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4.5 色付いた日

エデル視点



 生まれ落ちたその瞬間から、私の将来は決まっていた。


 この国の王となり、国が決めた女を娶り、国と共に生きる。


 その為に、物心つく前から、国の為にと教育を受けてきた。


 分かりやすく私を持ち上げる大人達。


 私に負い目を感じてるのか、近付きもしない産みの母親。


 私と何を話していいのか分からない国王という父親。


 ひどく色褪せた日々。何も美しくない。何も楽しくない。


 この国は私と共に生き、そしてーーーーー死ぬ。











 私は、ひどく色褪せた世界で5歳を迎えた。

 なんの感動もなく、ただ、国の歯車として育てられ、そして5歳を迎えたのだ。


 5歳を迎えたその日、国王からの命令で、二月後にお茶会を主催する事になった。

 国中から、同世代の令息令嬢を呼び、盛大なお見合いパーティーを開くのだ。


 齢5歳にして、この国の為、私と共に歯車になる女を選ぶ。

 選ぶのは、私ではなく国の重鎮たちだろうけどな…。



「私の人生とは一体何なんだろうな…。」


「良いじゃないっすか!そんだけ顔が良けりゃ、女なんて選り取りみどりっすよ!」


 私の独り言に、とんでもない事を言ってくる馬鹿。

 この馬鹿は、私の護衛兼執事見習いのカリムだ。

 スラリとした長身で、燃えるような赤髪の中々な美丈夫だ。ただ、かなりの馬鹿だけど。


「私は、国の選んだ女性ではなく、ただ一人私を私だけを愛してくれる女性と出会いたいだけなんだがな。」


「かーっ!顔の良い男は言うことが違うっすね!まだ5歳っすよね?なんか悟り過ぎじゃないっすか?」


「1度きりの人生だ、命は国に捧げても、心くらい自由にしたいんだよ。」


「俺は、エデル様に命も心も捧げちゃってるんで、コレって愛じゃね?」


 やはり、カリムは馬鹿だ。こんな歯車に捧げ過ぎだろ。けど、そんな風に言われるのも悪くはない。


「カリム、お前って良い奴だよな。」


「知らなかったんすか?俺程腕が立つ良い奴居ないんっすよ?」


「王子の私に仕えるには、言葉遣いどころか色々と間違っているけどな。何より、執事見習いのクセにお茶が毒物になるのを直せ。」


 カリムは良い笑顔で、無理っす!と元気よく答えると、毒物の様になったお茶を勢い良く飲み干す。


「やっぱり、お茶を淹れるのは難しいっすね。これ、少し不味いっ」


「いや、何故紅茶が紫になるのかもわからないし、ボコボコいってるのか…むしろ、何で飲んだ?」


 カリムは、笑いながら茶器を片付ける。

 確かに、こんな馬鹿であっても、唯一普通に接してくれるのだ。国の為でも、己の保身のためでもなく。ただの【エデル】として扱ってくれる。


「まぁ、一人だけでも私を私として見てくれれば良いか。」



 私は5歳にして、希望を捨て、諦めを覚えた。

 そう、あの時までは。




 








 お茶会当日、私はただ国王の言う通りにするのも癪で、5歳児らしく我儘を言ってみた。


「私は、将来この国を背負うものです。外見でも家柄でもなく、中身を見てくれる様な聡明な女性を選びたいのです!なので、この格好で出ます!」


 国王は、苦笑いをしながらも私の事を尊重してくれた。


 そして、茶会当日は、カリムが幼少期着ていたボロの服を着て、髪の毛もまとめず茶会会場にて来客者を眺めていた。



「いや〜、ものの見事に皆避けて行きやすね〜」


「所詮、上等な服を着て、偉そうにふんぞり返って居なければ分からない…その程度の認知度なのだよ。」


 カリムは爆笑するのを堪え、軽口をたたきながらも、本来の役目である護衛もこなしていた。


 王子主催のお茶会に、どこぞの貧乏貴族が混ざっている、汚らわしい、関わりたくないという会話が聞こえてくる。

 あまりにも予想通りで渇いた笑いしか出てこない。


 暫く遠巻きに、ヒソヒソとやられていたが、ある一人の令嬢が会場に来た事で一瞬静けさが広がる。


「ほ〜、ご主人もですけど、彼女も幼くして完成してますね。」


「何がだ?」


「顔」


 カリムの力の抜ける感想を聞き、入口に視線を向けると、一輪で大輪の花々にも劣らぬ白百合の様な令嬢が移動していた。

 揺れる白銀の髪には、星々の様な小花が編み込まれ、薄くグラデーションの掛かったピンク色のドレスは、咲き始めたばかりの百合の花の様にも見える。

 凛っとしたその姿には、幼いながらも、気高く咲き誇っているようだった。


 令嬢は、入口から少し中に進むと、会場を見回し軽く会話に耳を傾ける。そして、軽く溜息を吐き私の方へ移動して来た。

 令嬢が私を捉えると、私の顔を見て大きなラベンダー色の瞳を更に大きくする。私の正体に気が付いたのだろう、取り繕う様に、軽く会釈をして来た。そして、私から離れた位置に移動すると、再び会場を観察しているようだった。


 その瞳は冷たく、そして遥か先を見据えているよう。



「ご主人、離れた所にご令嬢(あの子)移動しましたね。」


「彼女、私を見破ったぞ。」


「は?今日の主人、どこからどう見ても平民っすよ?」


 本当に失礼な奴だな…。


「彼女の側に行きたい。」


「ナンパっすね!良いっすよ〜!」


 カリムを連れ立って横へ移動する。

 彼女は、他の人間とは違う、冷めきった瞳に情熱を燃やしている。何かを求めているかの様に、貪欲に、肉食獣の様に。

 何故か、あのラベンダー色の瞳に私を映したい…、出来るなら私だけを見つめてくれないか?と痺れる様に思う。


「カリム、もしかすると、もしかするかもだぞ?」


「あぁ!初恋!甘酸っぱいラズベリーな初心っすね!!!」


 失礼なカリムを軽くどつく。


 私は、会場を観察する彼女を観察する。

 時折、此方を気にしては、他には分からない程度に眉間にシワが寄る。私の行動が分からないのだろう、不安なのだろう。

 そんな彼女の、微々たる表情の変化まで甘く痺れる。

 そう、それはまるで…





 カリムではないが、そう【初恋】だ…………。




 私は、何とか彼女を知りたく、そして私を知ってもらいたい一心で声を掛けてしまった。


 







 私から離れた彼女…リリアーナが控室で倒れ、屋敷まで運ばれたのは、お茶会が終わってから知った…。


 あぁ、私の白百合(リリアーナ)…。君が私を映してくれるなら、私の世界は色彩溢れた美しい物になるだろう。



 私は、国王に公爵家へ先日の詫びと、改めて婚約を…否、結婚を打診したいと告げる。

 誰かに摘まれる前に、誰かに奪われる前に…、あの美しい花が欲しい。私は初めて、希望を…諦めたくないと切に願ったのだ。



「イケメンが本気出すと面倒ーっすよね。しかも、権力もあるとか逃げられないっすね!あ〜ぁ、リリアーナちゃん可哀想〜」


「カリム?私の白百合(リリアーナ)にちゃん付けは駄目だよ?」


「うーっす!独占欲っすね!じゃ、ちゃっちゃか公爵家に向かいますか!」




 

 

 王都から、リリアーナが眠る公爵家迄は馬車で数刻。

 流行る気持ちを抑え、私は公爵家へと向かった。





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