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汚ねぇ花火



 隻眼(せきがん)ガチムチおじさんこと、バルト将軍に協力を申し出た俺は、一足先に走って襲撃地点へと向かうことにした。ちなみにゴズは置いてきた。ハッキリ言ってこれからの戦いにはついていけない。



「あっちです」

「了解」



 やはりというか、死の谷を生きる魔獣は格が違うらしい。文明に復帰したおかげでようやく世界の基準が見えてきた。


 あの巨大ジョロウグモは災害級にカテゴライズされる化け物で、精鋭を揃えた軍隊で対処するのが常識だった。それこそ、有事の際には狩人組合に登録した者や、緊急事態なら徴兵されることもあるのだとか。そこは現実も似たようなもんか。



「ごしゅ。いっぴきはぐれたです」

「それはちょっとマズイな……」

「にひきからヤるです?」

「そうするしかない。状況によっては火を使えない可能性もあるし、面倒だな……」



 巨大ジョロウグモへの対策は火を使うのが楽だった。竜巻を作ってから大火球をぶち込めば大概は瀕死まで追い込める。あとは殴る蹴るの暴行を加えて終わりなんだが、今回は帝国兵の救援が名目なので巻き込むわけにはいかない。そうなれば苦戦は必至、俺が始末を終える頃には相当な被害が出るかもしれない。



「ごかいてーいくです」

「いかないです。俺が討伐対象になっちゃうって言ってるだろうが」

「みたニンゲンがいなくなればだいじょぶです」

「コイツの担当者出てこいよ。早くなんとかしろ」



 人格設定した奴はなに考えてコイツを作ったんだ?クロード君より歪んでるじゃねーか。



「あれです」

「……間に合わなかったか」



 最速で走ってきた自負はある。が、間に合わなかったらしい。散乱する帝国式の武器や防具に、捕食されなかった手足などが地獄のような光景を生み出していた。彼らは死に物狂いで戦ったのだろうが、力の差はこうした理不尽を平然と作り出してしまう。



「ごしゅ、いきてるのがいるです」

「どこだ?」



 巨大ジョロウグモの糸に手足を絡めとられ、捕食寸前の若い少年が一人だけ生き残っていた。


 名前も知らない他人なのに、目の前で殺されそうになると焦りを感じてしまう。俺はそんな優しい性格じゃないし、所詮はゲームだ。冷静にいこう。


 身体強化を一段階上へ。最高速のまま繰り出したトラースキックを手前のジョロウグモに叩きこむ。血を吐いて吹き飛びはしたが、致命傷には程遠い。二匹目が動く前に少年を避難させなくては……。



「あ、グ……」

「喋らなくていい。どうだアサガオちゃん」

「けいしょーです」

「よし。すぐに避難させて――」

「アレをほーちするです?」

「放置した場合の被害はどうなると思う?」

「しぜんとーたです」

「だよな……」



 しゃーない。本当に余裕はないんだが、青年に障壁を張って二匹を片付ける。まぁ死にはせん。なんとかなるさ。問題ははぐれた一匹がどうにもならないことだ。そこはもうバルト将軍を信じるしかないだろう。


 戦場は禁域の森手前に広がる見通しの良い平原。本来なら手っ取り早く焼き払うところだが、兵士たちの残骸まで巻き込むのはなぁ。ちょっとだけ工夫するか。


 右手の甲に突風の術式を。左手には大火球の術式を描き、両方とも発動待機状態を維持しておく。集中が乱れた瞬間に暴発して自滅するリスキーな手段だが、ドラゴン戦で既にやったことがあるので問題はない。当然のように効果はなかったけど。


 なにかを伝えようとする少年を木陰に置いて即反転、急加速から接近戦に持ち込む。




「ギュイッ!」



 この世界のクモは糸を吐くときに変な音を出す。進行方向に大きく広がった糸が俺の全身を包もうとするが関係ない、突貫する。俺は一人じゃないんでな。



「ごしゅ」

「でかした」



 アサガオちゃんが放った巨大な風の刃が進路を開いてくれた。クモたちは糸のベールをあっさり突破した俺に戸惑い、動きが鈍らせたのは運がよかった。で、ここだ。


 真下に潜って右手の術式を発動。突風をまとわせた拳を振り抜いて空へとかちあげる。地上から離れてくれればこちらのもの、無防備なクモに左手の大火球を即座に発動してやった。上空で耳をつんざく爆発音が平原に響き渡り、熱風が衝撃波を伴って広範囲に広がっていく。


 アサガオちゃんいわく、俺の大火球は四階梯でも最上位の規模だと言っていた。だが、魔力の練り込みや圧縮率がイマイチ足りてない気がするんだよな。やはり練習が足りていない。



「もう一匹は?」

「にげたです」

「あの巨大ジョロウグモが逃げた?いや。さすがにウソだろ……」

「すっごいにげてるです」

「えぇ……まぁ、戻ってこないならそれでもいいが。なんで逃げ出したんだ?」

「きんいきのそとは、えーてるのーどがひくいから、あいつらよわくなるです」

「魔力濃度?そんな理由があったのか」



 なるほど、だからあいつら死の谷から出てこないのか。それならそれでよし。一匹は逃したが、撃退はできたんだから文句はないはず。


 しかしなんだ……さっさとキャラメイクがしたくて事を進めた結果が今の現状なのだが、なんかゲームをエンジョイしてない気がする。もっと作り込まれた世界観を楽しむとか、町を観光がてら練り歩くべきだろう。このイベントが片付いたら、サウスポイントに帰ってゆっくりしよう。そうしよう。



「ごしゅ、ムシケラがどんどんへってくです。このちょうしでゆるりとするです」

「マズイな……彼を抱えて現場に向かうぞ」

「げんばはあっちです」

「アサガオちゃんは人間嫌いだけど、こういうときは必死に助けてくれて嬉しいよ」

「……そんなことないです」

「いつもありがとな」

「はやくいくです!」



 そっぽを向いたアサガオちゃんがかわいい。


 もう一匹に探知を向けてみれば、想像していたよりも被害が少なかった。

 生き残りの少年を肩に担ぎ、全速力で現場へと走ったのだが。いざ到着してみればクモは既に瀕死の状態だった。バルトやボスニアもケガはしているものの、間違いなく彼らだけでも勝利は確実だった。


 だがケガ人を増やす必要はない。こちらでサポートさせてもらおう。

 少年を抱えたまま、即座にカマイタチの術式を一つ二つと描いてから発動。被害が出ないように上空に設置し、打ち下ろすようにクモの足を切断することに成功した。


 身が震えるような兵士たちの咆哮。バルトとボスニアを筆頭に、最前線の精鋭たちが一斉攻撃を仕掛けてクモを切り刻んだ。経験から培った機を逃さない嗅覚と乱れない連携。日々の鍛錬がこうして彼らの背中を押しているのだ。


 俺がクロード君ではなく、村人からゲームを始めていたら彼らに勝てるビジョンが浮かばない。つくづく技能と基本性能だよりのプレイングだが、俺にこの体をよこした奴が悪いんだ。俺は悪くねぇ。


 世界が変わろうとも、常日頃から真面目に努力している奴はやっぱり凄いな……。



「小僧!無事だったか!」

「この人だけでも救えたのは幸運でしたよ」

「おお……よくぞ生き残ってくれたクライス!心から、心から感謝する!」



 まるで家族が帰ってきたような大騒ぎだった。クライス君は泣きながら謝罪するが、それを責める者は誰もいない。そうだ、こういうのでいいんだよ。



「クロードさん。本当にありがとう!」

「ボスニア殿も無事でなによりだ」

「ハハハハ、ほんとにね。さすがに今回は死んだと思ったけど、悪運は強いみたいだ」



 その日、南方砦は朝まで勝利を祝う宴が続いた。



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