第75話 時は満ちていく+She can't say goodbye yet
「あぁ…………ジャスディマも消えたね。残るはエヴィだけ、か……」
空を見上げ、天へ登る白い粒子を見送るノア。その側には自身と瓜二つの顔をした分身が佇む。
「そして残るローダーは3つ。ジャスディマ、エヴィ、ストラ……ふふ、完全な姿が楽しみだけどその前に……」
胸元をはだけさせると、中央に灰色の渦が現れる。黒いチョーカーを身につけた分身体が、渦へヘブンズローダーとヘルズローダーを投入していく。
「お試し、ぅ、もぉ、して、ぁ、置かなきゃ、ね……」
テランスの時は自我が崩壊していたが、インフェルノローダーの記憶領域は他のローダーよりも桁違いに深い。
「なるほどぉ、これが、君達が今まで感じてきた、記憶、ふふふふふふ、学習成果ぁ!」
やがて最後のローダーを取り込んだ。インフェルノローダーが灰色の電光を走らせ、ノアの瞳が灰色に輝いた。
「ぁぁぁ……ふぅ。確かに力は増したけど、やっぱり物足りないな」
舌で唇を舐め、ノアは指先から炎を発した。
「理想郷はまだ遠いね……全然、届かないや」
テーブルの上に、桜達が所持している物が並べられる。
ジャスディマのヘブンズローダー、ストラのヘルズローダー。
ディザイアス、フェイザー、アフェイク、ジャスディマ、ブレイブ、テランス、ウィズードのコネクトチップ。
ラスレイ、リーディ、ロースグ、ストラ、グラニーのコネクトチップ。
「こうして見ると、凄いな」
「日向桜と山神真里が持ち帰った分でコネクトチップはかなりの数が揃った。アースリティアのものに関しては全て揃ったが……」
全員の視線が蒼葉と紅葉、そしてサーバーセムへと集まる。セムにはこれまでなかった、接続部を備えた謎の装置が取り付けられていた。
「これを使えば、ノアの本体である衛星を破壊出来るものが完成するのか?」
「そうね。ただ、衛星の破壊には2つのローダーが必要で、今の私達にはその内の1つしか作れない」
「1つだけ?」
山神の疑問に答える様に、蒼葉は7つのコネクトチップを並べられた中から選別した。
選ばれた7つを見た桜の目が見開かれる。
「アースリティアの、コネクトチップ……?」
「問題はその2つを扱えるのが桜君か彼岸しかいない事と……まぁ、もう1つは今論ずるべき問題じゃないか」
「それって……?」
「今決めなければならないのは、アースリティアのコネクトチップから出来る切り札の1つをどちらが使うか、よ」
桜の疑問をはぐらかすと、紅葉は桜と彼岸を交互に見つめた。
「日向桜が使うべきだ」
だがその問いは、彼岸が即答した。
「彼岸……」
「理屈で考えるなら彼岸じゃねーのか? スレイジェルってアースリティアと近いんだろ?」
山神が尋ねると、彼岸は至って冷静に返した。
「むしろ逆だ。あまりに力の系統が偏り過ぎてオーバースペックを引き起こす可能性がある。ならばジェノサイドとしての能力が高い日向桜の方が良い」
「なるほどなぁ」
「……桜は、それでいいの?」
「うん。俺からも使わせて欲しいって頼もうと思ってた」
「分かった。……早速始めましょうか」
蒼葉は桜からプラグローダーを外し、中にピュアチップを装填。セムの中央へ接続した。
そしてそれを囲む様に配置された接続部へ、アースリティアのコネクトチップ7つを嵌め込んでいく。
「1つがアースリティアのものということは、もう1つはジェノサイドのものか」
「行方が分かっていないのはプラウダって奴のものだな。死んでなきゃ……いや、もうノアが持ってるか」
最後の姿を思い出した山神は力無く呟く。それを見た彼岸は立て掛けていたブレイクソードを手に取り、外へ出て行こうとする。
「ならやる事は決まった。ノアからプラウダのチップを手に入れる」
「待て待て、俺も行くって……んぉぉいてぇぇ……顔面がいてぇ……」
「……。蒼葉、私達も行きましょう。山神君は止めても行くだろうし」
「はぁ。まぁ、それもそうね」
「なんか最近俺馬鹿扱いされてると思うんだけど、桜どう思う?」
「いつもの山神だと思ってるけど何か変わった?」
「それ前から馬鹿だと思ってたって事!?」
驚愕と怒りの混じった叫びを上げる山神を、蒼葉と紅葉が押し出す様にして出て行った。
急に静かになった空間。物寂しくなった桜は仮眠用ベッドの下にいるもう1人の仲間に声を掛けた。
「エヴィ、寝てる?」
「……寝てないよ」
下から這い出てきたエヴィは言葉と裏腹に眠たげな眼差しをしている。桜が彼女の着崩れした服を直すと、少し照れた様な笑みを浮かべた。
「……? エヴィ、泣いてた?」
「っ、泣いて、ないよ」
エヴィは言うものの、桜は彼女の目が赤く腫れている事に気がついていた。強がりだと分かり、今度はさりげなくアプローチを図る。
「そうか〜。でも俺、今凄く寂しいんだよなぁ。エヴィ、何かお話してくれないかな〜」
「う……だったら、話して、あげようかな……」
接していく間に、桜は過去にエリカが彼女を庇った理由が分かってきた。こうして話していれば普通の人間と変わらないのだ。だがそれで彼女が今まで人間を襲った過去は消せない。
ノアを倒した後は、彼女達ジェノサイドがどう生きていくかも考えなければならないのだろう。
「……エヴィね、怖い」
「ノアが?」
「ノアもだけど……このまま、エリカお姉ちゃんとセラが、戻らなかったらって……嫌だ……」
握り締めていたチップを見つめる。セラの魂が刻まれたコネクトチップだ。
魂だけではセラは戻らない。肉体と記憶のデータはノアが持っている。即ちノアを倒さない限り取り戻せない。
「大丈夫。ノアは俺達がなんとかする。2人も助ける。エヴィは2人の帰りを待っていて ──」
「でももっと嫌なのは…………2人の為に死ぬ勇気が、出ない……!!」
それを聞いた桜の肩が震えた。
蒼葉や紅葉が口にしなかった問題。エヴィのコネクトチップをどうするか。それが無くては衛星を破壊する為の手段が揃わない。
しかしまだ彼女は生きている。そして何より、エリカとセラの大切な人である。
ジェノサイドではあるが、同時にエヴィはまだ子供。薄々察してはいたが、こんな過酷な選択を強いねばならない。
「怖いよぉ……! でも、エヴィがやらなきゃ、エヴィが……2人を、ぅぅ、ぁぁぁ、ひくっ、ぅぅぅ……!!」
「エヴィ……」
仕方がない。死ぬ必要なんかない。そんな肯定も否定も桜にする資格はない。
「やだ、やだ、エリカお姉ちゃんと、セラと、みんなといたいよぉ! 今まで悪い事した分、良い事、しなきゃいけないのに……うぁぁぁぁぁぁぁ、ぁ、うぁぁぁん!!」
どうしようもなくなったエヴィの身体が桜へ縋り付く。桜も優しく抱きしめ返し、頭を撫でる。
データの集積、そして構築を行なっているセムに接続したプラグローダーとピュアチップが、僅かに光を散らした。
《新たなデータの発生を確認。ローダー構築用データとして組み込み、ローダー再構築を行います》
セムが発した小さなシステム音声は、2人の耳には入らなかった。
続く




