんな腐った企業は許せねぇ……裁判所からの通知を震えて待つがいいさ。俺はなにもしないが。



「む」



 今まではかすりもしなかった検索ワードに反応があった。いや、関連項目がやたらと増えている?あ、さては動画でも投稿されたかと思い、探してみたが見つからなかった。


 その代わりに見つかったのは、ファンアートが集まるイラストの投稿サイトだ。ワクワクしながら流し見ていると、様子がおかしいことに気づいて嫌な汗が流れる。


 一番多いのがクロード君とカサンドラの絡みだ。それは問題ない。が、次にクライス君とのセットが多く、その全てが十八禁という潔さに業の深さを思い知らされる結果となった。


 ちなみに三番目はカサンドラとクライス君のセットだが……大半が血塗れで殺しあっていたり、中にいるわけないでしょ?と言いながらクライス君を包丁で殺害するカサンドラのイラストばかりで頭が痛い。


 ファンアートが心から怖くなった俺は閲覧をやめた。まだ見ぬイラストたちから目を背けたのだ。



※誤字修正を適用させていただきました。報告感謝いたします。

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