食べ過ぎた
宿屋へ戻って部屋に置いてある荷物をストレージに仕舞い、アルリナは旅行鞄を、私は虫カゴを収縮する布袋に包んで持ち、宿屋を出ました。
「本当に行くんだね……」
「心地良い風の吹く晴天ですから、出航するには良い日だと思いますよ?」
「ロトルルが居れば怖くないのは分かってるんだけどね……」
「……未知は怖いものですが既知にしてしまえばこんなものかと笑えるものですよ。と言えるのは私がなんでも出来てしまうからなんでしょうね」
「また変な迷言を言おうとしてる?」
「アルリナに邪魔されたのでオチだけ言います。後悔するより航海しよう!」
「……不安だなぁ」
先程のプライベートビーチに戻り、ルルリナ号の進水式を執り行います。
進水式という単語を知っているだけで何をするかは全く分かりませんが、とりあえずお酒を掛けておけば問題無いはずです。どのような儀式でも大抵はお酒を掛けていますからね。
ストレージから砂とお酒にしやすそうなブドウを取り出して、錬金スキルで砂から酒瓶を作り、その中にブドウを入れて液化。鑑定スキルでアルコール度数を確認しながら調合スキルでアルコール度数を適当に15%ほど上げて赤ワインの完成です。鑑定スキルで赤ワインって表示されていますから間違いありません。
「さて、ルルリナ号を海に浮かべますか」
ストレージから海に向かってルルリナ号を解放すると大きな水飛沫を上げて海に浮かびました。
「あとは……投げる? おりゃっ!」
唐突に電波を受信し、持っていた赤ワインを酒瓶ごと船に投げ付けて割りました。
「な、何してるのロトルル!?」
「いえ、変な電波を受信しまして、進水式はこうするのが作法らしいですね」
「えぇ……絶対違うと思うよ……」
「私もそう思いますが、スキルや魔法を使う時も感覚に従って行動した方が使いやすいので、それほど間違ってはいないんじゃないでしょうか?」
「そう、なのかな……?」
それに船首像の女神様の表情もどことなく笑っているような気がします。
怖がって乗ってくれなくなると困るのでアルリナには言いませんけど。
進水式は無事に終わったので早速船に乗り込みましょう。
「あぁ……良いです。ファンタジー感じます」
「変なロトルル……」
「アルリナも何か感じません?」
「えー、うーん。立派な船だとは思うけど、男の子って感じがして……あっ」
「……私は女の子ですよ?」
「そうだね。ロトルルは女の子だよね。うんうん」
何ですか? その不味いっていう顔は。
前世が男ってだけで、今世はちゃんとした女の子ですよ? アイドルなんです。
こんなに可愛いアイドルが作った船を男が作った無骨でダサい船だなんて、よくそんな酷い事言えますね?
これはお仕置きが必要かな? かな?
「あー! 今、大きな魚が跳ねたよ! 釣りするんだよね! 楽しみだなー!」
「……ちょっと我慢出来ませんでした。アルリナのお尻を揉むで手を打ちませんか?」
「……それで気が済むならどうぞ」
「では失礼」
「んひっ!? あはははっ! 揉むんじゃ無かったの!? いひひひっ!」
「私は女の子。私は女の子。私は女の子!!」
「あーん! ごめんロトルルー!」
全身くすぐりの刑を執行しました。慈悲は無い。
その後は船の内装を一通り見回して、アルリナのために作った財宝倉庫に案内するやいなや、アルリナが奇声を発すると服を脱いで金塊の海を泳ぎ出し、終いには謎の踊りを披露してくれました。
「ゲヘヘヘ!! どうロトルル!? 楽しんでる!?」
「あ、はい。素敵な踊りですね」
現在進行形で黒歴史を量産して行くアルリナさん。
こんなに狂ってしまうとは思ってもいませんでしたが、アルリナ自身はすごく良い笑顔で踊っているので途中で止めるのも悪いですし、最後まで付き合ってあげましょう。こんなんでも一応は私の大切な姉ですしおすし。
記憶を消すなんてそんな勿体無い事しませんよ?
記憶保存魔法で完璧に覚えておいて、アルリナの記憶が風化し始めた頃に記憶投影魔法でも作って鑑賞会を開いてあげましょう。
アルリナが平静を取り戻すと、顔から火が出るのかというぐらいに真っ赤にして、その場で蹲ってしまいました。
「うぅ……見ないで……一人にして……」
「先程のアルリナも可愛かったですけど、今のアルリナもすごく可愛いですよ」
「あんなの全然可愛くないよ……なんであんな事しちゃったんだろ……」
「うーん、分かりました。ここにある金塊全部アルリナにあげます。それで元気出してください」
「……ほんと?」
「本当にホントです。ロトルル嘘つかない」
時もありますが、嘘をつく時も場合によってはあります。自己保身が基本なので。
もちろんアルリナは半身以上の存在になっているので四肢がもげようが首が取れようが何としてでも守りますけどね。
「……えへへ、ならいっか」
現金なアルリナさんは強欲可愛いですね。チュッチュッしておきましょう。
アルリナの機嫌もすこぶる良くなった所で大航海時代の幕開けと行きましょうか。
「野郎ども、出港だ!」
「それじゃ海賊みたいだよ!」
「えー、じゃあ、お嬢様! 出港しますわよ!」
「あー、うん。出港!」
前部甲板上の操舵輪を時計回りに一回転させるとスクリューが動き出して船が前進し始めました。
スクリューを動かす魔導エンジンにはたんまりと魔力を注いだので、このまま10年は走り続けられる事でしょう。
「おー、ちゃんと動いた」
「えぇ……ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったらすぐ陸に戻りますから安心してください」
「その発言でまったく安心出来無いよ……」
「へーきへーき、全速前進だ!」
全開にしてある帆も追い風で膨らみ、更なる加速を後押ししてくれています。
「よーほー、よーほー、あしたのーてんきはー、はーれー」
「変な歌だね」
「よーほー、よーほー、あるりなーのけつはー、でかくなるー」
「怒るよ!」
海岸から離れて、陸地が見えなくなった所で速度を緩めます。
「あれ、故障でもした?」
「釣りですよ。釣り」
「なるほど」
せっかく海に出て来たのですから海釣りしない手は無いでしょう。
という事でストレージからエアロアダマンタイトを取り出して、海釣り用の竿とリール、浮に錘に糸に針と作って行きます。あぁ、錘はアダマンタイトで作りますよ。エアロアダマンタイトで作ると浮いてしまうので。
「餌はどうするの?」
「コオロギの胴体を使います」
「うえ」
コオロギの入った虫カゴから一匹取り出し、麻痺魔法と睡眠魔法を掛けて首を取り、取った首にメガポーションを掛けて再生させ、また取るを数十回繰り返して釣り餌を量産していきました。
「……そういうのもあまり人に見せない方が良いよ?」
「一般常識はありますので、これがいかに狂った行為かは分かっているつもりです」
「ならいいけど……もしかして人にもした事ある?」
「……小指なら」
「ひっ……」
「アルリナにもお願いする時が来るかもしれませんので覚悟しておいてくださいね」
「冗談、だよね?」
「なんなら実演してみましょうか?」
「結構です!!」
量産したコオロギの胴体を釣り針に刺して、海へ垂らしました。
「アルリナ、出来ましたか?」
「大丈夫だよ。わっ!? もう来た!」
「釣り針が魚の口に刺さる様に上に思いっきり引っ張ってください。あとはリールを巻くだけです。魚の口が千切れない限り糸が切れたり竿が折れたりはしないはずなので」
合成スキルで全てくっ付いているので糸が解けたりもありませんし、ほとんどチートアイテムです。
「結構大きいみたい! うー、重いぃ!」
「がんばれ! がんばれ!」
「もう、ちょっと……うりゃあ!!」
アルリナが勢い良く竿を引き上げると、巨大カニが釣り上がりました。
「カニだ!」
「うえ、ウミクモか……」
「え?」
「カニ?」
あー、こっちの世界だと蜘蛛として認識されているんですね……。
いや、本当に蜘蛛なのかもしれませんので鑑定スキルで調べてみましょう。
「オオエンコウタタアシタラバウニ……カニですらないんかい!」
「なになに?」
「クモでもカニでも無くウニらしいですよ」
「えー、ウニって黒い棘が沢山付いてる魚でしょ? これはどう見てもクモだよ」
ウニの認識も微妙に違うようですね。ウニが魚……ハリセンボンみたいな感じでしょうか?
「毒とかは無いみたいですし、食べてみますか」
「わたしは遠慮しておくね……」
「そうですか。まぁ、無理して食べる事も無いですし、私だけで美味しく頂きますね。っと、こっちも来ました!」
持っていた竿がグイッと下がると同時に上に引っ張り針を食い込ませます。
「おもっ! ぐおぉ……、ちょっ、重たすぎ……!」
釣竿ごと体が持って行かれそうでヤバイです。
「パラライズ!」
麻痺魔法パラライズを釣竿に這わせて獲物を麻痺させました。
あのまま力勝負しても釣竿を持って行かれていたと思うので仕方ありません。
ちょっとだけ敗北感を感じます。
動きの止まった獲物をなんとか引き上げると、特大のカニが釣り上がりました。
「またクモだね」
「オオコウバコベニズワイエビ……エビじゃん」
見た目はどう見てもカニなのにエビです。まぁ、このさい美味しければなんでも良いですけどね。
「この子も毒とか無いようなので、食べます?」
「食べません」
こんなに大きいと一人で食べるには大変そうですが、余ったらストレージに保存して後日食べましょう。
私的には巨大カニ2匹で大満足ですが、普通の魚が食べたいとアルリナはまだ釣りを続けると言うので、私は巨大カニが入る鉄の寸胴鍋を作ってここでカニを茹で上げたいと思います。
ストレージから鉄を取り出し、錬金スキルで特大寸胴鍋を作成。
水魔法で鍋に水を入れ、ファイアボールを水に沈めて沸騰させ、オオエンコウタタアシタラバウニを茹でている間に、もう一つ特大寸胴鍋を作成し、水を入れ、ファイアボールで沸かしてオオコウバコベニズワイエビを茹でます。
カニが焦げないようにファイアボールの大きさは調節しています。
「あとは待つだけっと」
「来た! 来たよロトルル! ふぬぬ!」
先程よりは軽そうにリールを巻いているので魚だと良いのですが。
「やー!」
アルリナが竿を強く引き上げると、足付きのナマモノが足をクネクネさせて、人間のような唇をブチュブチュとさせ、直視していると正気度がガリガリと削れていく最高に気持ち悪いものが釣り上がったので、有無を言わさずリリースさせてもらいました。
「見なかった事にしましょう」
「そうだね……」
アルリナはそれでもめげずに釣りを続けるようです。胆力ありますねぇ。
「マグロにカツオにサーモン、アルリナナイスです!」
「えへへ!」
カニが茹で上がるまでにアルリナが3匹釣り上げて、これでまともな食事が出来ると大層喜んでいます。良かったですねアルリナ。
カニの方ですが、茹で汁をストレージに仕舞い(出汁として今後使う予定)水魔法と氷魔法で氷水を張り、茹でたカニをしめます。
「そろそろ良いかな?」
ストレージからエアロアダマンタイトを取り出して巨大カニの置ける大皿を2枚作り、鍋から取り出したカニを置いて、そのまま甲板の上で食べたいと思います。
「いただきます!」
まずはオオエンコウタタアシタラバウニから。
「かった……全然折れませんね……」
こんなに硬いと普通の人では食べるのにも一苦労でしょう。
ですが私はなんでも出来ちゃうロトルルちゃんなので甲羅を液化して身だけに出来ます。
「あむ、もぐもぐ、うまーーーーーい!!」
ウニ! カニ! ウニ!
ウニの風味とカニの旨味のハーモニーが口いっぱいに広がり、最高に美味となっています! 旨すぎる!
「そんなに美味しいの?」
「アルリナも食わず嫌いしないで食べてみてください! 最高に美味しいですよ!」
「そ、そう? じゃあ、試してみようかな?」
錬金スキルで甲羅を液化した脚を一本アルリナに渡しました。
「いただきます。あむ、もぐもぐ、むっ!!」
「どうですかアルリナ? 美味しいでしょう?」
「おいひい……こんなに美味しいんだね……ロトルル、もっと食べて良い?」
「どうぞどうぞ、アルリナが釣ってくれたんですから遠慮せずに沢山食べてください」
「ありがとうロトルル! あむあむ、んー! おいひい!」
「さてと、次はオオコウバコベニズワイエビを頂きますか」
こっちのカニも中々に硬い甲羅をしています。
折れないほどではありませんが脚の一本一本が巨大なのでそれだけで折りづらいですね。私には関係ありませんけど。
甲羅を液化して脚を一本食べてみます。
「あむ、もぐもぐ、おぉ、こっちも美味しい!」
甘エビとカニのハイブリッドな味です。生の方がより美味しかったかもしれませんがこれはこれで美味しいので問題ありません。
「わたしも、わたしも!」
「どうぞどうぞ」
「あーむ、んー!! 美味しい!!」
美味しそうに食事をとる美少女を見ていると心が癒されますね。
そしてそれを見ながら食事をするとより美味しく感じるので、皆さんも食事する時は美少女と一緒にしてみてください。居ればですけど。
あまりの美味しさに2匹ともペロリと食べてしまい、お腹が妊婦さんのように膨らんで苦しいです。
アルリナも同じような感じで、食後30分ほどでトイレに閉じこもりました。
美味しさも過ぎれば毒となる。教訓です。純粋に食べ過ぎなだけですけどね。
私の体はエアロアダマンタイト製なので食べ過ぎ程度は問題無く消化出来ると思いますが胃が膨らんで苦しいのは前と変わりませんね。うぷっ。




