第84話 終止符+Not over yet
雲に覆われた空。それを覆うかのように群れる灰色の天使。混沌と化した街から逃げようとする人々を、天使達はその上を通り過ぎていく。彼らの主を破壊しようとする悪魔の使者を破壊するために。
《強欲の翼爪!!》
一対の翼爪に握り潰され鉄屑と化すスレイジェル。背後からの一撃すら不意打ちになりえない程の隙の無さ。《ヘルズドミネーター》となったヒガンバナに蹂躙されていく。
しかし一方ではジャスディマの槍をロードしたリンドウの突きによって陣形に風穴が開けられる。潮が満ちるように陣形の穴を塞ぐが、続いてロードされたフェイザーの剣によってまた同じように道が切り開かれる。
「数が多すぎる!」
「目算で3万5578体だ。これではノアの目論見通り時間を稼がれる」
「衛星が射程に入る距離まで一気に攻めるしかない!」
その言葉を聞いたヒガンバナは小さく頷き、クロスブレイクソードの中心へ連続でチップを読み込ませる。
《憤怒の炎打!!》
《怠惰の軍勢!!》
《暴食の顎!!》
獄炎を纏った拳を地面に打ち付けて周囲の敵を粉砕。獣の顎を象ったクロスブレイクソードを縦に振り下ろし、衛星までの一本道を作り上げる。再び道を塞ごうとスレイジェル達が押し寄せるが、顔のない泥人形達がそれを押し留める。
「今なら中心に行ける!」
「あぁ!!」
《Faith Loading》
フェイザーの能力を発動。出来上がった道の終着点に転移し、更にセブンスローダーへチップを挿入。
《Affection,Justice,Brave Loading》
アフェイク、ジャスディマ、ブレイブのチップをロード。光から作り出した大弓にジャスディマの槍を矢のように番え、空へ射ち放つ。衛星までは届かないが、花火のように弾けた槍は幾千にも分裂。流星群となってスレイジェル達を貫いた。
《Temperance,Wisdam,Brave Loading》
巨大な円が開くと同時に、テランス、ウィズード、ブレイブのチップを挿入。殺到するスレイジェル達が、まるで時を止められた様に静止する。否、範囲に入った広場のデジタル時計は実際に動きを止めている。この空間のみ本当に時が止まっているのだ。
この隙を突いてヒガンバナもリンドウの隣へ降り立つ。衛星まではまだ少し距離がある。
『凄いねぇ。あともう少しだ』
「随分余裕そうじゃないか」
『辿り着けない事を知ってるからね』
ヒガンバナへのノアの返答。強がりなのだろうが、どうしても言葉の裏にある不穏な気配をリンドウは無視出来なかった。
「彼岸、ここからじゃまだ遠いよね」
「衛星の真下からでないと効果は薄いだろう。力技で行くしかないが……」
迫る大軍、リンドウのセブンスローダー、そして自身のデスレイズローダーへ目をやる。この数を相手に、これだけの力をいつまで全力で振るえるのか。それは彼岸にも分からない。きっと桜も分からないだろう。
「日向桜、一気に攻める事は可能か?」
「出来る、と思う。いや、やる。やるしかない」
「その返答が聞けて安心した」
背中合わせとなった2人は、押し潰そうとするスレイジェル達を跳ね飛ばした。
リンドウはその手にジャスディマの槍とヴァイティングバスターを携え、ヒガンバナはクロスブレイクソードとデストロイセイバーを構え、大挙する軍団へ挑む。
《ギガ ヴァイト!!》
《ギガ プレディション ストライク!!》
ヴァイティングバスターへアウェイクニングローダーをロード。二振りすると同時に竜の頭が出現し、破片をも喰らい、呑み込んでいく。続け様にジャスディマの槍を投擲すると、今度はアフェイクの大弓、テランスの刺突剣を複数生成。光の矢を連続で撃ち放つ。
《嫉妬の魔眼!!》
《色欲の芳香!!》
《傲慢の一閃!!》
対するヒガンバナはエヴィの魔眼、ストラの霧を周囲にばら撒き、複数体を拘束。そのまま骨を纏った二振りで斬り裂く。
『さぁ、辿り着けるかな、辿り着けるかなぁ?』
「辿り着いてみせる!!」
《Hope Loading》
ヴァイティングバスターからディザイアスと同じ様に光のエネルギーを発射。前方180度を薙ぎ払い、ノアと真正面から向かい合う。
「ノア!! 人間をこんな強引なやり方で救ったって、いつかお前が壊れる事になる!!」
『はぁ。あのね日向桜、私は人間を管理するくらい訳ないんだよ。身体も、思考も単純。全人類を束ねても衛星のデータ容量に収まる程度。それで私が……』
「壊れる」
隣に立ったヒガンバナの言葉に、ノアの言葉が止まる。
「このスレイジェルの軍勢は孤独の裏返し。衛星は心を閉ざす為の鎧。お前は人間を救いたいと言いながら、まだ自分で立ち上がる事すら出来ていない。その状態で人間を管理など本当に出来るのか? 全ての人間の存在という膨大なデータを、本当に受け止められるのか?」
『…………』
「どうして、人間と一緒に生きる選択をしないんだ?」
『……私がすべき事は、生まれた時から決められている』
スレイジェルの軍勢が動きを止める。
『人間は技術を進化させて私達の様な存在を生み出せても、本質はこの世に生まれた時から何も変わっていない。機械を制御する為にプログラムが必要な様に、人類を制御する為のプログラムが必要なんだ。その役目を担う為に生まれたのが、私』
今までの嘲るような声の色はない。淡々と、それこそ機械のように語る様は、これまでのノアからは考えられない姿だった。
『君と同じさ、日向桜。英雄になりたいと願い、呪いを乗り越えて英雄になる運命を持った人間。君と同じさ、彼岸。復讐の炎を滾らせ、忌魅木が生み出した技術を破壊する為に生まれた存在。私はそうなるべくして生み出された』
この言葉を聞いたリンドウは小さく俯く。なるべくして、そうなると運命づけられて。あの日、初めてリンドウへ変身した日の事を思い出す。
あの日は確かに運命だったのかもしれない。なるべくしてなったのかもしれない。
だが、それから歩んできた道は。
「ノア。決められた生き方を行く事もきっと悪いことじゃないと思う。それでも俺は、自分で歩んでいきたい。最初から決められた道と違ってずっと苦しいし、諦めたくなるけど、運命を変える事が出来るから」
『それが全人類の意見だとでも?』
「皆がそんな強さを持ってはいないだろう。だが誰しも心を持つ以上、何処かで自由を欲している。ノア、お前がしようとしている事はそれすら抑圧するんだ」
どのように生きるのか。自身で道を切り開くのか。誰かから与えられた道を歩むのか。
それを選ぶ事が出来るのは、自分自身しかいないのだから。
『君達は強者の理論を振りかざしているに過ぎない。弱い存在を君達が守るとでも言うのかな?』
「一人だったら、きっと人間は弱いままだと思う。だからこれからは、いやこれからも、助け合って生きていく」
『……あぁ、何を言っても聞かないんだ君は。そんな事、今までの戦いで嫌という程思い知った筈なのに。どうして私は……』
開かれていた道が、再び動き始めたスレイジェルによって塞がれようとしている。
「日向桜!」
「分かってる。……俺達の想いを、ノアに全てぶつける!!」
《Hope,Fath,Affection,Justice,Brave,Wisdam,Temperance Seventh Loading!!》
《傲慢 憤怒 嫉妬 強欲 怠惰 暴食 色欲 七大罪!!》
セブンスローダーが、7人のアースリティアの心を読み込んだ。
デスレイズローダーが、7人のジェノサイドの魂を読み込んだ。
2つのローダーは溢れんばかりの電光を迸らせ、天へ掲げると空を斬り裂く光の柱が解き放たれた。
全てを浄化する白い光、全てを破壊する黒い光。2人に近づいたスレイジェルは一瞬の内に塵と化し、何人たりとも近づけない領域を広げていく。
《Final Update Complete!! Aurora Finish!!》
《Final Update Complete!! Seven Sins Finish!!》
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」」
2つの柱は空で陣形を組むスレイジェル達を一瞬で融解。盾を崩し、衛星の外装へ突き刺さる。幾重にも積み重なった鎧を焼き切りながら迫るが、まだまだノアの本体までは届かない。
しかし白と黒の光が融合。螺旋を描きながら更に出力を増し、閉ざされた殻に穴を穿つ。
『ァ、ァ、ァァ…………』
ノアのか細い声が轟音の中から耳に届く。それでもこの光を止めるわけにはいかない。人類の存亡、人類のこれからがかかった光を、消すわけにはいかない。
「「ノアァァァァァァァァ!!!」」
空に、光の螺旋が伸びた。
衛星を貫き、内側から破壊。エネルギーが裂け目から溢れ出し、一つの星が瓦解していく。
スレイジェル達は一斉に動きを止め、光の粒となって消滅。空を覆い尽くしていた灰が晴れていき、青い空が見え始める。
「……終わった……?」
「あぁ。終わった」
2人の言葉を聞き届けた様に、セブンスローダーとデスレイズローダーは澄んだ音を上げて砕け散った。人智を超えた力を持った結晶の欠片が、桜の目の前を舞い上がっていく。
「ありがとう」
力を貸してくれた魂達。彼らも人類を救う為に戦った英雄だった。
「みんなは大丈夫かな……」
「ノアが破壊された今、衛星内のデータは解放された筈。データを束縛する存在がいない今、元いた世界に復元されるだろう」
「そうか。それなら……」
言葉とは裏腹に、桜の表情は浮かないものだった。最後まで分かり合う事がないまま戦いが終わった。ノアにも譲れないものがあった以上、この結末を迎える事は覚悟していたのだが、それでも胸の中で痛みが疼いていた。
「日向桜、まずは紅葉達の無事を確認しなければ。衛星を破壊した以上、データ化はされていない筈」
「あぁ分かった、すぐに ──」
桜の言葉が、金属を貫く甲高い破砕音に阻まれる。
彼岸の胸を貫く灰色の剣。身体から散る眩い火花とは対照的に、その目から光が消えた。
「彼岸……?」
「希望と理想は絶たれた。でも、まだやり直す事は出来る」
灰色の剣の元。そこには神が佇んでいた。鎧すら身に纏わない、燃え尽きた様な灰色をした、ノアの姿が。
「この状態の私には、全人類のデータ化など到底出来ない。なら今私に出来る事、それは……」
剣が引き抜かれ、彼岸の身体は糸が切れた操り人形の様に倒れていく。桜は抱き止めるが、光がない目を開いたまま一切動かない。
「君達2人を、この世界から消す事だ」
衛星から放出されゆく光。それはこの街でデータにされた人間達が解放されているのだろう。だが、まだ神は消えていない。
全ての切り札を使い果たした中、最後の絶望が待ち構えていた。
続く




