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第74話 継承+Beyond tears

 

 正義とは何か。



 この世に自分の存在を認識した時、次に頭に浮かんだのはそれだった。

 いくら自分の中で問い続けても、その答えを見つける事は叶わない。何故、正義の意味を組み込まなかったのか。

 ジャスディマは同じ時に生まれた仲間達に、正義の意味を尋ねた。


── 正義? ジャスディマ、正義とは知識を得る事だよ。知識があれば、間違いを犯さないからね ──


── 正義、ですか。正義とは、節度を守る事。私はそう考えています ──


── 正義とは、絶対的な力、存在を信じ、崇め、己が力を捧げる事。それが唯一絶対の正義である ──


── 正義はねジャスディマ、人間を愛して、慈しむ事よ。愛に偽りはないもの! ──


── 正義は儚き理想。叶わず、しかして捨てられぬ、脆く高潔な夢 ──


 信じる正義は皆、違っていた。しかし誰もが皆、それが絶対的に正しいものだと信じて疑っていた。

 その中でただ1人、ジャスディマと同じく揺らいだ答えを持つ者がいた。


── 正義、か。僕もよく分からないよ ──


── お前は勇気、だったか。それがお前の正義じゃないのか? ──


── 勇気だってそうさ。他のアースリティア達だって、明確な答えを知っているわけじゃないと思う ──


── 何故そんな事を?──


 尋ねられたアースリティアは少し困った様に俯き、やがて小さく笑った。


── 機械みたいな解答をするなら、それを決める為の判断材料が多過ぎるから。でも人間らしい解答をするなら ──



── 心があるから、じゃないかな。きっと ──



 心があれば、信じた使命は揺らいでしまうのか。ならばそれは不要なものではないか。

 かつてのジャスディマには、ブレイブの言葉の真意が理解出来なかった。だからこそ、あのような結末を迎える事となった。


 せめてもの償いだったのか、彼の行動を理解したかったからなのか。それすら分からないままに桜とエリカに触れ合い、慕われるようになり、本当の家族の様に生きた。

 2人の前から姿を消したのはきっと、他のアースリティア達に感づかれそうになったのとは関係ない。ジャスディマは怖くなったのだ。

 人間らしくなっていくことが。ブレイブの様になっていくことが。



 リンドウの拳とジャスディマの拳がぶつかり合う度、2人は地面に倒れ伏す。立つことはおろか這うことすら本来不可能な身体で、それでもまた立ち上がる。彼等を奮い立たせるのは何物なのか。

「桜…………!!」

「ジャス、ディマ…………!!」

 再び走り出し、拳をぶつけ、倒れる。また立ち上がり、狙いの定まらない連打を叩き込む。戦いとは呼べない、子供同士の喧嘩の様な弱々しい拳の応酬。

「俺は……お前達を、お前達を庇ったブレイブを、理解出来なかった…………果たすべき使命を、捨てる程の価値が、人間にあるのか…………」

「……!」

「お前達は、人間は、弱い……! ブレイブ程の、存在価値はない! だが、だからこそ、何があっても俺が守らなければならないと……どんなに、非道な手段を使っても人間を守る、それが俺の正義だと信じた!」

 ジャスディマの一撃がリンドウを吹き飛ばし、地に背中をつけさせる。

「ブレイブが命を賭して守ったお前達が、俺に正義を与えてくれたんだ!!」

「そんなの…………俺だって!!」

 すぐに立ち上がったリンドウの一撃がジャスディマを吹き飛ばした。腕に装着した盾は既に亀裂が大量に走り、少しずつ破片となっている。

「俺はお前の背中を見て、ヒーローになりたいって思った!! 俺とエリカを守ってくれたお前みたいになりたいって! だから今まで生きてこられたんだ!」

「だが俺の正義は幻想だった! お前達人間にとって俺の正義は偽りだったんだよ!!」


「正義に、真実も偽りもあるもんかぁ!!!」


 2人の拳が、2人の頭を捉えた。倒れないまま、時が止まった様に硬直する。


「アースリティアも、スレイジェルも、ジェノサイドも、ノアだって、自分の中の正義を貫いて生きてる!! 大切なのは、自分の中の正義を信じる事だって!! だからお前も自分を疑うな!!」

 時が再び刻み始める。光の欠片を散らしながらジャスディマがよろめき、膝をついた。

「信じても、良い……? 間違って、いるとしても……?」

「間違っていたら、そばにいる誰かが気づかせてくれる。……そうやって生きていくのが、人間なんだと思う」

「…………そうだったのか。ブレイブ。今、ようやくお前が言う、人間らしさが理解出来た、気がする……」

 槍を支えに立ち上がった瞬間、槍は雪が溶ける様に消えた。同様に粒子となっていく自身の手をジャスディマは安らかな面持ちで見つめている。

「アフェイク……俺を憂いてくれた事、本当に感謝している…………2人とも、最後の頼みだ」

 自らのコネクトチップを抜き、2人のチップと共に右手に握り締める。散りゆく光の粒が、ジャスディマの願いに集っていく。

「俺の弟に、礼を届けさせてくれ!」

「…………ぁぁ、ぁ、ぁぁぁぁぁ!!!」

 何もかもを悟ったリンドウは、桜は、絞り出す様な叫びを上げ、シールドを変形させる。


 理想を守るシールドから、理想を貫くガントレットへ。ひび割れながらも気高く光を放つ姿へ。



「桜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ジャスディマァァァァァァァァァァ!!!」




 真っ白な世界の中。


 桜とジャスディマは背中合わせで立つ。振り返ろうとした桜だったが、直前でそれを止めた。

 今は振り返る時ではない。

「俺の望みは、正義という言葉の答えを知る事だった。お前と出会って、お前と戦って……答えを知る事が出来た」

「俺が出した答えで、満足だったのか……?」

「プラグローダーを手にして、自分の運命を知って、受け入れて、ここまで来た。これ以上に俺が納得する答えはもう出ないだろう」

 見なくても桜には分かっていた。ジャスディマの身体が消えていく。声が遠くなっていく。

「お前は1人でも、いや、仲間と共に歩んでいける。……あの時とは違う。黙って行ったりはしない」


 分かる。


 ジャスディマの右手が上がる。拳を握った右手が。


「っ! っ、ぅ、っ…………!!!」


 2度目の別れ。涙を呑み、震えながらも、自らの右手を上げた。



 2つの右手の甲が、重なった。



 白い世界が消えると、雪の様な結晶が空へと向かって行った。握り締めたガントレットは欠片を大量に溢しながらも、砕けてはいない。

 桜の足元にはヘブンズローダーといくつものコネクトチップが静かに散らばっていた。彼が戦いの中で手に入れたものだろう。中には友であったアフェイクやブレイブのものも混じっている。

 そして桜の手の中には温かい何かが握られていた。

「……っ!!」

 握っていたものを見た瞬間、桜は押さえていた涙を全て溢していた。


 ジャスディマのコネクトチップ。



「ぁ、兄、さん……兄さん…………ぅぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」



 この喪失は今までとは違う。彼の、ジャスディマの魂を引き継いだ。

 託された以上、必ずエリカを取り戻す。桜の心は涙を無理矢理堰き止め、ヘブンズローダーとコネクトチップを拾い上げる。


 涙を拭った後に現れた桜の目は、ジャスディマと同じ揺るぎない決意が溢れ出していた。



続く

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