第3話 幸せへの危機+Dangerous beast, sprinting
蒼葉が押したボタンはB5階、地下の最下層だった。ぐんぐんと下がっていくエレベーターの中、無言で並ぶ2人。
やがて耐え切れなくなった桜の方から話を切り出した。
「あ、蒼葉さんはーー」
「タメでいい。なんか同い年にさん付けされるの、気持ち悪いの」
「えぇ……」
ならばクラスにいた時も相当居心地が悪かったのだろうか。桜としてはどうにも慣れないが、本人の希望をのむことにした。
「蒼葉の方がお姉さんなんだよね? どうしてーー」
「どうして私が社長じゃないか?」
「あ、あ、うん…………」
またしても途中で遮られる。
「今時珍しいことじゃないでしょう? ただ紅葉の方に才能があっただけ。簡単な話」
「じゃあ蒼葉は何を?」
「それをこれから見せる。貴方にも関係あることだからしっかり教えてあげる」
と同時に、エレベーターのドアが開いた。その先には長い廊下。2人はまだ歩き続ける。
「……? ちょっと待って」
桜は立ち止まり、スマートフォンを起動。見るとそこには一通のメッセージが届いていた。
[エリカ:件名 今日の夕飯どうする?
本文:もしアルバイトがあるなら私達の家で食べない? 予定では肉じゃがです]
「肉じゃが……」
エリカは妹と2人で暮らしている。両親は幼い頃に行方不明になっており、今では両親の貯金を崩しながら、互いにバイトと部活を両立させて頑張っている。
どうしても弓道をやりたいと倒れそうになるまで働いていたエリカに、桜が弓をプレゼントしたのはいい思い出だ。
だが返信しようと思った矢先、蒼葉にスマートフォンを取り上げられる。
「あ! 何を……!?」
「しばらく預かっておくわ。変な事をバラされたら堪らないもの。……稲守エリカ、中々良いお友達を持ったものね」
「まぁ、小学生からの付き合いだし」
「それは置いておくとして……着いたわね」
目の前に立ち塞がる鉄製の扉。その隣にあるコンソールパネルにナンバーを打ち込むと、ゆっくり開かれた。
その先に広がっていた光景に、桜は目を疑った。
円筒状の培養器が無数に立ち並び、その中には先程戦ったロボット、そして謎の骨格標本が入れられていた。
「これは……!?」
「貴方が装着した強化外骨格、ブルームの製造場。別に好きに見ても構わない。興味があるなら、だけど」
「すっっっっっっげぇぇぇ!!! 秘密基地みたいだぁぁぁ!!!」
大声を張り上げ、桜は円筒状の培養器に張り付く。周りの研究員達が冷たい視線を送るが御構い無し。初めて水族館に来た子供の様にはしゃいでいた。そんな桜の様子に、蒼葉は頭を抱える。
「あんな子供にプラグローダーを渡す事になるなんて……」
「あれ? これは……」
桜はある二本の培養器を見て立ち止まる。
それらは共通して、二本の培養器と接続されていた。だが一方の培養器にはロボットのみ、もう一方は拳大の大きさをした黒い塊のみが入っている。
それぞれのチップは未だ汚れのない銀色である。
「新たに開発しているコネクトチップ。まだ未完成だけどね」
「空いている方の培養器に、足りないものを入れれば完成する?」
「えぇ。その為には…………っ、ちょっと待って」
蒼葉は話を打ち切り、通知音がなったスマートフォンを起動する。しばらく目を通した後、桜の元へ駆け寄った。
「ジェノサイドの出現を確認した! 早く現場に行きましょう!」
「はい!? ジ、ジェノサイド!? って何それ!?」
「説明してる時間はない! 貴方友達がどうなってもいいの!?」
「……どういう事!?」
「ジェノサイドの出現場所は……草木ヶ丘学園」
「学園に!? 確か、まだ学園には帰ってない生徒がいるんじゃ!?」
時刻は19時。
とうに下校時間は過ぎていたが、エリカは部活の弓道部で掃除や片付け、弓道場の鍵の返却をしていた為にまだ学園内に残っていた。
「早く帰んなきゃ。でもな、夕飯の食材買って行った方が良いかな…………にしても」
エリカはメッセージを確認する。既読のまま、桜から返事は来ていない。普段はきちんと返してくれるのだが、忙しいのだろうか。
桜の事を考えていると、別の事も気になり始めた。
忌魅木蒼葉。今日来ていた転校生。確かに振る舞いは礼儀正しく、誰の目から見ても優等生だった。
だが、何故だろうか。この人には何となく裏がある。そう感じてしまった。昼休みの出来事で察したわけではない。エリカ自身の勘である。
(って、また勘に頼っちゃってる! ダメだってば、何となくで人を勘ぐるなんて最低だよ!)
ともかく、家に帰らなければならない。今日の夕食当番はエリカなのだ。早くしなければ家族がお腹を空かせてしまう。
校門に差し掛かった時だった。
何か嫌な気配を感じ、咄嗟に振り向く。
「グヌギギギギィ…………キキキギギギギギギィィィ!!!」
「っ!?」
突如突き飛ばされ、エリカの身体が宙を舞った。そして地面に叩きつけられる。
視界が揺らぎながらも何とか立ち上がろうとしたが、やがて意識は暗黒の中へ消えた。
続く




