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第77話 英雄の極光+With that wing I will reach a loved one.

 

 リンドウが一歩踏み出した瞬間、世界の空気が震える。


 ノアは知らずうちに一歩後ずさっていた。多数のローダーを取り込んだ自身ならば、コネクトチップ7枚程度の力など語るに及ばない筈だというのに。

「またか……またピュアチップが……!」

 一度分身を自らの中に取り込む。しかし底の見えないリンドウの力に対する危機感は消えない。

「けど分からないだけ……それだけだ!」

 灰色の炎が地を駆ける。神々しいリンドウを汚すべく纏わりつく。しかしリンドウがもう一歩踏み出した瞬間、炎はかき消される。

 歩みが止まる。その瞬間ただならぬ気配を察し、ノアは背後へ右腕を振り抜いた。


 転移していたリンドウが打ち出した拳と衝突。衝撃波が辺りを伝わり亀裂を走らせる。しかし拮抗したのは一瞬。

「ウッ!?」

 ノアの腕が弾け飛び、同時に氷の壁へ叩きつけられた。

「一体、何が起きて……?」

 更に次の瞬間、眼前へ転移したリンドウの蹴りが直撃。壁が砕け、地面へ落下するノア。更なる追撃は高密度に凝縮させた炎で防いだ。

「こんな事、あり得る筈がない! ただの1匹のジェノサイドがここまでの力を得る筈が!!」

「1人じゃ決して辿り着けなかった」

「でも所詮、破壊しか出来ない力!! 自分の意にそぐわないものを破壊する、それが君の辿り着いた正義って訳だ!!」

「この力が破壊しか出来ないのか、それを今から示して見せる」

 リンドウの《セブンスローダー》が、触れていないにも関わらず展開。5本のコネクトチップが中心のピュアチップと接続する。


《Hope, Affection, Justice, Brave, Temperance》


《Fifth Loading!!》


 ディザイアス、アフェイク、ジャスディマ、ブレイブ、テランスの力が重なった時、リンドウの身体が光となり、ノアの身体の中へ潜行した。

「っ!? 何処だ、何処に……!?」

 無限ともいえるデータの海。その中を駆け巡り、リンドウは彼女・・を探す。彼女はノアにとって核とも呼べる存在。霧散した状態でデータを保存している事はない筈だとリンドウは確信していた。

 そしてその予想は的中する事となる。

「エリカ!!」

 輝く手を伸ばした先には、小さな灰色の光を抱きしめて目を閉じているエリカがいた。桜の呼び声、そして光によって、エリカの目が小さく開く。

「迎えに来た!!」

「さ……くら……」

 エリカも手を伸ばす。だが灰色の光はそれを拒むように膨れ上がり、リンドウを呑み込もうとする。リンドウはそれが何か理解していた。灰色の光を黙って見つめていると、

「大丈夫……怖くない……怖くないよ」

 エリカが光に語り掛ける。すると光は小さくなっていき、エリカ達から離れていった。悲しげに見送るエリカの手を引き、リンドウはデータの海から帰還する。


「う、が、がはぁっ!!?」

 帰還したリンドウの腕に抱かれているエリカを目にした瞬間、ノアは苦痛に悶え始めた。

「エリカ!?」

「稲守、エリカ……!?」

 目を見開く山神と彼岸。そんな中、リンドウの元へ駆け寄る小さな影。

「エヴィ、エリカの事、お願い」

「……うん!! 約束、守る!!」

 自分よりも高い背丈のエリカを抱き、エヴィは涙交じりの笑顔を見せる。

「何てことを……何てことをしてくれたんだ、日向桜ぁぁぁ!!!」

 小さな火の粉を燻ぶらせながら叫ぶノア。同時に灰色の炎剣で斬りかかる。それすらリンドウは半球状のバリアを展開し、2人を余波から守る。

「お前は前に言った。エリカのデータを残しておくって。それは正確には少し違う。お前はエリカのデータを()()()()()()()()。そうじゃなきゃお前は……」

「ぐ、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………!?」

 ノアの身体が蜃気楼のように揺らめき始める。

「エリカの身体を依り代にしていたインフェルノコードは、不安定になる」

 リンドウの声は何故か悲しい響きを含んでいた。その音が、ノアの思考に理解の出来ない何かを生み出した。

「君が……そんな、憐れむような眼で……私を見るな!!!」

 持ちうる限りの力を込めて振るった拳ですらバリアを砕けない。

「キョウカロータス、何をしているんだい!?」

「……っ、わ、私は今、一体……?」

 呆然と立ち尽くしているキョウカロータスに気を取られた隙をつき、リンドウはバリアを解除。ノアの拳を打ち返し、マントを翼に変えて打ち据える。右肩の鎧が砕け、灰色の火の粉を散らしながら虚空へ消える。

「魂は軸。今のお前達はそれに気づいていない」

「私に、魂などという不完全なもの存在しない!!」

「俺はお前の中を見た。お前にももうある筈なんだ。人間と同じ、魂が」

「戯言ばかり……この、程度の、き、ず……っ?」

 鎧は再生しない。正確には再生しようとしているのだが、燻ぶる様に揺らめくだけで形を取れていない。

「……っ、…………っ!?」

「ノア、これで終わりにする」


《Hope, Affection, Justice, Brave, Wisdom》

《Fifth Loading!!》

 ディザイアス、フェイザー、ジャスディマ、ブレイブ、ウィズードのチップを接続。翼を羽ばたかせて飛翔し、1本の槍を出現させる。

「何が、終わりだ……!!」


《Code Change Inferno》


 ノアもインフェルノローダーの両面をスライド。灰色の翼の間に生じた炎の球体が太陽のように輝きを放つ。

「私の完全な理想郷を、君の身勝手な正義で潰させはしない!!」


《Inferno Loding!! Falling Finish!!》


 炎の球は急速に肥大化し、射出された。リンドウを焼き尽くさんと迫る中、彼も槍の力を解き放った。


《Final Update Complete!! Aurora Finish!!》


 槍は火球と衝突。燃える炎の中心を槍は穿ち、かき消す。流星のように輝く槍はノアの胸の中心へ突き刺さった。

「がっ、はっ!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 羽根を散らし、一気に急降下。右足に光を収束させ、ノアの胸に突き刺さった槍を更に打ち込むように蹴りを放った。

 翼が再びマントへ戻り、静かに地上へ降り立つ。リンドウが静かに見つめる中、ノアは呪詛の言葉を吐いた。

「認めない……君の正義なんて……人間の、魂なんて…………」

 全身を包む光が収束。やがて、


 灰色の爆発となり、灰塵と化した。


「……っ!」

 最早言葉すら出ない睡蓮。思考が掻き乱されるようなノイズが頭の中を走り回る。自らが崇拝してやまないノアの完全な敗北、そしてノアの中から現れた少女の姿。全てが彼女を乱していた。

「睡蓮……エリカはここにいる。もうノアに従う必要は……」

「う、るさい!! まだノア様は消えていない! 次は必ずお前達を消す!!」

 睡蓮は姿を消した。変わり果てた彼女の姿をエリカが見ていないことは救いなのか。それは桜にも分からなかった。

 だが今は、

「エリカ!! おい大丈夫かよ、傷は……」

「しー! お姉ちゃんは寝てるの!」

「わ、分かったから、んな睨むなって……」

「エヴィ、もう一つの約束、いい?」

 歩み寄るリンドウの手に、エヴィはあるものを乗せる。それはエリカの妹、セラのデータが封じられたコネクトチップ。

 リンドウの手に乗った瞬間、チップは霧散。代わりにセブンスローダーから溢れた粒子が、人の形を成していき、やがて、

「あ……ぁ……セラ……!」

「うぉ、ちょ、危ね!」

 後ろ向きに倒れそうになったセラを山神が抱きとめる。エリカと同様、まだ深い眠りについている。

「あり、がと……! ありがとう!」

「にしても、すげぇなそれ。こんな事出来るなんて……」

 変身を解除した桜は2人に笑みを送り、倒れた蒼葉の元へ行く。

「蒼葉、立てる?」

「立てるように、見える、かしら?」

「分かった」

 倒れた蒼葉を背負う。耳元に寄った蒼葉の口からは、落ち着いた呼吸が感じ取れる。

「やっと、ね」

「やっとって?」

「エリカ達を、取り戻せた……あとは……」

「うん。睡蓮だけだ」

「ん。……最後は、みんな一緒に……」

 桜は蒼葉の願いに頷く。きっとそれが不可能だという事を彼女は分かっている。だがそれでも、諦めたくなかったのだろう。

 その思いは桜も同じだった。


「怪我の具合は……問題ないようだな」

「ふふ、心配してくれるんだ」

「当然だ。お前がいなければノアは倒せない。それに俺はもう約束を反故にはしない」

 だが思っていたような反応と違ったのか、紅葉の表情は少々不満げだった。そんな紅葉の心情を察していない彼岸は、彼女を抱く手の中に握ったチップを見つめる。

 プラウダのコネクトチップ。リンドウがノアを撃破した時、ノアの身体から排出されたのだ。

「日向桜の新たな力のおかげでコネクトチップが手に入った。最後の1つは……」

「……」


 覚悟の時は迫っていた。



続く

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