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見て見ぬふりをした

 こ、こんなことが二度もあってたまるか……ッ!!


 わなわなと怒りに震えながら宿屋の店主を問い詰めました。


「誠に申し訳ございませんでした!」

「謝れば済む様な案件なのかな? かな? 楽器ってそんなに安い物なのかな? かな?」

「わ、私の命を懸けてでも必ず探し出しますのでどうかご容赦を!」

「へぇー、店主さんの命ってそんなに価値が高いんですねぇ?」

「全てをッ! この土地も家も家族も全てを懸けて必ずッ! 必ず見つけますのでどうかッ! どうかッ! お慈悲をッ……!」

「はぁ……まぁ、いいでしょう。と言うかほとんど八つ懸けてなので頭を上げてください。悪いのは盗んだ人なので、店主さんは安全対策が甘かったぐらいでそこまで悪く思っていませんよ」

「おぉぉ、何というお慈悲を!」

「次からは盗人が入れないように安全対策してくださいね?」

「ははぁっ! 慈悲深き御身の命じるままにっ!」

「ん? うん、頑張ってね?」


 店主さんの顔付きというか雰囲気が急に変わったような気がしたけど気のせいかな? 勝手に変な魔法とか発動してないよね、私?


 ストレージに仕舞い忘れた私の責任もありますし、盗まれてしまった物はしょうがありませんので気を取り直してゲートへ向かいます。


「リコルス国への通行証お願いします」

「今は行けんぞ。半年か一年後ぐらいにまた来な」

「な……なんだと……!?」


 店員さんに詳しく聞くとリコルス国行きのゲートは不安定で半年か一年の周期で繋がるらしく、前回ゲートが開いていたのが昨日で、「来るのがもう少し早ければ行けたのにな」と慰められました。


「他にリコルス国まで行ける方法ってありませんか?」

「うーん、アリビア国まで行けばリコルス国へ行けるゲートがあるんだが、馬車しか通って無いからなぁ。アリビア国に行くまでに半年は掛かるだろうから大人しく待ってる方がお勧めだな」

「そう、ですか……」


 ゲートを後にし、公園のベンチに腰掛けストレージから世界地図を取り出して現在地からアリビア国までの道のりを確認します。


「大森林、湿地帯、砂漠、火山、峡谷……馬車が通れない所ばかりじゃない」


 大森林で迷ったら死、沼地ではまったら死、砂漠にはまったら死、火山で有毒ガスを吸ったら死、峡谷で足を滑らしたら死。

 モンスターとか盗賊の前に自然に殺されるわ。

 私はともかく御者や護衛、お馬さんを守り切れる自信がありません。


「飛ぶか……うん、それが良い。それしかない!」


 半年や一年もただ待っているなんてつまらないので飛んで行く事に決めました。

 ゼット戦士並みとはいきませんが快速電車並みには飛べるので飛行スキルの成長率も考慮して一週間か、遅くても二週間もあればアリビア国に着けると思います。

 要所要所に転移地点を設置しておけば後で観光するにも便利そうですし、結構良い案じゃないでしょうか?


 世界地図をストレージに仕舞い、アリビア国に向けて早速出発です!


「違うにゃ! ちゃんとお金は持っていたのにゃ! 無銭飲食するつもりなんてこれっぽっちも無かったのにゃ! 信じてくれにゃ!」


 どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえて来ましたが、私はアリビア国に向かう事に夢中で素通りしました。


「あっ! ロトルル! 止まってくれにゃ! ちょっ!? 無視しないでくれにゃ! 助けて欲しいのにゃ! お願いだから止まってくれにゃ!」


 必死に懇願してくるミャーさんに呼び止められてしまったので仕方なく来た道を戻りました。


 まぁ、声が聞こえて来た時点でミャーさんだと気付いていましたけど、ミャーさんの困り顔が見たかったので私の姿が見える様に近くを通ってあえて素通りしたんですけどね。


「おや、私を一人置いて行ったミャーさんじゃないですか? そんなに慌ててどうしたんですか?」

「うっ……その、お金を貸して欲しいのにゃ……このままだと犯罪者になってしまうのにゃ……」


 しゅんっと猫耳が垂れて悲しい顔になったミャーさんの表情、控えめに言って最高にそそりますね。もっといぢめたくなっちゃうじゃないか……ジュルリ。


 いぢめは良いけどイジメはダメだよ? どっちも同じ? 違うんですなぁこれが。


「あんたこいつの知り合いかい? お前さんが金を出してくれるんなら通報するのはやめてあげられるけど、どうする?」

「うーん……お金を出すのはいいんですけどね……でもなぁ……どうしようかなぁ……?」

「な、なんでもする! なんでもするからお金を貸してください! お願いします!!」


 最早なりふり構っていられないのか語尾に「にゃ」すらつけ忘れて懇願してくるミャーさんが愛おし過ぎて、ちょっとどうにかなっちゃいそうです。


 このままミャーさんを……。


「お嬢ちゃん……顔が……」

「何か付いていましたか?」

「い、いや……何でもねぇ……」


 いけないいけない。うっかり危ない妄想をするところでした。リス顔の店員さんに変な顔を見られちゃいましたかね?


「では、こうしましょう。私がミャーさんの食事代を払うのでミャーさんは食事代分の皿洗いをする、という事でどうでしょうか?」

「まぁ、金さえ払ってくれるならうちは構わねぇぜ」

「ありがとうにゃロトルル……それでお願いするのにゃ……」


 なんでもして良い権利でミャーさんを滅茶苦茶にしてやりたい願望を抑えて常識的な対応にしておきました。

 これ以上やってしまうと私の中の獣が暴れ出しそうでヤバイです。


「ミャーさんの仕事を増やす為に私もここで食事をする事にしますね」

「うぅ、ロトルルぅ……」

「変わった知り合いだな……」


 リスさんの料理屋はナッツ系の料理が多く、やっぱり見た目通りのそういう感じの料理か、と思いながらも注文してみると結構美味しかったので小皿系の料理を大量に注文してストレージに流し込みました。


「ふぅ、ご馳走様でした」

「こんなに食う客は初めてだぜ! お前さんの食べっぷりに感動したんで割り引いておいたよ!」

「ありがとうございます」


 手書きの長く延びた領収書を受け取り、割引額を見てみるとミャーさんの食事代を軽く超えていました。ちょっと注文し過ぎましたね。


「ロトルル注文し過ぎにゃ! このままじゃ夜になっても皿洗い終わらないのにゃ!」

「その方がお金を無くした反省にもなって良いじゃないですか?」

「ロトルルは鬼にゃ!」

「はっはっはっ! 頑張れよ新入り!」

「ここで働く気はないのにゃー!!」


 流石にこのままアリビア国に行ってしまうのは悪いのでミャーさんの皿洗いが終わるまでお店で待たせてもらいました。追加注文しながら。


「それじゃまた来てくれよ!」


 ミャーさんの皿洗いは本当に夜まで続きましたがミャーさんの食事代分はとっくに超えていましたので、その分の給料を出してくれたリスさんには個人的に三つ星評価をあげたいところです。


「手がボロボロにゃ……」

「ポーション掛けときますね」

「ありがとにゃ」


 ストレージに偽装したお腹ポケットからハイポーションを取り出してミャーさんの手に振り掛けました。

 手荒れぐらいならヒールでも良かった気がしますが今更ですね。


 クセになってんだ、ハイポーションの無駄遣いって奴が。


「今日はもう遅いので宿に泊まりましょう」

「……お金はいつか必ず返すにゃ」

「体で払っていただいても良いですよ?」

「ロトルルなら、いいよ……」

「冗談です。ミャーさんに逃げられる様な事は二度としません」

「……ごめん」


 これは、ミャーさんちょっと精神やっちゃってますね。

 さすがに病気になるまでイタズラしたいとは思わないのでしばらくは大人しくしておきましょう。


 私の泊まっていた宿屋は店主の頭がアレになってしまったので、別の宿屋に泊まる事にしました。


「同じ部屋で良かったのに」

「同じ部屋だと私が困るんですよ。それじゃおやすみなさい」

「おやすみなさい……」


 ミャーさんが部屋に入るのを確認してから、自分が取った別の部屋へと入りベッドに腰掛けました。


「ふぅ……」


 ミャーさんの懐事情やその他諸々が落ち着くまでは一旦アリビア国に行くのは先送りにしときましょう。急ぐ旅でもないですしね。

 そりゃちょっとは急いだ方が良い気もしますけど。ま、大丈夫でしょう。追手とか迫ってきてたら怖いけども……。


 その夜はミャーさんの事を色々考えながら、いつの間にか眠りについていました。

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