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第2話 分岐した運命+Selection of unawareness

 

「さて、ヒーローの…………出番だぜ!!!」


 桜は駆け出し、ロボットの頭部に右拳を叩きつけた。凄まじい衝撃と金属音が辺りに伝わる。ロボットは大きくのけぞり、地面に倒れた。そして、


「いってぇぇぇ!!!? 何だこれ、鎧の意味あるのかよ!?」

 右手に走る激痛を振り払うように叫び、地面を転がり回る。

 それを見た蒼葉は一瞬唖然としていたが、やがて呆れた様に叫ぶ。

「あのねぇ……!! いくら装甲が頑丈でも素人の格闘じゃスレイジェルにダメージは入らないに決まってる!! 少しは頭を使いなさい!!」

「スレイジェル? ってか頭、頭……そっか、武器、武器があれば……これとか!?」

 近くに転がっていた鉄の棒を拾い、桜は渾身の力でロボット ── スレイジェルに叩きつける。

 しかし鉄の棒はスレイジェルの頭の形にグニャリと変形しただけで傷一つ付けられなかった。

「あれぇ……?」

 そのまま胸部にスレイジェルのカウンターパンチ。吹き飛ばされた桜の身体がゴミ置場に叩きつけられる。


「あぁもう!! プラグローダーの横のボタンを押しなさい!!」

「横のボタン……これか!?」

 プラグローダーに取り付けられた《BLADE》のボタンを押す。


 すると手元に粒子が集合。凝縮し、一本の剣が生成された。

 峰には小さなブースターとスラスターが備えられ、その刃は美しいメタリックオレンジに輝いている。


《スラスターブレェイド》


「スラスターブレイド? これどうやって使……」

 眺めていると、ふと柄に取り付けられたトリガーを引いてしまった。


《フルパワー!! フルブースト!! スラスターブレェイド!!!》


 その瞬間、峰から炎が噴き出し始めた。

「うわ、うわっ、使い方間違えた!?」

「脅威の排除を優先。脅威の排除を優先」

 右腕を構え、桜を撃たんとするスレイジェル。


 爆炎を吐くスラスターブレイドに引き摺られ、桜は走り出す。そして徐々に速度は上昇していき、

「だぁぁぁっ!! やるしかねぇ!!」

 加速した一閃が、白い身体に刻まれる。飛び散る火花と共にスレイジェルの身体が仰け反る。

 更にスラスターブレイドに振り回される形で連続斬り。純白の身体に焼け焦げた痕を刻んでいく。

「ああああっ、ったく、使い辛いったらないなこの武器!!」

 桜は大振りの一撃でスレイジェルを突き飛ばし、スラスターブレイドを投げ捨てる。


「必殺技は!?」

「は?」

「必殺技!! なんかこう、あるじゃん! キックとか!」

「子供の玩具じゃないの!! 黙ってスラスターブレイドを使って戦いなさい!」

「なんかあるはず! 多分これガチャガチャやれば…………」


 桜はプラグローダーをひたすらスライドを繰り返す。


 すると、


《Now Loding……Now Loding……》


 待機音声が鳴り始め、拳に光が纏い始める。

「やっぱりあった、必殺技!!」

「[リンドウ]にそんな機能が……!?」

「え、リンドウ? ……まぁいいや、これで決めてやる!!」


「脅威、排除、排除、排除排除排除排除排除」

 黒煙を吹き上げながら、スレイジェルは突進する。


《Update complete!!》


「喰らえぇっ!!!」

 桜は大きく跳躍。光を帯びた拳をスレイジェルの頭部に叩きつけた。



 光はスレイジェルの中に吸い込まれていき、そして、



 身体が爆散。爆炎の中から飛び出した小さなチップが蒼葉の前に転がり落ちた。



「……やった」

 桜はプラグローダーからチップを抜き、変身を解除。やりきった体から力が抜けそうになるが、まだやらなければならないことがある。倒れている蒼葉の元へ駆け寄り、手を差し伸べた。


「大丈夫? 蒼葉さーー」


 だが待っていたのは、眉間に突きつけられた拳銃だった。

「…………?」

「助けられたのは事実ね。それは感謝する。だけど勝手にプラグローダーを付けた事についてはキッチリ話をつけなきゃならない」

「い、いや、それについては……ほ、ほら、2人とも助かったんだし……」

「そんな単純な事じゃない。……貴方は、何の因果か、どんな理由かは知らないけれども、プラグローダーに適合した。もう普通の生活には戻れないのを覚悟しなさい」

 ここまで言われてなお、桜の脳内は状況を理解出来ていなかった。


 蒼葉を助けなければ。そんな一心で行った行為。

 今更になって、山神の言葉を思い出した。



 ーー 人助けはほどほどに ーー



「だけど、こんな事になるなんて……」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 草木ヶ丘市の中心部には、巨大なビルが建っている。


 地上444m、30階建てに相当するビルは、周辺が厳重に警備され、撮影すら許されていない。一般人は外側から見ることしか出来ない。


 ビルの前の看板には、《ノアカンパニー》と刻まれていた。


 しかし天空まで伸びる荘厳な姿の塔は、市民達から親しまれていた。



 タワーの最上階。社長室と書かれた部屋の中に、2人の人影があった。


 1人は背の高い、初老の男。男が紅茶を入れたカップを机に置くと、もう1人の人影がそれを手に取り、唇をつける。


 その姿は蒼葉と瓜二つの、赤い目をした少女。不敵な微笑を浮かべた雰囲気は、17歳には見えない。



紅葉(くれは)お嬢様、先程蒼葉お嬢様から連絡が入りました。1人、客人が参られるそうで」

「そう? 蒼葉ったらもうお友達が出来たのね。良いことよ」

「お通ししてもよろしいので?」

「えぇ。寧ろ見てみたいわ。蒼葉の選んだ人を」


 少女ーー紅葉はクスクスと笑う。


「順調ね……物語は紡がれ始めた……フフフ……」




 ガードマンに固められた入り口は、蒼葉が顔を見せた瞬間にあっさり通され、エレベーターに乗り込む。

 表示される階が30階、最上階を示すと、扉がゆっくり開いた。



「ようこそ、ノアカンパニーへ」

「え"っ!?」

 目前の部屋から現れた少女の姿を見た時、桜は思わず声をあげた。

「え、えっ!? 何で!? 何で蒼葉さんが2人……?」

「……彼女は私の、妹」

 そう話す蒼葉は、紅葉から目を逸らしている。恐らく自らの左腕に付いたままのプラグローダーが原因だろうと察し、慌てて外そうとする。

 が、しかし、

「あ、あれ、外れない? 外れない!?」

「プラグローダーは任意に外せない。紅葉が持っているマスターキーを使うか、使用者が死ぬまでは」

「だってどうすんのさ風呂とか!? 絶対バイトとか日常生活に問題出るって!!」

「貴方が勝手につけたんでしょう!! 今更騒いだって──」


「心配なさらないで」


 すると、少女は微笑みながら桜の元へ歩み寄り、その手を自らの手で包んだ。

「初めまして。私はここ、ノアカンパニーの代表取締役を務めております、忌魅木紅葉と申します」

「あ、あぁっはっは……どうも……」

 冷んやりした感触。潤んだ宝石のような赤い瞳に見上げられ、桜の顔が真っ赤になる。

「熱でも?」

「い、いやいや……あまり、その、ね……あ、俺は日向ーー」

「日向桜さん。えぇ、知っていますとも」

「……え? 何で?」


 紅葉は手を離すと、指を鳴らす。


 すると部屋から初老の執事が現れ、1台のノートパソコンを開いて見せた。

「貴方がプラグローダーを用いて戦闘を行ったのは既に調査済みです。何しろそれは、まだデータ収集も兼ねたプロトタイプ。あくまで適合者を見つけるのが仕事の初期型。適合したらこちらにデータが送られる様になっていましたので」

「……俺、処罰とか、あるんですかね?」


「まさか!! 貴方は、私の最愛の姉を守ってくれたヒーローではないですか!!」


 紅葉は突然声を張り上げる。

 と同時に、蒼葉の表情が歪んだ。


「ですが、貴方の人生を歪めてしまった責任を果たす責任が私達にはあります。ですから、これからは貴方の私生活を管理させてもらいます」

「か、管理?」

「そんなに身構えないで下さいませ。別に囚人の様な扱いをするわけではありません。貴方の生活全て、高水準なものを用意しています。ですので何も心配はーー」


「それって……バイトとか、学校はどうなるんですか?」


 桜の表情が陰る。

 それを見た紅葉は不思議そうに首を傾げる。


「えぇ、勿論やめて頂きます。ですが別に構わないのでは? 私達の管理下で人並み以上の生活を送れるのなら」

「そんなの、動物園の動物じゃない」

「何か言った、蒼葉?」

 蒼葉がついた悪態に紅葉が反応すると、何も言わずに再び俯いた。


「……それは、なんか…………嫌です」

「あら、何故?」

「俺がバイトに行っていたのは、お金の為だけじゃない。誰かの為になりたい、助けになりたいから。だから今まで続けてきたんです。学校も……仲の良い友達とかと一緒にいる方が、俺は……」



「ふ、ふふふ……貴方、本当に正義のヒーローに憧れているんですね」

 見上げられた顔を見た時、桜は思わず震えた。


 笑顔。どこまでも純粋で、だからこそ、狂気を感じさせる笑顔。


「残念ですが、要求は受け入れられません。ですが分かりました。代わりに貴方を、プラグローダーの正規使用者に任命しましょう」

「ちょっと、紅葉!?」

「これからは蒼葉と共に、各地に出現する、《悪い奴等》を退治してもらいます。これなら貴方のしたい事も達成出来る。それと、ご友人に会うのならご自由にどうぞ。社内の誰かの監視下なら構いません」


 そして、紅葉は蒼葉に視線を移した。


「そういう訳で、桜さんにカンパニー内を案内しなさい、蒼葉チーフ(・・・・・)

「…………」


 しばらく蒼葉は睨んでいたが、やがて桜の手を引いてエレベーターの中に乗り込む。

「ちょっと、まだ話したい事が……」

 だが、無情にもエレベーターのドアが閉まる。



 隙間から、未だに紅葉の視線と笑顔が桜に向けられていた。



続く

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