5.大嫌い
気が付けば、慣れ親しんだ私のフカフカもふもふ素敵ベッドの中に居た。
第一王子主催のお茶会で、求婚され、あまりのショックで気を失った所までは覚えているわね…。その後、どうなったのか、むしろ、何故ベッドにいるのかも分からないけど…、韋駄天のマリーがどうにかしたんでしょう。きっとそうね。
「奥様!お嬢様が、お嬢様がぁぁ…」
「あらあら、目が覚めたのね…リリー?具合はどう?マリアンヌから話は聞いたのだけれど…。」
号泣するマリーと、心配そうに話しかけてくるお母様。はぁ…、大切な2人に心配をかけてしまったわ。
「お母様大丈夫です。あまりの出来事に驚いてしまったんです…。」
「えぇ聞いたわ。エデル王子から求婚されたのよね?」
お母様は顔色一つ変えず、私に確認をしてくる。やはり、母は強いですね。
「そうなんです…。けど、私はまだ5歳です…。まだ婚約とか結婚とかは分からないんです…。」
何せ前世では、結婚どころか恋人も居た事がないのよ?完全なる喪よ?無理!分からないんです!!!
それに何より…王子は婚約者の事を煩わしいと思って居なければスチルが見れない…!!
私は、スチルの為に頑張って頑張って…頑張って来たのに…これではスチルが拝めないじゃないか…。あんまりだ…と思っていると、次から次へと涙が溢れてくる。
まるで、子供のようじゃないか…。いや、5歳なのだから、子供だろう。たが、私は公爵令嬢だ、ただの5歳児ではいられない…。
けど……、思考が後向きになる。
「分かりました。リリアーナ、婚約の事は忘れなさい。私とお父様が王家へ話を通します。」
「お母…様?」
「思えば、3歳の時に高熱を出して倒れてから、リリアーナは公爵令嬢であろうと無理をしていましたね?まだ、まだ…3歳だったのに…。」
お母様は優しく私の頬を撫でる。くすぐったくて、優しくて、嬉しくて、私の涙が止まる。
「婚約の事なんて、気にしなくて良いのよ?リリーが分からないなら、分かるまで待って貰えば良いのよ。惚れた女性一人満足に幸せに出来ない人に王は務まりませんからね。リリーは気にせず、休んでなさい?」
お母様は、私に微笑むと部屋を後にする。
絶望に飲まれてた思考が、徐々に回りだす。絶望的だった状況の中、一縷の希望が見えてきたからだ。
え?婚約しなくていいの?なら、もしかしてまだスチルへの希望はある?私がとことん悪役令嬢をすれば、エデル王子は煩わしいと思ってくれる?
その後婚約をお願いすれば、スチルを見れる?
「私は、私の為にまだ頑張れるの?」
私は、まだスチルを見るチャンスがあるのだろうか?
お母様の言葉に、一縷の希望を托していいのだろうか?
「お嬢様…、私が穏便にと言ったことで、辛い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした…。お嬢様の気持ちを確かめず…私は…私は…。」
マリーがポロポロと云うより、大号泣と言った方が良いくらい泣いていた。
私が倒れた事で、マリーは自分の事を責めていたのだろう…。可愛らしい顔は、涙を手で擦り拭っていたのか、真っ赤になっている…。
「マリー、私は大丈夫よ?お母様やお父様がなんとかしてくれるって言って下さったもの。だから泣かないで…?マリーが悲しいと、私も悲しいのよ…?」
「おじょ…う様…。なんてお優しい…。お嬢様…、私はお嬢様に出会い、世界が絶望だけじゃない事を思い出させて下さったのです。お嬢様が、王子との婚約を望まないならば、次からは王子から守ります!」
マリーは、力強く宣言すると、顔を整えてくると部屋から出て行った。
誰も居なく為った部屋で、私は息を吐く。
まだ頑張れる、大丈夫、まだ始まりのスチルは見れる。大丈夫。お母様もお父様も私を尊重してくれる、マリーも協力をしてくれる。私は悪役令嬢を完璧に演じ、王子から嫌われればいい、煩わしく思われれば良い。
「嫌われてから、お父様へお願いすればいい…のよね。私は、嫌われなければならない。」
「嫌いになどならないよ…?」
突然、部屋の中、寝室の入口から声がした。
その声は、私を絶望させ気を失った原因を作った人、エデル王子のものだった。
「……何故、私の部屋におりますの?」
地を這う様な、苦々しい声しか出ない。
此処は私の部屋だ。此処に居る筈がない人間が何故ここにいる…?誰が通したの?
お母様は、私の気持ちを尊重してくださった、マリーは守ると言ってくれた。なら、誰が?
「リリアーナ、此処に私が居るのは、王命をチラつかせ逆らえないこの屋敷の人間達のおかげだよ。君が気に病む必要はないよ?」
「おう…めい…?」
「そう、王命だ。私は君の聡明さ、気高さ、そしてその瞳に心奪われた。だから、手に入れたくて、子供らしく国王にお願いしたのさ、アイスフェルト公爵家の白百合が欲しいと。」
「汚いっすよね〜、惚れた女を手に入れる為なら最高権力者すら動かすんすよ?顔に似合わず姑息なちっさい男っすよね?リリアーナちゃんも、そう思いません?」
「リリアーナちゃん?え?どなたですの?」
エデル王子とは違う、軽い話し方の明るい声が聞こえる。
「あ、俺っすか?俺は、エデル王子の護衛してるカリムっす!因みに、俺は今回の件は全面的にリリアーナちゃんの味方っすから。」
「カリム、何度言えば分かる…?私の白百合にちゃん付けするな。」
「心狭いっすよね〜?余裕のない男は嫌われるっすよ?既に嫌われてるのに(笑)」
カリムと名乗った赤髪の男は、エデル王子を恐れず、それどころか煽っている。
カリムの明るい声で、私も落ち着いてきた。そうだ、私は味方がいる。大丈夫。
大丈夫…。
「で、何故ここに王子がおりますの?仮にもこの部屋は女性の部屋ですのよ?ノックもせずに入るなんて、紳士の行いではありませんわね。」
私は、徹底的に交戦する事にした。負けない。嫌われるまで。
私はこの人から嫌われなければならない。
「貴方のような、自分勝手で権力に物言わせる男性は大嫌いですわ。」
そうよ、大嫌いよ。
私の邪魔をするエデル王子なんて…大嫌い!




