第155話 栗毛聖女、水中を泳ぐ。
水上からのマヤさんによる大規模魔法により水中にいたモンスターの大半はHPを削られ、水面からマヤさん目掛け飛びかかってきたところを私たちの手でどんどん倒していきました。
「―――正拳突きッ! ふぅ。落ち着いたしこれで大体は終わりかな?」
「さすがマヤさんですね。火力が凄まじいです」
「リョウさん、もっとも~っと褒めてくれてもいいっすよ! なんたってあーしは〝魚キラー〟の称号と共に対魚特化パッシブスキルを手に入れたっすからね!」
飛び出してくるモンスターの魚はHPを7割程度は削られており、畔で釣りを始める前とは見違える火力でダメージを叩き出しているようでした。
「ラピスちゃん、あれは絶対にスキルポントけっこう振ってるよねー」
「そうだね。スキルレベル上げずに熟練度だけでああはならないと思う」
「ねえねえ! マヤさんって魚に何か恨みでもあるの!? 私たち知らないよ!」
「うむ。じゃが、今はそんなことよりも先へと進むべきじゃろうな。―――あの調子じゃ武勇伝のように長くなりそうじゃ」
その無双っぷりは大魔法とはいえ明らかにダンジョンのモンスターに出ていいダメージじゃなかったのです。私たちはマヤさんがそれはもう湖で襲われたあの時の復讐とばかりに魚を根絶やしにしようと躍起になっているように思えました。
「どれ、では当初の予定通りわっちが先陣を切るとさせてもらうのじゃ」
「まあ、ミコさんを待ってたからねー。誰も文句ないよー」
「うん。それじゃ、ミコさんお願い」
「うむ。―――いざっ!」
ミコさんは茶色の落ち着いたキャンパー装備で水中の通路へと飛び込むと、動きを確認するように武器の槍を装備したり色々と試しているようでした。その状況をしばらく見守っていると、顔だけミコさんが出しました。
「ふむ。確かに動きは水の抵抗でゆっくりになっておるようじゃ。逆に言えば抵抗に負けない力でVR操作を行えば問題ないのぅ。コントローラーを使ってじゃと強制的にスローにされるようじゃぞ」
「えっと、ミコさん……何してんの? もう水中戦の攻略法を確立したレベルじゃん」
「アユよ、妖仙世界で最強の対人プレイヤーだったわっちじゃぞ? VR操作においてそれくらいの分析は朝飯前じゃ」
簡単に言ってくれますがそれは普通じゃないです。様々な戦い方を模索し、VR操作における反発力やコマンド受付時間などをもはや感覚で行っているミコさんだからできる芸当に思いました。
「じゃが魔法はどのような影響があるかはわからぬ。わっちは使えんからのぅ」
「私は結構ヤバいかな? 一応は聖属性付与してみる気だけど水中だと水が同化しそうかも。そこはやりながら考えるよ」
「あーしはこのままいくっす! 見てるっすよー、魚ども!」
「ワシは防御力が落ちても水着に変えるとしますぞ。老体故、まともに動けそうにないでござるからな」
防御力の高いジャンパー装備で戦いながら問題がなければ装備変更を考えようとしていましたが、ミコさんのおかげでそれぞれが自分の操作技術に合った装備へと変更していきます。私は武道家として戦うのと、内部ステータスの影響を知りたいのでジャンパー装備のまま潜ってみることにしました。
「それじゃ、みんないくよー!」
「おーっ!」
「私とコータも先行します。ラピスちゃんは中衛でお願いします」
「楽しみだね! それじゃごー! ごー!」
私の合図で全員が水中通路へと飛び込んでいきます。ミコさんの言ったことをみんな確認しながら水中操作をある程度試し、さきほどの扉の前まで泳いできました。
「それにしてもラピスちゃん、泳ぐの上手だね! 去年からの特訓の成果かな?!」
「ありがとう、プリアちゃん。そうだと嬉しいな」
「いや、ちょっとまって。道中の戦闘やってないとか水中戦がどんなものかわかんないんだけど!?」
「アユちゃん、そこはたぶんマヤさんが……」
「ですわね。望み通りこの付近を根絶やしにできて嬉しそうですわ」
当初の目的はどこへやら。もうとりあえず自分が動きやすい装備で湖の主と戦うことになりそうでした。代わりに邪魔が入らないのでしっかり調べたところ、生えている草から水泡を集めることで空気袋の酸素ゲージが回復するようでした。
「じゃあ、準備とかも特にないしそのまま主戦に突入しようか。アユちゃんとマヤさんは魔法が効かないようなら補助に回って。必要なら私が預かってるミコさんの〝次元の巾着袋〟も貸すから言ってね」
「りょーかいっす! さぁ、ようやくご対面っすよ!」
「私はいいよ。最初に覚えたスキルが色々あるからマヤさんに貸してあげて」
「アユちゃんがそういうなら、魔法の威力とか見てダメそうならマヤさんに渡してアイテムでの支援に回ってもらうね」
さて、準備もできたとこでミコさんを先頭にミナツちゃん、コータが進み、その少し後ろにリョウさん、ヤスナガさん、プリアちゃん、私と続きます。中も水は澄んでおり、広い湖のかなり先まで見渡せるような状況で奥の方に黒い巨体の何かがいるのがわかりました。
「あれが主かな? ここから見る限りけっこう大きいね」
「ぬん。鹿のヌンヌンくらいは大きい気がするね~。みんなで〝鹿の角〟でも装備して戦ってみない?」
「イベントでもないボス戦で舐めプはやられる可能性が上がるからやめてね?」
アユちゃんが少しふざけますが、最後に入ってきた後衛組のアユちゃん、マヤさん、マリアさんも主をみてどう戦うかそれぞれ考えているようでした。
「とりあえず近づこうか。大きいこと以外はここからじゃわからないし」
「そうだね! 魚かな?! けどあの大きさだとクジラとかもしれないね!」
「プリア殿も楽しそうでござるな! もしや龍などのファンタジーの生物やもしれませんぞ!」
「どうかな。ナミノの水龍神社でラピスたちも水龍ってのを見たと思うけどなんか違くない?」
その魚影のようなものに想像を膨らませてあれこれと語りながら近づいていきます。そこにいたのは巨大なウミヘビ……いえ、太さ的にウツボのようなモンスターでした。




