風雲急を告げた
航海も順調に進み、現在、リコルス国近くの海上に戻って来てしまいました。
「あるぇ? おかしいな……」
ぐっすり寝ている間に潮の流れで戻って来てしまったと思われますが今更後悔しても遅いですね。航海だけに。
「フッ」
アルリナは朝風呂に浸かっているので聞かせる相手が居なく、少し残念です。
「まぁいいや。ゲートオープン! 海放!」
昨日進んでいたはずの距離までゲートで転移して、見張りを置かなかった私のミスを無かった事にします。
ゲートをくぐり抜けるとそこは360度見渡す限りの大海原。
先程見えていた陸が夢、幻が如く綺麗さっぱり消え去っております。
「これで良し」
アルリナは気持ち良く入浴中なので完全犯罪成立ですね。
と、そんな事を考えているとアルリナがお風呂から戻って来ました。
「ふぅ、さっぱりした」
「随分と長風呂でしたね……野暮な事は聞かないでおきます」
「野暮?」
「え、何この子、純粋に長風呂を楽しんでいただけだとでも言うの……?」
「また変な事言ってる……。はいはい、朝ごはんにしましょうね」
この様子だと本当に長風呂を楽しんでいたようですね。変な想像をした私の方が恥ずかしいまである?
それにしてもアルリナは日に日にスルー力が高まっているのでロトルルは寂しいです。
朝ごはんは昨日釣れた魚を焼いたものとサラダとフルーツの盛り合わせです。
ハイポーションがあれば壊血病に罹っても一発で治せるのであまり気にしなくても大丈夫ですが、ならないに越した事は無いのでフルーツは毎日食べようと思っています。普通に食べても美味しいですしね。
「ねぇ、ロトルル……あの雲、変じゃない?」
朝食を食べ終え甲板で日光浴をしていると、アルリナが変な雲を発見したと言うので指をさした方向へ視線を向けると、どす黒く濁った暗雲がじわじわと広がって来るのが見えました。
「前世を含めてあんなヤバそうな雲は見た事が無いので、雲の上に行って回避したいと思います。このまま外に居ると吹き飛んでしまうので操舵室へ行きましょう」
「りょ、了解!」
アルリナが操舵室に入った事をしっかりと確認してから、私は転覆回避用に取り付けたレバーを操作して雲よりも高く船を浮かび上がらせました。
「これで一安心ですね」
「ほんとかなぁ……?」
「変なフラグが立つのでそういう言い方はやめてくださいね」
「変なフラグって?」
「例えば敵を倒した際に「やったか!?」などと言うと倒したはずの敵が謎の復活をしたり、変なものを見た時に「気のせいか?」などと言うと大抵死にますので気を付けてください」
他にも「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」とか「俺の事はいいから先に行け」とか「消えろ、俺にぶっ飛ばされんうちにな」などなど数多くのフラグセリフがありますが、アルリナは言いそうに無いので割愛します。あえて言わせてみたい気持ちはありますけどね。
「よく分からないけど、気をつけるね?」
「それと追加情報ですが「フラグの話をする」もフラグになってしまうようです」
「どう言う事?」
「つまり船の操縦がきかなくなりました。ついでに落ちてます。飛行スキルは発動中なのでそれ以上の力で下に引っ張られています。あぁ、回転も加わって来ましたね……ダウンフォース……じゃなくてダウンバーストか、いや、これは竜巻……下に吸い込まれる竜巻……舞い上がるのでは無く舞い下がる……異世界気象現象ですか……なるほど……」
「ロトルル!!」
アルリナの叫び声で我に帰りました。
現実離れした状況を冷静に分析しようとして現実逃避していたようです。
こういう緊急事態に遭遇した場合は、何よりもまず最初に逃げることが一番大事です。
「ゲートは、ダメか……船は捨てます! 転移するので捕まってください!」
「うん!」
船ごとゲートで転移しようと思いましたが船の動きが複雑で狙いが定まりません。
船自体は頑丈なので海に落ちても平気ですが、落ちた衝撃で中身はグチャグチャになってしまうでしょう。
アルリナを抱き締めて転移しようと思った瞬間、虫達が頭をよぎって虫カゴを置いていた船内の寝室に転移してしまいました。
「何してるの!?」
「ごめんなさい。虫達が気になって集中が乱れました」
「もう!」
虫カゴを布袋に纏めて、ついでに寝室に置いていた豪華戦艦ミニチュアと旅行鞄をストレージに仕舞い、今度こそ安全な場所に転移します。
「あ、お金!!」
「アルリナさん……」
私が虫を気にした手前、お金を気にするアルリナをたしなめる事は出来ません。
船が落ちるまでまだ余裕はあるので宝物庫に転移し、金塊や金貨、宝石をざっとストレージに仕舞い、今度こそ転移です。
「あ、洋服お風呂場に置きっぱなしだ!」
「服は諦めてください!」
「そ、そうだね! あはは」
もう余裕が無いのでつべこべ言わずに安全な場所へ転移です! 転移ったら転移!
「行きますよ!」
「うん!」
流石の私でも余裕が無さ過ぎたのか、転移先をイメージする暇も無く、私にとって一番安心出来て、一番安全な場所へと転移してしまいました。




