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24 新しき日

 現場へは思った程遠くはなく、到着するのにそれほど時間はかからなかった。

 現場へ到着すると、そこにはフェレットの女性が小さく縮こまっていた。そして、その周りをラッパーみたいな恰好をした、二人組のチーターの男が囲んでいた。

 『ヨォー!ヨォー!』と言いながら、周りを囲む様子はあからさまにラッパーであった。


「待て!彼女に何をしている!」

 ヘイヤが大声を出すと、二人組の男はこちらを向いた。


「ヘイ、ヨォー、そこの兄ちゃん!俺らが彼女に何してる?そんなのお前に関係ないじゃん!お前さっさとゲット・アウェイ!痛い目遭いたくなきゃ、とっととゲット・アウェイ!」

 二人組の内、片方がラップ調で答えた。


「そうはいかないよん。僕ちん達は悪い奴らを放ってはいけないのさ。特に君達みたいに露骨に悪そうな人にはね」

 チェッシャーはニタニタした顔をして話した。


「ヘイ、ヨォー、兄ちゃん達!不運(バッドラック)とはこの事だぜ。俺達を知ってる、知らない、関係ねぇ。俺達を敵にした事、マジ後悔」

 もう片方がラップ調で答えた。


「ほう、後悔とね。それはいったいどうしてかな?」

 チェッシャーはのんびりした様子で聞いた。


「ヨォー、俺達、噂の切り裂きジャック。ついた名前は切り裂きブロス。俺がジャッキー。コイツがジャクソン。俺達、無敵の切り裂きブロス!俺らの名前を知ったからには、生きて帰れる確率、ゼロ、ナッシング!俺達のナイフさばきをみろヨォー、華麗な技にマジ絶句」

 二人組の男はナイフを取り出した。その辺の悪ガキが持っていそうな折り畳み式のナイフだ。この時点で彼らが本物の『切り裂きジャックの子供』ではない事は明らかだった。恐らくは、切り裂きジャックの名前を語って名を上げようとするバカな連中なのだろう。


 しかし、だからこそ危ないという意識はあった。彼らがキレた時何をしだすか分からない恐怖がある。それがこちらに向くのなら問題ない。しかし、もしも小さく縮こまっている彼女に向いたとしたら……そう考えると、軽く考えるわけにはいかなかった。

 むしろ、そんなバカな連中には、本物以上にキツいお仕置きをするべきだろう。そう考えたヘイヤは、トレンチコートを脱いで、スリングショット一丁の恰好になった。


「オーノー!お前、マジヤバ、マジバカ?そんな恰好、マジ勘弁、気持ち悪いぜ、ゲロ吐くぜ!」

 二人組の男はゲロを吐く真似をした。それはヘイヤにとって、隙以外の何ものでもなかった。

 彼は素早く両手を股布の中へ入れ、プランジャーを両手に一本ずつ取り出した。そして一気に踏み込むと、魔力で強化したプランジャーで彼らを殴った。


「アオッ!」

(いて)ぇ!」

 本気で強化すると撲殺してしまいそうなので、ある程度手加減して彼らを殴った。それでも彼らはとても痛そうにした。


「はいっ!」

 ヘイヤは掛け声と共に彼らをプランジャーで突いた。吸盤に一人ずつ、悪党が引っ付く。ヘイヤはそのまま力を込めて持ち上げると、思い切り投げ捨てた。二人は遠くへ飛び、受け身を取る事ができずに、壁へと激突した。


「ねぇ、チェッシャー!アレやろうよ!」

「アレかい?んもう、仕方ないなぁ……」

 チェッシャーはそう言うわりにはノリノリで、どこからともなくテニスラケットを取り出した。


「地獄のレシーブ練習!」

 ヘイヤは股布からテニスボールを何個も取り出して叫んだ。


「行くわよ!」

 チェッシャーはその場で一回転すると、テニスの女子プレイヤーみたいなコスプレをして叫んだ。ついでに声も裏声だ。


「よっ!」

 ヘイヤはボールの一個をチェッシャーにアンダースローで投げた。


「サァー!」

 チェッシャーは切り裂きブロスの片割れに目掛けて、ボールを打って当てた。


「ワォ!」

 彼がジャッキーなのかジャクソンなのか知らないが、とりあえずボールが当たって、彼は悲鳴を上げた。


「よっ!」

 ヘイヤは再びボールの一個をチェッシャーにアンダースローで投げた。


「サァー!」

 チェッシャーは切り裂きブロスのもう片方に目掛けて、ボールを打って当てた。


「アォ!」

 ボールが当たって、彼は悲鳴を上げた。


「今度はまとめていくよ!」

 ヘイヤはボールを五、六個まとめてチェッシャーに投げた。


「バッチコーイ!」

 チェッシャーはボールを全て打った。ボールは吸い寄せられるように切り裂きブロス目掛けて飛んでいき、そして命中した。


「ギャオン!」

 当たった二人は悲鳴を上げる。


「まだまだ。僕ちんの実力はこんな物じゃないよ!もっと難易度を上げてごらんよ」

「ん~と……じゃあ、これはどうだろう?」

 チェッシャーに言われてヘイヤが取り出したのは、手榴弾だった。それもいくつもある。


「いいね、いいね。最高だよ!さっそく投げちゃって!」

「じゃあ、行くよ!」

 チェッシャーが催促するので、ヘイヤは迷わずに、持っていた手榴弾全てを彼に投げた。


「チョレイ!」

 チェッシャーは掛け声と共に全ての手榴弾を打った。すると全てのピンが外れて、切り裂きブロス目掛けて飛んでいき、そして彼らのすぐ近くに落下した。そしてすぐに大爆発した。


 普通なら、今ので彼らは死んでいた。しかし、今の攻撃は彼らの悪ふざけによるもの。殺傷力は消えており、彼らは黒コゲになった。


「ち、チクチョウ!油断したぜ……」

「こ、ここは逃げようぜ、ブラザー」

 そう言って、切り裂きブロスの二人は逃げようとした。


「おやおや、彼らは逃げるみたいだよ、ヘイヤ君。どうする?」

「もちろん、逃がさないさ」

「それで?どうする気だい?」

「コレを使うのさ!」

 ヘイヤはそう言うと、股布から自動小銃を取り出した。正式名称はワサビニコフ47式自動小銃である。


「ほほう。ソレを?」

「こうやって……」

 チェッシャーが聞くと、ヘイヤは銃を股に挟んだ。


「そして?」

「両手でガッシリ持って固定して……」

「それから?」

「彼らを狙う」

 ヘイヤはヨロヨロと逃げようとする切り裂きブロスの二人に狙いを定めた。


「そしたら?」

「魔法で引き金を引く!」

 ヘイヤがそう言った瞬間、ワサビニコフ47式自動小銃が火を噴いた。銃弾の多くは彼らに当たり、彼らは倒れる。しかし、コレも悪ふざけなのでダメージはない。ただ痛いだけだ。

 弾倉はあっという間に(から)になった。ヘイヤは弾倉を外して、股布から替えの弾倉を取り出す。


「いやん、もう弾切れ?弾を込めなくちゃ!……というかタマだけに弾が無くなったらオカマ言葉になっちゃう!」

 ヘイヤはナヨナヨしながら、リロードを行なった。


「ようし、生き返った!」

 リロードを終えたヘイヤは、しっかりと男に戻り、再び切り裂きブロスを狙った。


「も、もう勘弁してくれぇ!」

「こ、降参するヨォー」

 二人は降参の意思を見せた。しかし……


「ダメだよ。君達、切り裂きジャックなんでしょ。それならこの程度で許すわけにはいかないなぁ。ね?チェッシャー?」

 ヘイヤは許さなかった。切り裂きジャックを名乗った罪、きっちりと償わせるつもりであった。


「もちろんだとも。切り裂きジャックを名乗る以上は責任を取ってもらわないとね」

 チェッシャーは返事をした。しかも、巨大な棒付きのアメを股に挟んでいる。


「あれ、チェッシャー。何をしているの?」

「何って、君の真似さ。この大きくて丸いアメの部分から、小さくて丸いアメ玉が発射されるのさ。素敵だろう?」

「うん、なんだか素敵。僕、ちょっと嫉妬しちゃうかも……」

「そんな事ないさ。股から銃なんて何とも男らしいアイディアじゃないか。僕ちん、君には勝てないと思っているよ」

「そ、そうかな?そういってもらえると嬉しいよ。チェッシャー」

 ヘイヤは照れた。


「い、今がチャンスだヨォー!」

「逃げるんだヨォー!」

 切り裂きブロスは再び逃げようとした。


「あ!そんな事はさせないぞ!」

「僕ちん達の強さを思い知るがいいさ」

 二人は同時に発砲した。鉛でできた弾とアメ玉、その両方が切り裂きブロス目掛けて飛んでいき、そして命中する。それも一発や二発ではない。きっちり30発。これは銃の弾倉の容量と同じである。


 攻撃を受け過ぎた切り裂きブロスは完全にノビていた。

 ヘイヤは彼らに近寄ると、ダメ押しに拘束の魔法を放った。彼らはすぐに魔法のロープで亀甲縛りにされる。


「……これでよし。チェッシャー、さっきの女性は?」

「あらまあ、とっくの昔に逃げてしまったようだねぇ。せっかく助けてあげたのになんとも恩知らずじゃないか」

 チェッシャーは彼女がいた方向を見るとそう答えた。


「別に、それならそれでいいよ。彼女の無事が第一だったわけだし」

 ヘイヤはそう言いながら、股布からスマートフォンを取り出した。警察に切り裂きブロスを引き渡すためである。


 ダイヤルを入力しながら、ヘイヤは思った。

 この街を守るというのは、今まで以上に重い意味を持つようになった。

 これからは、師匠のため、そしてローザのためにも街を守らなくてはならない。


 でも、そのプレッシャーに負ける気は全く無い。

 今まで通り、悪い奴を追い詰めて戦い、警察へ引き渡す。それを続けていくだけである。


「あ、もしもし。警察ですか?」

 ヘイヤは笑顔でスマートフォンに話しかけた。

ありがとうございました。

ただいま新作を執筆中です。お楽しみください。

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