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第1話 運命の始まり+The birth of a hero

 

 2025年、人類は進化を迎える事になった。


 日本中に突如として現れた未知のウイルスにより、次々と人間が怪物に変容する事件が発生。都市1つが壊滅へと追いやられた。


 すぐさまこのウイルスについての研究が開始。人間の遺伝子を急激な速度で変容させる、否、遺伝子を殲滅して新たなものへと作り変えるこのウイルスを、「ジェノサイドウイルス」と命名。それによって生まれた怪物の名前を「ジェノサイド」と名付けた。


 この事態に対抗するために、ある博士は高度な戦闘AIシステムを開発した。


「スレイジェル」。天使と奴隷の名を持った救世主を。



 それが、これまでに幾度となく犯してきた人類の過ちのなかで、最大のものとなるとも知らずに。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「桜先輩! ありがとうございます、荷物運び手伝って貰っちゃって」

「良いんだよ。困った時はお互い様だ」

「流石です! やっぱ桜先輩は学園のヒーローだ!」

「ヒーロー……そ、そう?」

 目をキラキラ輝かせて告げられる後輩の言葉に、日向桜(ひゅうがさくら)は嬉しそうににやける。

 あまりに重そうにヨタヨタ歩いている姿を見て放って置けず、思わず手を貸してしまったのだが、ここまで言われて嬉しくない人間などいるはずがない。


「それじゃあね」

「はい、ありがとうございます!!」


 その場を後にした桜が次にやる事、それは、


「お、来たな桜。早速だが、このプリントを各クラスの教卓の上に置いといてくれ」

「はい」

「いつも悪いな」


 教師に頼まれた朝の配布プリントを運ぶ。最初は偶然手が足りないところを手伝ったのが始まりだったが、今ではすっかり任される様になってしまった。

 だが桜にとって、誰かの為に動く事はこの上なく幸福な事。趣味の1つなのだ。例えこんな、雑用じみた事でも。


「桜〜、今日も熱心じゃねえか」

 山積みになったプリントが、半分取り上げられる。


 隣にはいつの間にか1人の男子学生が立っていた。


 山神真里(やまがみまり)。まるでヤマアラシの様な凄まじいヘアスタイルに高身長、大きな瞳が特徴の美青年だ。桜とは旧知の仲である。

「山神?」

「ヒーローは大変だなぁ。もっぱら噂だぜ」

「いやぁそんな……」

「彼奴は頼めば何でもやってくれる、都合の良いやつだってな」

「……あれ?」

 予想とは少し違った回答に桜は素っ頓狂な声をあげる。それを見た真里は知ってた、と言わんばかりに溜息をついた。

「言っておくが、俺は嫌がらせで教えたわけじゃねえよ。お前が人の為を思ってやってるのは事実だしな。でも、みんなこの通りさ。だからよ、もう人助けはほどほどに…………」

「何で誤解されてるんだろうな? 俺のやり方が悪いんだろうけど……」

「……何でお前、そんなに人助けにこだわるんだ? 言っちゃ悪いが、ここまでくると引くぞ」

「何でって、昔から言ってんだろ?」


 桜は眩しい笑顔を浮かべた。



「いつかなる為だよ。本物のヒーローにな!!」




 桜が教室に入ると、自分の席の隣に見慣れない机が1つ追加されていた。

 誰かが掃除の時に間違えて置いたのだろうか? そう考えを巡らせていると、


「おっはよーございまーす桜ぁ!!」

「うぐっ!?」


 強烈なハグ、というより体当たりを喰らい、桜の体が教室の床に伏す。

「あ、やっば、やり過ぎた」

「す、睡蓮ちゃん、加減しないと桜が死んじゃう……」

「こんなくらいで死ぬわけないでしょ、エリカのヒーローだよ?」

「も、もう! やめてよ……!」

 桜を尻に敷いた状態で話す少女は、羽場切睡蓮(はばきりすいれん)。透き通る様な水色のショートヘア、幼さが残る顔と体をしている。

 そんな睡蓮にからかわれている少女は、稲守(いなもり)エリカ。まるで狐の耳の様に立った2つの茶髪に、睡蓮とは反対に大人びた体つきをしている。



 そして、桜とエリカは小学生以来の友人。所謂、幼馴染。



 床に倒れた衝撃で噴出した鼻血が流れ落ちる。

「あ、スケベなこと考えてたな?」

「そんなわけあるか……で、この机って誰のもの?」

「転校生が来るらしいよ」

「今日? 随分急な……」

「あ~、ドラマな予感がする~。しかも桜の隣だよ、こりゃ恋の予感が……」

「えっ」

「真に受けないでくれよ」

 何やら不穏な方向に話が進みかけてきたので、桜は強引に話を打ち切り、席に着いた。既にホームルームが始まる時間。生徒達も次々に席についていく。


 と、担任の教師が入ってくる。


 起立、礼を日直が行い、早速気になっていた話題を切り出し始めた。


「突然で悪いが、今日からこのクラスに転校生がやってくることになった。仲良くしてやってくれ」

(ホントに突然だな……一体誰……が……)


 教室に入ってきた生徒の姿を見たその時、桜の、否、男子生徒全員の思考が停止した。



「今日からここ、草木ヶ丘学園に転校してきました、忌魅木蒼葉(いみきあおば)です。よろしくお願いします」

 絹糸の様にきめ細かく、行儀良く一つにまとめられた長い髪。宝石の様に煌めく青い瞳。まるで彫刻の様に均整の取れた体。

 一目見て全男子が察した。美少女であると。


「お約束キタァァァァァ」

「あ……あ……」

「諦めるなエリカちゃん! 君のヒーローがあんなぽっと出の転校ヒロイン系女子に負けるはずが……」


 自己紹介を終え、桜の隣の席へと座る蒼葉。呆気にとられている桜を見ると、優しく微笑んだ。

「これからよろしくね、桜くん」

「あ……あぁ……こ、こちらこそ……はは……」


「だめだぁぁぁ!! 陥落寸前だぁ!!」

「さ、桜ぁ……ぁぁ」

 遠くでエリカと睡蓮が騒いでいる事はつゆ知らず、桜は蒼葉に見惚れていた。



 だからこそ、桜は彼女のある動きに気付かなかった。


 小さな装置を片手に、蒼葉は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「ここにも……適合者はなし……」



 授業も無事に終わり、後は下校するのみ。

 とはいうが、桜は一日中、隣の蒼葉に気を取られていたせいでまともに授業を聞いていなかった。


 そして近くにいたためであろうか、色々と彼女の様子を見ることが出来た。

 まず1つ、彼女はあまり人と関わるのを好んでいない様なのだ。転校してきたばかりだから、というものとは違う。まるで、他人に興味がないような。


 一日中様々な質問を突きつけられても多くを語らず、飄々と笑顔で躱し続ける。

 極め付けは、昼休みの出来事だ。


 エリカと睡蓮が蒼葉の席へ訪れると、隣に座っていた桜を押しのけ、弁当箱を取り出した。

「い、忌魅木さん、一緒にお昼、どうかな?」

「洗いざらい素性を吐いて貰おうか、エリカのヒーローを誑かした悪女よ」

「失礼でしょ睡蓮ちゃん!!」

 突然の戦線布告(?)。しかし蒼葉の表情は変わらず微笑を浮かべたままだ。

「ごめんなさい、お昼は持ってきていないからご一緒する事は出来ないの。少し用事もあるし」

 そうして彼女は席を立つ。

「あ、待って、ないなら少し分けて……」

「待てい! 逃げる気かぁ!」

「睡蓮ちゃんは黙ってて! ……あぁ、行っちゃった」

 気を取られていた隙に、蒼葉の姿は忽然と消えていた。2人の接触の仕方も少々思う所があるが、蒼葉の態度も気になる。

 休み時間に山神へとメールで聞いてみたが、「気にしすぎだ」と適当にいなされてしまった。



「うーん…………気になる…………」

 正直な話、見た目も物腰も男目線から見ると完璧だ。だが往々にして、完璧な人間には何かしらの秘密があるもの。詮索するのは無礼だが、それでも知りたくなってしまうのが人間だ。


「日向。まだいたのか」

 と、教室に担任の教師が入ってきた。見ればとっくに下校時刻。

「す、すいません、さっさと帰ります」

「丁度良い。さっき忌魅木に渡し損ねたプリントがあるんだ。届けてくれ」

「えぇ!? 俺、バイトもあるし、何より忌魅木さんの家の場所知らないんですけど!?」

「地図ならある。そして、うちの学園は本来ならバイト禁止。それを黙認してる理由は、分かるな?」

「ぐ……」

「俺たちは一蓮托生だ。というわけで頼んだぞ」



 渡された地図を見るが、どんどん学園から離れている。


 ここ草木ヶ丘市はかなり大きな都市であり、市内を電車が行き来するほど。電車通学をしている生徒も少なくないのだが……

「いや、にしたってもう1時間は歩いてるのに……結局バイト休む羽目になったし」

 また次の日に、とも一瞬考えたが、大切なものかもしれないし、何より頼まれたのは今日だ。とにかく早く見つけなければ帰りも遅くなってしまう。



 その時だった。


 突如鳴り響く重い銃声。遅れて響く爆音。

 草木ヶ丘で生きていて初めて聞いた殺伐とした音。しかし桜は何か嫌な予感を察し、音がした方向へと走り出した。関わらない方がいい、知らないふりをしよう、という考えは不思議と浮かばない。まるで体が引き寄せられるように音の方向へと走る。


 曲がり角に差し掛かった時、

「ああぁぁぁっ!!」

 悲鳴と共に横から吹き飛ばされてきた人影。反射的に受け止めようとするが、あまりの勢いに桜も一緒に倒れこんでしまった。

 目に入ったのは、先程まで隣にいた少女だった。

「え、い、忌魅木さん!? 何があったのさ!?」

「貴方は……!? 早く逃げなさい!!」

 学園で見た時とは違い、必死の形相で訴えかける蒼葉。


「プラグローダーを、譲渡しなさい」


 金属がアスファルトを叩く低音、妙に無機質な声。

 桜が立ち上がると、その正体が見えた。


 幾何学模様が描かれた球面状の頭部、純白で統一された鎧、右腕には筒状の物体が取り付けられ、そこから翠色のスパークが散っている。


「何だあれ……!?」

 桜はすぐさま蒼葉を自らの背に隠れさせる。しかし、

「邪魔!! 早く逃げろって言ってるでしょ!!」

「いたっ!?」

 蒼葉は手にしたアタッシュケースで桜の膝を小突き、強引に押しのける。


 そして懐から取り出したのは、少女が持つにはあまりに殺伐とした拳銃だった。

 すぐに発砲するが、ロボットには傷一つ付かない。


「油断してた、こんなに早く嗅ぎつけられるなんて……!」

「ちょっと、あれ何なんだ!? プラグローダーって何!? 君は一体……」

「うるさい!! 一般人は……」

 直後、謎のロボットは右腕から光弾を発射。2人の足元に着弾する。


「うわっ!!?」

「ひゃあっ!!?」


 宙を舞う2人の身体。蒼葉の手から離れたアタッシュケースは地面を転がり、その中身を吐き出した。



 ケーブルが剥き出しになった箱状の物体が取り付けられた腕輪と、1枚のチップだった。

「しまった……!!」

 蒼葉はすぐに拾いに行こうとするが、ロボットが腕から放つ光弾の威嚇射撃が飛び、立ち上がることが出来ない。


 謎のロボットはゆっくり歩み寄り、腕輪とチップを拾いあげる。

「返しなさい……!! それは、私達の……!!」

「プラグローダーと、チップを回収。これより、帰投すーー」



「させない!!」



 その時、桜はロボットの脇へ肩からぶつかった。一瞬揺れた隙を突き、腕輪とチップを強引に奪った。


「っ!? 貴方何してるの!?」

「いった……何だかよく分かんないけど、君がこれを大切にしてるのはよく分かった! 人の大事なものを強引に盗るのは許せない!!」

「馬鹿な事言ってないで早く逃げなさいっ!! 本当に殺される!!」



「任務、妨害を感知。妨害者を、排除する」

「典型的な悪役の台詞って感じだな、だったら…………蒼葉さん、これ借りるよ!!」



 桜は手にした腕輪を左手に装着しようとする。

「無理よ!! プラグローダーは適性がないと使えない!! 学園で調べた時は貴方に適性は無かった!」

「その時は、だろ! 今は分かんない!」

「失敗したら何が起こるか分からない! 死ぬかもしれない!!」

「どのみち俺がやらなかったら2人共死ぬ!…………あぁ、やれるさ、俺なら絶対にやれる!!」



 桜は腕輪ーープラグローダーを左手に装着した。



 《適性を確認中、適性を確認中》



 ロボットの右腕が再びスパーク。光弾が発射された。




 《適合率、84% プラグローダーの使用を許可します》

「よっし!!」

 飛来する光弾を間一髪側転で躱す。と同時に、プラグローダー上部のカバーが開く。

「適合……した……!? どうして……?」

「このチップを、この隙間に差し込むんだな? 何となくだけど分かる!!」

 チップを差し込む。すると、



 《PURE ARMER PLUG IN》


 電子音声と共に、心臓の鼓動音のような待機音声。それらが鳴ると同時に、桜はある言葉を思い出した。


 ーー 良いか、桜。誰かを守る時、何かを救いたい時、怖いものと戦わなきゃならない時が、いつか絶対男には来る。そんな時、ヒーローになれる魔法の言葉を教えてやる。こう唱えるんだ ーー



 桜の双眸が、金色に輝く。






「変身!!!」




 プラグローダーを閉じた瞬間、桜の身体に変化が起きた。



 《 英雄 物語の始まりを刻め The birth of hero!!》



 銀色のインナースーツが全身を包み、頭上に光輪が出現。それが体を通過した瞬間、胸部、肩、腕、膝、足を純白の鎧が装着された。

 そして頭部に、青紫色の天使の羽を模したアイレンズが迫り出し、輝きを放つ。



「さぁ、ヒーローの…………出番だぜっ!!!」



 続く

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