第83話 共鳴の到達点＋Sister′s ties
《データシェア デュアルリンク》
長時間の戦闘により、半無限大に戦闘能力を向上させるシステム。最初のうちこそスレイジェル１体を倒す為に数発の攻撃を必要としていたが、今では一撃で叩き伏せている。
「それにしても、数が多すぎる！」
「取りこぼさないでよ蒼葉！」
空を飛び、何処かへ去ろうとする一団。ネメシアはそれを見逃さずに飛翔、足のクローから放つ斬撃で斬り裂いた。
ユキワリはプレシオフォンから出現させた鞭で数体を拘束、そのままフレイルの様に振り回し、取り囲むスレイジェル達を薙ぎ払う。
しかしスレイジェルばかりに気を取られてはいられない。
「ほらほらっ！ こっちの方は大丈夫かな！？」
ノア・アザミが放つ火球を、ネメシアは間一髪回避。空を飛び回る自身を的確に狙う一矢に歯噛みする。
「スレイジェルが倒せる程度で粋がるだけか」
ノア・ムスカリが振り下ろす剣を、ユキワリの足のブレードが受け止める。
「時間さえ稼げば勝てると思うなら、それは間違いだ。お前達は私達に辿り着けはしない」
足ごとブレードをへし折ろうと力を込めた時だった。その力を利用してユキワリはその場で宙返り。ノア・ムスカリの斬撃を躱しつつ、逆に勢いをつけた延髄斬りを見舞う。
「ゥッ！？」
「口はよく動くのね」
「人間がっ！！」
横に薙ぎ払われる剣を跳躍で回避。振り抜いた刀身の上に着地し、頭を踏みつけてもう一度跳び上がる。
察知したノア・ムスカリは剣を上へ突き上げる。それを半身で空中回避。身体の装甲の表面と擦れて火花が散るが、構わず顔面へ蹴りを叩き込もうとする。
だが横から割って入った火球がユキワリを直撃。大きく吹き飛ばした。
「うぇっへっへ！ 余所見厳禁〜！」
「それはこっちの台詞よ」
「はぁ？ っ、アグッ！？」
ノア・アザミの背中に突き立つ金属の爪。ネメシアのクローだった。深々と穿った隙間から灰色の炎が漏れ出る。
「余所見厳禁、だったかしら？」
「アッ、アッ、こ、の、鳥女ぁ……！！」
「まずは一体！」
《Ｆｉｎａｌ Ｓｔａｇｅ ハイフライトフィニッシュ》
足を突き刺したままリワインドローダーの出力を上げ、巨大な翼竜のオーラを纏って飛翔。錐揉み回転を加えて地面に叩きつけた。
「ウギャァァァァァァァ！！？」
四散するノア・アザミ。末期の抵抗か纏わりついた灰色の炎も、ネメシアの翼の羽ばたきで容易く吹き消された。
「正直拍子抜けだけど、まぁコピーだものね。さて、次はもう一体を ──」
「ざーんねーん！ まだ終わってないんだなぁ！」
何処からともなく響いたノア・アザミの声に、ユキワリとネメシアは思わず辺りを見回した。しかし四散した破片があるばかりで彼女の姿はない。
「何処に……！？」
「まぁやられちゃったのは本当だけどさぁ。あとは任せるよん、ムスカリ」
砕けた破片が震え始めたかと思うと宙に浮かび上がり、ノア・ムスカリへと集まり始めた。
「仕方ない。確実性をとるに越したことはないか」
ノア・ムスカリの右腕にランチャーが出現。赤い蔦が全身に絡みつき、顔は赤と青の陰陽玉に似たものへ変貌。
「残るは一体、だったな。やれるかな？」
「合体、か。ありきたりだけど厄介な」
強化体となったノア・ムスカリを挟み込む様に立つユキワリとネメシア。データシェアは継続している。一撃で決められない限り勝機は必ずある。
「蒼葉」
「分かってる。紅葉に合わせるから」
「ありがとう。なら何の問題もない」
ネメシアが空へ飛び立つと同時にユキワリはプレシオウィップを振るう。ノア・ムスカリの身体を縛り上げる。
「拘束が甘い！」
左腕の剣を振るい鞭を切断。右腕から小さな火球を機関銃のように乱れ撃ってユキワリを吹き飛ばし、空から強襲するネメシアを散弾のような火球を撃ち出して迎撃。
しかしこの程度で２人は怯まない。今度はユキワリが地面を滑るようにスライディングしながら迫り、ネメシアは直線的な軌道でノア・ムスカリへ向かう。
ネメシアの攻撃を避けようとした瞬間、寸前でネメシアが軌道を逸らす。回避しようとして生じた隙を突き、ユキワリは身体を跳ね上げて蹴りを放つ。腹から胸を抉るような一撃がノア・ムスカリに稲妻の様な傷を刻む。
「それが、何だ？」
追撃で繰り出されたネメシアからの拳を剣で受け止め、ランチャーを接射しようとする。
「そしてこれを防ごうとユキワリが来る」
ランチャーへ振り下ろされようとする足。それを見もせずに躱し、銃口をユキワリへ突きつけた。
「なっ、うぁっ！？」
「蒼葉！！」
「そのままネメシアを砕く」
散弾によってユキワリを打ち上げ、そして左腕の剣をネメシアの腹へ叩きつけた。
地面へ伏す２人。そこへスレイジェル達が殺到、死骸に群がる禿鷹のように２人へ襲い掛かる。
《コール モサビット》
集まったスレイジェルを、モサビットが纏めて喰らい、噛み砕いた。残骸の雨の中、ユキワリとネメシアは立ち上がる。
「まだ立ち上がる。無駄なのが理解出来ないのか？ お前達は ──」
「まさか、私を倒す事は出来ない、なんて言わないでしょうね」
「……私を倒す事は出来ない」
「残念だけど、それは間違い」
《データシェア エクストラリンク》
「エクストラ……？」
ユキワリから紅いオーラが、ネメシアからは蒼いオーラが立ち昇る。データシェアをすれば２人の能力は上昇する。その情報は母体であるノアから得ていた為、ノア・ムスカリに動揺はない。しかし聞き慣れない単語を思わず復唱してしまった。
「今までに不可能だった事なんて山程あった。何度諦めようと思ったか、諦めた方が楽だと考えたか、数えきれない。でもその度に、目の前で必死に戦う影がちらつく」
「笑っちゃうくらいに愚直で、信じられないくらいに諦めが悪くて……でもそれに何度救われたか分からない」
装甲の隙間から紅と蒼のオーラが漏れ出し、ヒビがさらに深くなっていく。
「何が起きている……？」
「憧れだった。小さい時からずっと、私達を運命から解き放つヒーローが目の前に現れる事を」
「ヒーローの為に私達は出来る事全てをやった。間違いだって沢山犯した。でもそのおかげで、今２人は世界を救う為の戦いが出来ている」
「だから私達も」
「世界を救う為に戦う」
「「たとえ私達の身体が砕けようと！！」」
《データシェア リミットブレイクリンク》
ユキワリとネメシアの装甲が弾け飛ぶ。胴体に浮かぶ円形のクレスト。そこを中心に走るラインは紅と蒼に染まり、ユキワリに巨大な鰭を、ネメシアに巨大な翼を与えた。
「リミット……この出力は！？」
ノア・ムスカリは視界に映るユキワリとネメシアの出力を計測する。衛星ノアに記されているリンドウとヒガンバナの形態、《アウェイクニングブレイダー》と《コードデストロイヤー》と同格、否、それすら凌ぐ値が表示された。
「有り得ない……ユキワリとネメシアがこんな値を出すなど！！」
宙を泳ぐユキワリ、空を舞うネメシア。２人はノア・ムスカリが察知出来ないほどの速度で迫り、交差する一撃で胴体を斬り付けた。
「ングゥッ！？」
先程の傷とは比べ物にならない。しかし同時に２人の変化の謎がようやく理解出来た。
「じ、自壊寸前まで出力を……愚かな、愚かな、愚かなぁぁぁ！！！」
「ただの自己犠牲なんかじゃない！！ 私達を信じてくれる人達の為に！」
ネメシアが旋回し、吹き上げた竜巻。中心で風の刃が荒れ狂い、ノア・ムスカリを容赦なく斬り刻む。
「ァ、ガァ、ギィィ、ァァァ！！？」
「私達が愛した人達が生きる世界の為に！」
ユキワリが巻き起こした渦潮が竜巻と融合。水の刃が加わり、最早ノア・ムスカリの身体は無数の切り傷で彩られる。
落下したノア・ムスカリが見たものは、空へ浮かぶユキワリとネメシア。紅き巨鳥と蒼き巨鮫。
《《デュアルリンケージ クロスフィニッシュ リミッターブレイク》》
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ！！！！」」
巨鳥と巨鮫は融合。紅と蒼のエネルギーを纏う伝説の生物、海竜を象った２人のキック。
「ヤ、ヤメ、助ケ……！！！」
堕天使の命乞いを聞く事なく、海竜は咆哮と共に突進。身体を貫き、尚も荒れ狂いながら周りのスレイジェルを破壊し尽くしていった。
「人間、に……ぁ、機能、停、止」
身体の大部分が空虚な穴と化したノア・ムスカリは爆散。この世に一片の形も残さず消滅した。
「はぁ……何とか倒せた……」
「気を抜かないで蒼葉。前を見て」
目の前から迫り来る大量のスレイジェル。空に見える衛星は無尽蔵にスレイジェル達を生み出し続け、世界を終末に導かんとしている。これでノアは人類の救済などと嘯くのだから、笑い話にもならない。
「まだ戦いは終わっていない。私達のヒーローが衛星を壊すまで、私達の戦いも終わらない」
「そう、ね。じゃあ行こう、紅葉」
「えぇ、蒼葉」
２人は一歩踏み出す。
しかし次の一歩を踏み出す事は叶わず、２人は力尽きた。倒れると同時に変身が解除される。
「ずっと……」
「一緒……」
譫言のように呟いた言葉は、スレイジェルの羽ばたきに掻き消される。彼等の槍に突き刺された蒼葉と紅葉の身体は螺旋が解けるように分解され、光となって消えていく。
消える最後の瞬間まで、２人の手は固く結ばれたままだった。
続く
